2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

淡水産黄緑藻のPseudostaurastrum enorme (Ralfs)Chodatのクローン培養

実施担当者

須谷 昌之

所属:島根県立平田高等学校 教諭

概要

1:はじめに
淡水産黄緑藻のPseudostaurastrum enorme(Ralfs)Chodatの培養株を、CA培地を用いて培養を行ったところ、培養の初期では球体であったものが暗所で保存し1年を経過したものでは、正四面体または中央でねじれた正四面体に変化することを島根大学教育学部大谷修司教授が3年前報告した。
 そこで、申請者は、培養株を単離し、CA培地で培養したところ、球体、正四面体または中央でねじれた正四面体、平面体のものが現れた。この結果、栄養欠乏が、形態の変化を促進する要因の一つと考え、CA倍地から、窒素源など栄養塩を個別に除去し、形態変化を調べることにした。
 この実験は、自然科学部の生徒に行わせた。生徒たちは、pHメーターの使い方、キャリブレーション、溶液の混合、pH調節、顕微鏡写真撮影などの基本的実験を体得できる。さらに、ピペット法による藻類の単離、倒立顕微鏡上での実験など、高校と大学のギャップの実験を体得でき、大学での実験を容易にできる体制の一部を習得できる。


2:実験条件
 培養条件は20℃、光源としては白色蛍光灯を用い、12時間、12時間の明暗周期で、CA倍地から、
①Ca(NO3)2除去
②KNO3除去
③NH4NO3除去
④MgSO4除去
⑤βグリセロリン酸Na除去
⑥Vitamin除去
⑦微量金属除去
⑧FeEDTA除去
⑨緩衝剤除去
⑩Ca(NO3)2、NO3、NH4NO3の除去
(全窒素除去)
⑪コントロール
を行い、0.1NのHCl、0.1NのNaOHを使って、pH7.2に調整し、24週間培養し、4週間おきにパスツールピペットを使用して取り出し、生物顕微鏡を用いて20細胞の形態観察、顕微鏡写真撮影を行った。


3:結果
 培養開始後は、球に近い形状から正四面体であったが、いずれの栄養欠乏の条件でも20週経過したものでは、球体はなくなり、正四面体またはねじれた四面体を示すものが大部分を占めた。なお、コントロールでは球または正四面体であった。全ての窒素源

除去培地では20週で、MgSO4除去培地では24週で細胞は死滅した。以上のようにPseudostaurastrum enormeのクローン培養株では窒素、リン、マグネシウムなどいずれの欠乏条件でもコントロールに比べ、球体が見られなくなり、正四面体とねじれた四面体が増加する傾向が認められた。

 栄養塩類の欠乏では、平面のものの、Pseudostaurastrum loblatum typeが見られないので、異なる条件がPseudostaurastrum loblatum typeに変化させるだろうと考え、非常に暗い条件において観察した。すると、1年でPseudostaurastrum loblatum typeに変化することが分かった。

 さらに、平面状のPseudostaurastrum loblatum typeをCA培地で培養すると、球形、台形、テトラポット状、太い突起のもの、テトラポット状、細い突起のもの、ねじれた四辺形のものが出現した。

 各種文献を調べると、球形、台形のものは、Pseudostaurastrum enorme
typeであり、テトラポット状、太い突起のもの、テトラポット状、細い突起のものは、Pseudostaurastrum hastatum typeであり、ねじれた四辺形のものは、Pseudostaurastrum planctonicum typeであり、平面のものは、Pseudostaurastrum loblatum typeである。

つまりこれらの種は1種類のPseudostaurastrum enormeであり、これが栄養条件などで他の種とされていたものに変形していったと考えることができる。

 これらを自然科学部の生徒に準備させた。CA培地から各種の栄養塩類を、1種類ずつ抜いて培地を作らせ、0.1NのHCl、0.1NのNaOHを使って、pH7.2に調整させ、pHメーターを使ってpHを調整させた。これがパズルのようで楽しいが、間違うといけないので真剣になったというのが生徒の感想である。また、4週ごとにパスツールピペットでプランクトンを捕って生物顕微鏡で観察すると、様々な形に変化したものが見られるので、楽しく観察していた。さらに、緊張しながら顕微鏡写真を撮影していた。まとめを行わせると、Pseudostaurastrum loblatum typeがなかなか出現しないので、生物の変化には時間がかかることを感じたようである。