2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

理数系科目における探究活動の新たなあり方を目指して-ICT 機器の活用によるアウトプット型学習活動へのアプローチ-

実施担当者

菅原 健久

所属:宮城県多賀城高等学校

概要

1.はじめに
 昨年度,中谷医工計測技術振興財団の支援により電子黒板および分光光度計を購入し,これまでの教師から一方向的であった教育活動を,ICT機器を活用することで,生徒相互あるいは生徒と教員の協働的・双方向的な授業スタイルへの変換を目指す試みを実践してきた。ICT機器を用いたデータ収集等を通して,科学的に分析,考察する態度や能力を養い,理解を進める授業スタイルを目指し,その教育的な効果を確かめることができた。
 しかし,機材等の不足もあり,当初想定していた実践内容に対し,十分な実験データ等を得られず,生徒の考察の深まりに課題を残した。また,受動的な学習形態が多く,学習・実験・考察によって得た知見を能動的にアウトプットする活動が少ないことも課題であった。そのため,今年度は,より生徒が課題に対して主体的に活動計画,分析等の実践から考察,発表までを行うことができる環境整備を目的とした。
 理科では探究活動,課題研究を繰り返し行うことが生徒の総合的な学力向上へつながるとの報告が多い。また数学では自分の考え方を相手に伝えることや相手の考えを聞くことで,思考が整理され,より論理的な思考が深まるとされている。
 これらの過程においてデータロガー等のICT機器を用いることで,課題設定の多様性,実験・実証機会の増加,表現方法と発表機会の増加,モデル化やシミュレーションによる自分の考えについての実証などが期待できる。時間的制約のある教育活動の中で,アウトプット型の活動を充実させていくためには,ICT機器の活用が必要不可欠となっていく。


2.iPadを用いた実習
 今年度から,高大連携の一環として,宮城教育大学COC事業によるiPad40台を借用し,教育実践にあたる取り組みがスタートした。同時に,人的なサポートとして週に数日アドバイザーを派遣していただき,様々な教育活動の中での活用方法を模索している。
 その取り組みの中の一つに,野外実習での活用がある。本校では2学年希望者が野外実習を行っている。この活動では,海洋研究開発機構の小俣珠乃博士(実施場所:塩竈市野々島)や東北大学学術資源研究公開センターの西弘嗣教授,高嶋礼詩准教授(実施場所:女川町牡鹿半島)の御指導をいただいている。iPadを利用すると,生徒相互にデータの共有が簡便にできる(エアドロップ)。これは屋内だけではなく,屋外においても可能であり,写真やスケッチといった情報を共有しながら,学習を深めていくことが可能である。また,その場でプレゼンテーション資料を作成することも可能である。学習したことをすぐにアウトプットする準備が可能であり,時間的な効率だけではなく,記憶が鮮明なうちに深化させることが可能であった。特にアウトプットに関しては,AppleTVの活用や昨年度助成により購入した電子黒板との相互効果など,活動の幅を広げられる強力なツールである。


3.ICT機器とポスタープリンターの活用
 前述のiPadの活用により,アウトプットの機会が増え,能動的な教育活動への転換が図られてきた。しかし,より多くの生徒に対して同様の効果を期待するには,時間や予算等の様々な制約が生じてくる。
 本校では,今年度から総合的な学習の時間の一環として,課題研究を1学年全体(281名)で取り組むこととなった。テーマ設定から発表活動までの一連の活動であるが,授業内で設定できた時間は8時間である(期間は10月から1月末まで)。
 課題研究ではグループ発表(70グループ)形式とした。アウトプット型の活動とするため,生徒全員がポスター発表を行った。限られた時間の中で,担当教員との添削指導などを繰り返すため,ポスター自体の製作時間の短縮が必要となる。そこで,次の①~③の方法を採用した。
①PCのワープロソフトを用いてポスター原稿を製作し,直接拡大印刷するグループ
②A3判の用紙に手書きで原稿を書き,その後スキャナでPDF化し,拡大印刷するグループ
③添削を受けた資料を基に,直接模造紙に手書きするグループ
 ①~③の方法は各グループと担当教員の間で相談して決めた。①は19グループ,②は49グループ,③は2グループであった。
 ICT機器の使用により,情報収集・共有・処理の活動において円滑に進み,生徒相互や生徒教員間の双方向性の協働活動の時間を確保できた。短時間ではあったが,密度の濃い学習活動になった。また,アウトプットさせる手立てとしてポスター発表を行ったが,今回の中谷医工計測技術振興財団助成金(以下 財団助成金)で購入させていただいたポスタープリンターのお陰で,準備時間が大幅に短縮され,通常の授業等に支障をきたすことなく,最大限の学習効果を得ることができた。
 また,校内だけではなく,県内の高校や近隣の小中学校との共催による発表活動などにも積極的に参加し,広く発表する機会を設けることができた。特に「みやぎサイエンスフェスタ」(宮城県教育庁高校教育課主催)でのポスターセッションでは,野外実習を基にした発表を行い,最優秀賞にあたる教育長賞をいただいた。発表経験を積むことに加え,その取り組みに対し評価をいただくことで,生徒のモチベーションも向上し,さらなる活動への意欲を感じることができた。


4.探究活動におけるデータロガーの活用
 理科的な探究活動では,数値データの収集とその解釈,考察が重要な活動要素となる。これらの活動に対し目的意識を高く持ち,根気強く取り組むためには,実験内容に興味関心を持ち,その有用性を感じることが最も求められる資質である。
 今回,東北大学未来科学技術共同研究センター次世代移動体システム研究会多賀城拠点と連携のもと,高校生自らが電気自動車を作成し,その物理的な特性についてデータロガー等を用いて検証,考察していく活動を行った。2学年の希望者を募ったところ,8名(男子3名,女子5名)が参加した。うち女子1名は文系大学への進路を検討しており,残りは理系大学進学希望者である。特に電気自動車ではモータ部分が重要であり,この部分に焦点を当て探究活動に取り組むこととした。そのため,財団助成金よりブラシレスDCモータとインバータのキットを2セット購入した。
このキットは,ブラシレスDCモータの構造と動作原理を体感して理解できるように,「モータのコイルを手巻き」し,「インバータ回路を半田付け」して組み立てるものである。多様な【制御プログラムの開発・試行】ができるようにソフトウェア開発環境も付属している。
 このキットでは,コイルの巻き方でモータの特性はどのように変わるか,制御プログラムでどのような特性が引き出せるのか,エネルギー回生の効果はどうか,などが定量的かつ体験的にわかるように,少し大きなモータとなっている(以上メーカーカタログより)。
 2セットのモータのコイルの巻き方を変えることで,モータの特性がどのように変わるのかを比較実験することとした。比較のための測定には,データロガーを使用した。本校にもデータロガーはあるが,測定レンジがこのキットの出力よりも小さかったので,東北大学のデータロガーを使用させていただき,電流・電圧特性について検討を行った。
 データロガーは数値データの測定条件を簡易に設定でき,すぐにグラフ化などができるため,データ解析するための時間がかからず,リアルタイムでの実験・情報収集・考察が可能になる。これらの情報を基に,生徒間の考え等を引き出し,変化をもたらす要因について再検証していくことが可能となる。また,測定レンジの小さいデータロガーについても,検討部分のモータ特性の検証実験(モデル実験)には使用することができ,大学の先生方に教えていただいたことを基に,後日再検証などをして,研究活動にあたることができた。
 これらの活動については,「つくばScience Edge 2016」において発表することで,さらにアウトプット活動へと繋げていく。


9.まとめ
 今回,様々なアウトプット活動に取り組むことで,生徒の主体的な取り組みへと繋げることができた。データ収集,考察への意欲的な取り組みと,発表にあたるための個々の準備が連動しており,大変効果があったと思われる。学校内の学習プログラムということで,時間的な制約等が多い中,生徒相互の高め合いがスムーズに行え,協同活動とすることができた背景には,ICT機器の活用と財団助成金による活動を支える基盤作り,そして研究機関や大学等との連携事業がある。
 昨年度の取り組みでの課題解決に向けて,大きく前進できたと確信している。今後さらに,科学的思考力を深めさせるための手立てを講じ,より効果の期待できる学習プログラムを目指していきたい。