2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

特別支援学校(聴覚・視覚)および病院院内学級等における 特別出前科学教室(サイエンス・ラボ)

実施担当者

中村 雅憲

所属:(一財)大阪科学技術センター 普及事業部 副長

概要

1.はじめに

当大阪科学技術センターでは、平成19年度より特別支援学校に出向き、聴覚や視覚に障害のある子供たちを対象に、出前授業を「サイエンス・ラボ」と題し、精極的に行ってきた。学校では設備面や時間的な制約等から科学教育の基本である理科実験が充分に実施されていることが少なく、その一助として実施している。さらに、平成24年度からは院内学級へも出向き、病院での長期加療中の児童?生徒を対象に、理科や科学に興味関心を持ってもらい、少しでも楽しい機会を提供できるよう活動を広めている。
本特別出前科学教室では、「見て、触って、自分で試し、そして考える」ことを主眼に、あまり学校では体験できないような、科学の楽しさ・不思議さを体験できる科学実験を、各学校・施設と協力して実施している。さらに科学工作も併せて行い、生徒自ら考え、試し、エ作を行うことで、科学の原理を身近に体験できるよう指導し、科学により親しみが持てる科学教室を実施している。
長年の地道な活動が実を結び、近年ば恒例行事として各学校・施設に受け入れて頂き、毎年実施を楽しみにしていただいている。一方で、他の学校や施設からも実施の要望があり、数年前から少しでも要望に応えるべく調整を行ってきた。本科学教育振興助成2年日の本年は、助成支援をいただく中で、新規に3校を加えた10校で実施することができた。また、聴覚支援学校、院内学級での実施とともに、助成にて視力障がい者向けの機器等幣備し、今年度、新規に盲学校での本格的に実施した。学校担当者と綿密な打合せを行い、対応策を検討?準備して実施を行った。

2.活動内容および結果

2-1聴覚支援学校における特別出前科学教室

今年度の実験テーマを「空気」として、以下の支援学校と協力し、特別出前科学教室を実施した。聴覚支援学校では、音に関する謂義の要望が多いことから音に関する解説も行い、音の振動を感じる「エコーマイク」の工作も行った。

(1)実施内容

1)大気圧の実験
・ゴムシートによる大気圧を感じる実験
・息の力でものを持ち上げる空気座布団
・簡易ホバー
・空気への急激な加圧による圧気発火実験
・一斗缶を大気圧でつぶす実験
・マグデブルグの半球実験

2)空気の流れの実験
・風船を浮かせる実験
・巨大空気砲で空気の流れを観察

3)真空と大気圧に関する実験
・ストローでピンポン玉を吸いあげる実験
・ボウリングの球を気圧差で持ち上げる実験
・排気鐘
・真空キャノンなど

4)工作教室
・エコーマイク
※上記メニューを学校の要望によって組み替えて実施

(2)実施校及び参加者数

(注:表/PDFに記載)

2-2院内学級における特別出前科学教室

今年度の実験テーマを「フシギがいっぱい!おもしろ科学実験」として、以下の学校・施設と協力し、特別出前科学教室を実施した。院内学級では、生徒の動きが制限されるため、サイエンスマジックなどを織り交ぜて、演示実験を中心に実施を行った。

(1)実施内容

1)サイエンスマジックショー
・マジックインキによる記憶力のマジック
・化学反応を利用したお茶の色変化の実験
・カ(テコ)の原理を使ったスプーン曲げ実験
・体験実験:掌の湿度で曲がるスプーン曲げなど

2)科学実験:空気と風の実験
・大気圧の実験
・空気の流れの実験
・真空と大気圧に関する実験など

3)工作教室
・羽をもった「種」をとばそう!!
・ペットボトル空気砲
・紙風車など

(2)実施校及び参加者数

(注:表/PDFに記載)

2-3盲学校における特別出前科学教室

今年度の実験テーマを「空気」として、京都府立盲学校高等部と協力し特別出前科学教室を実施した。盲学校では弱視と全盲の生徒が参加し、実験道具に触れながら実験概要を説明して理解を促した。その他、製図器等を活用した解説をはじめ、実験装置等の背景を黒になるように布や模造紙を活用したりするなど、視覚的情報が捉えやすいような工夫をしながら行った。

(1)実施内容

1)空気の重さの実験
・ニ酸化炭素の重さの確認体験

2)大気圧の実験
・ゴムシートによる大気圧を感じる実験
・マグデブルグの半球実験
・一斗缶を大気圧でつぶす実験

3)真空と大気圧に関する実験
・ストローでピンポン玉を吸いあげる実験
・ボウリングの球を気圧差で持ち上げる実験
・吹き矢の実験
・真空キャノン
・排気鐘

4)工作教室
・空気砲の工作

5)巨大空気砲の実験など

(2)実施校及び参加者数

(注:表/PDFに記載)

3.まとめ

聴覚に障害のある子どもたちの通う支援学校や、長期加療中の子どもたちが学ぶ院内学級では、ハンディキャップがあることから、時間的にもまた設備・機器的な面からも制約があり、特に理科教育に関しては実験等に充分な時間がかけられず、将来理科嫌いや理科離れを招きかねない傾向が見受けられるのが現状である。
このような状況の中、本特別出前科学教室では学校や病院施設などに出向き、子どもたちが座学だけではなく、実際に参加体験しながら学べる出前科学教室を行うことで、科学の楽しさ・不思議さに接する機会を設け、授業の枠を超えた想像力を高める経験の場を提供し、本助成金による教材・機器の充実もあり、実施校や施設から高い評価をいただいた。
特に今回、本格的に実施した盲学校においては、実施にあたっての課題はあるが、学校からは高い評価をいただき、校長会等での本事業の紹介などの相談を受け、その輪が広がっていくことが予想される。
また、これら活動場所のすそ野を広げることで、一般社会で適応できる社会適応能力を高めた子どもたちを増やすことにつながれば幸いである。