2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

特別支援学級における科学教育の充実~楽しく分かりやすい、感動的な理科授業を目指して~

実施担当者

木村 智子

所属:福島県いわき市立小名浜第二中学校 教諭

概要

1.はじめに
 今年度の人事異動で転勤し、特別支援学級の担任になった。本校では、理科室が2つあるが、使用は普通学級が優先であり、特別支援学級ではなかなか使用できない状況であり、顕微鏡も古く、特別支援を要する生徒にとっては、ピントが合わせにくいものである。そこで、貴財団の助成金により、中学3年間の理科教育の中で、もっとも使用頻度の高い顕微鏡を購入し、特別支援学級に常備することで、理科教育の充実をはかって行きたいと考えた。光源付きで、レンズの直径も大きい顕微鏡で、はっきり見える環境を整え、理科の感動を伝えて行きたい。小学校も特別支援学級で過ごしてきた生徒は、初めて理科を学ぶ生徒もいるので、理科を学ぶ楽しさを伝えられるのではないかと期待している。
 また、デジタルカメラを購入し、顕微鏡で観察したものを撮影したり、実験・観察したものを撮影することで、スケッチが苦手な生徒や、記録が遅い生徒も、写真として結果を残すことができる環境を整えたいと考えた。何をするにも時間がかかりすぎることで、学習が遅れるようでは困るので、デジタルカメラの活用で、学習時間を確保し、学習の定着を目指したいと考えた。また、聴覚よりも視覚優位な生徒にとって、写真を用いての学習は効果が期待される。
 発明家のエジソンも発達障害であったと言われている。特別支援教育で、理科教育の原点を見つめ、理科教育の充実をはかり、発達障害を個性へと変え、才能を開花させたいと考えている。貴財団の助成金で、それが実現できるのではないかと考え申請し、今回助成金をいただけることになり、研究を深める機会を得た。


2.研究計画
7月中に助成金交付
8月中(夏休み中)に備品、消耗品の購入
9月(新学期)から年度末まで研究の実践年度末に研究報告
その後も備品を使用し、研究継続


3.研究の実際
 理科はものが大事である。モデルや模型でもよいが、実物にはかなわない。多くの実験や観察を取りいれ、たっぷりと経験を積ませた。ガスバーナーや顕微鏡はかなりの時間を確保できた。自分で火がつけられた喜びと自信に満ちあふれた顔は今でも忘れられない。顕微鏡では、新しい顕微鏡にわくわくしていた。そして、今回の助成金で購入した光源付きでレンズの大きい顕微鏡は、今までと比べものにならないほどきれいに見え、感動していた。支援員さんまでもが、きれいと言って、引き込まれていた。生徒達は、あきることなくいつまでもレンズをのぞいていた。繰り返し観察することで、自分でピントを合わせ、倍率を上げられるようにまで成長した。また、今回の助成金で購入したデジタルカメラで、顕微鏡で観察したものを撮影したり、実験・観察したものを撮影することで、スケッチが苦手な生徒や、記録が遅い生徒も、写真として結果を残すことで記録とした。また、理科室が使用できない場合でも、具体的な写真を提示することで、視覚に訴え、記憶と記録として結果を残す教育が展開できた。


4.授業例
①実験 ムラサキキャベツで酸性、中性、アルカリ性を調べよう
方法 ナイロン袋にきざんだ紫キャベツと水を少量入れよくもむ。ナイロン袋の汁だけを取り出す。10種類の液体に紫キャベツのしぼり汁を加えてみる。
結果 デジタルカメラで撮影し、レポートに貼る。
まとめ 水溶液の性質を判定する。
②実験 火山の噴火
方法 石膏、PUAのり、バーミキュライト、水、重曹を混ぜ容器に入れる。粘土で作った山をかぶせる。
結果 デジタルカメラで撮影し、レポートに貼る。
まとめ 火成岩をレポートに貼る。鉱物の色や形の違う理由を学習する。
③実験 炭をつくろう
方法 空きかんに炭にしたい物を入れアルミホイルでふたをし、針金で固定し、加熱する。
結果 デジタルカメラで撮影し、レポートに貼る。
まとめ 炭素を含む物質を有機物ということを学習する。


5.まとめ
 サクラの葉を持ち込んでスケッチさせるなど、実物にこだわり、実験、観察を通して理科を学ぶことが大切であることは、通常学級の授業と変わりない。知識の定着のために教科書を基本とし、問題演習を行うことも怠らない。しかし、特別支援学級での歩みはゆっくりであり、時として自分の無力さに嘆き、落ち込むこともある。高校入試を目指している生徒から、読み、書き、算がままならい生徒までおり、能力の違い、個に応じた対応に苦慮する。しかし、理科には、楽しさ、驚きや感動を伝える力がある。まずは、理科は楽しいということを伝え、生活に役立つ知識が少しでも身につけられればと願わずにはいられない。
 顕微鏡観察は、定規の5の見え方からはじまり、花粉の観察、葉の断面、茎の観察、葉緑体の観察、気孔の観察、胞子の観察と次々と数え切れないほど行ってきた。特別支援学級に顕微鏡を常備することは、手軽に観察が行え、教育効果が大きいと言える。また、デジタルカメラは、活用のアイディア次第で、かなりの教育の助けとなる教具であると実感している。今後は、教材提示装置がわりに活用してみたいと考えている。また、タブレットの活用も考えていきたい。
 教室にプリンターを常備できたことは、本当にありがたかった。特別支援の生徒は、目が離せず、私自身がトイレに行くにも気をつかうぐらいなので、自分の教室にプリンターが1台常備できて授業中すぐに撮影した写真を印刷して配布したり、休み時間に生徒と会話しながら印刷できたことは、安全面から見てもありがたかった。
 今後も特別支援を深く学ぶことで、普通学級に在籍する生徒にも、誰にでも分かりやすい授業、楽しい学級、学校を目指す教育のユニバーサルデザインを実現したい。今年度10月から放送大学に入学し、特別支援学校2種免許状を取得することができた。一歩一歩確実に前進あるのみ、本気で学び続けたい。これからも、今回の助成金で購入した顕微鏡、デジタルカメラ、プリンターを大切に活用し、生徒のために研究を続けて行くことを誓う。