2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

活動題目:天文を入り口とした科学教育振興~スターキャッチコンテスト&車いすの科学者を~

実施担当者

岡村 典夫

所属:茨城県立土浦第三高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 筆者は茨城県内高校地学の教員仲間とともに,茨城県内高校の科学部活動を盛んにしようと長年さまざまなことに取り組んできた。その成果として,茨城県高等学校文化連盟自然科学部を立ち上げることができ,イベントして夏と冬に合同合宿を実施すると,150名以上の参加者がある大きな組織に育った。その甲斐があって,昨年度茨城県つくば市で開催された「第38回全国高等学校総合文化祭
2014いばらき総文自然科学部門」では生徒達や多数の教員の全面的な協力によって,大盛況のうちに終えることができた。
 一方,年一回秋に実施している研究発表会は発表件数が25件前後とまだまだ少なく,各校科学系部活動の研究活動が盛んとは言えない状況である。研究活動を実施していない科学系部活の活動状況を聞いてみると,週1日しか生徒が集まらず,集まってもだらだらと過ごしているようだ。そこで,何とかその状況を打破すべく「スターキャッチコンテスト」を実施することにした。
 6年前より,自作したナスミス望遠鏡を使用して特別支援学校で天体観測会を実施している。しかし,ナスミス望遠鏡は望遠鏡の高度が変化しても接眼部の高さが一定であるので車いす使用者でも観測しやすいかと思っていたのだが,車いすは特注品で生徒によって高さが違うこと知らなかった。そこで,望遠鏡全体が上下する架台を製作することですべての車いす使用者に天体観測をしてもらうことを目指した。

2.スターキャッチコンテストについて
①望遠鏡製作
 平成27年7月19日(日)本校に於いてスターキャッチコンテストに使用する標準望遠鏡製作を実施した。望遠鏡の仕様は以下のとおりである。
口径:60mm
焦点距離:900mm(F15)
レンズの形式:アクロマートレンズ鏡筒:外径70mm 軽量塩ビパイプ接眼部:ラック&ピニオン 31.7mm ファインダー:30mm6倍
架台:市販経緯台式
鏡筒バンド:15mm厚合板
参加校は福島県立安積黎明高校・日立北高・日立一高・水戸農業高校・水戸一高・水戸二高・緑岡高校・土浦一高・並木中等教育学校・取手一高・取手松陽高校以上11校と本校である。本校生は,参加表明したものの参加できなかった水海道一高分の製作にあたった。同じく,参加表明したものの参加できなかった水城高校分は部品を製作して渡し,水城高校で組み立てることになった。
 当日は,10校約40名の参加があった。56名収容の生物実験室はほとんどいっぱいになった。最初の1時間は2班に分かれ,一方の班は物理実験室に移動し,本校物理担当野村教諭より光学理論についての実験を交えた講義,もう一方の班は筆者より,凸レンズの結像の仕方および望遠鏡の仕組みについて実験を交えた講義を実施した。
 続いて,いよいよ望遠鏡製作。本校で試作したものを参考に,鏡筒の長さを決め,電動のこぎりで切断。この作業はさすがに危険なため,熟練した本校三年生が行った。次は,光軸を完全に合わせられるように,切断面を直角かつなめらかに紙やすりで仕上げる作業。これが,光軸を決めるので慎重に作業させた。
 そして,内部を荒い紙やすりでできるだけ同心円状に傷をつけていく。この作業を丁寧行い,市販のつや消し黒スプレーで塗料をすることで乱反射を防ぎコントラストを向上させることができる。
 そして,昼休みに塗料を乾燥させ,昼食後に対物レンズセルのねじ穴と接眼部のねじ穴に合わせて穴を開ける作業をする。この作業のポイントは若干大きめの穴を開けることである。ある程度穴が大きくても確実に固定できるよう,取り付けボルトは頭の大きなタッピングを使っている。そして,ファインダー取り付け金具をつければ鏡筒は完成である。
続いて架台と接合する鏡筒バンド製作に入ったが思ったより時間が掛かり,本校で完成させ,後ほど各校に渡すことになった。

②スターキャッチコンテスト
 冬期合同合宿にて,初のスターキャッチコンテストを実施した。1ヶ月前には導入する天体を示し,オリジナルの星図も配布した。それを元に,各校で練習をしてもらい本番に臨んでもらおうという狙いがある。案の定,多くの学校は熱心に練習を繰り返したようだ。顧問からは,やることができて良かったという感想をいただいた。
 そして,本番を迎えた。不安はジャッジが正しくできるのか,暗闇の中で時間が正確に記録できるか,そして,2日間とも天候条件が揃うかである。参加人数が宿舎である「プラトーさとみ」の宿泊定員を超えているので,
2日間に分けざるを得ないのである。2晩の天気が同じ条件でなければ,総合順位を出すことができない。
 12月4日(金),初日は4校が参加して実施。ジャッジは筆者を含め3名。最初は北極星を入れてスタンバイ。そして,筆者の「アルビレオ」とうかけ声で一気に望遠鏡を向ける。生徒たちは必死にファインダーの中心にアルビレオを導入し,学校名を申告。すぐに我々ジャッジが接眼レンズを覗いて目的アルビレオが視野に入っているかを確認。確認したら記録員にOKサインを出し,学校名を申告した時間が記録される。最初は導入が簡単な天体を入れさせ,徐々に難しくしていく。すると,制限時間の2分以内に見つけられないグループも出てきた。また,目標天体付近が雲に覆われているときは臨機応変に近くの天体に切り替える。10天体の導入が終わったところで,総合時間の少ないチームが優勝となった。この日の優勝校は日立一高である。
 12月5日(土)は7校で実施した。前日同様若干雲が流れる中での競技となった。よって,条件が揃わないので,それぞれの日で優勝校を決めることになった。この日の優勝校は並木中等教育学校であった。
 一方,チーム数が増えるとタイムキーパーの仕事量が増えることも確認できた。また,ジャッジの声の大きさも問題となった。何校かは望遠鏡のトラブルもあった。やや架台の扱い方が雑で,ネジが緩んでしまったものも見られた。このようにいくつか問題はあったものの生徒達は必死に星を追いかけ望遠鏡の視野の中に捕まえてくれた。正に「スターキャッチコンテスト」となった。
 優勝チーム代表の感想は以下のとおりである。

日立一高 森泉君
 僕の初めての冬合宿で、初の試みとなるスターキャッチコンテストがありました。僕はあまり望遠鏡の技能はありませんが、自分なりに部活代表として、全力を尽くして、臨みました。3人のチームを組み、僕が望遠鏡を使い、二人が星を見つけるという役割分担をしました。そして、アルビレオを観た時、望遠鏡が外れるというハプニングがありましたが、なんとか制限時間内に見ることができました。そして、M31を観るのは少し無理があったのでは無いか、とも思いました。ですが良い思い出となったので、次のスターキャッチコンテストにも参加したいです。

並木中等教育学校 大木さん
 今回のコンテストで私が一番感動したのは、隣の銀河、アンドロメダ銀河を自作望遠鏡で観測したことだ。
 写真で見るアンドロメダ銀河とは違い、真ん中が丸く光り、その周りがぼんやりとした、毎晩学校で観測する星とは違う、不思議な天体だった。天の川が川に見えるように、銀河は遠すぎるとぼんやりとするとわかり、宇宙の広さ、そして確かに私はここにいる、という宇宙の中の地球の存在を感じた。
 ぜひこの感動をたくさんの人に体験して欲しい。


3.特別支援学校天体観測への取り組み
 筆者が水戸二高に在任中の2010年から自作40cmナスミス望遠鏡を使って,水戸特別支援学校にて天体観測会を開いている。当時,水戸二高には車いすで通ってくる生徒がいたので,その生徒に月を望遠鏡で見せたくて製作したものだ。その生徒によると,特別支援学校ではあまり科学的な体験ができないとのこと。せっかく作った望遠鏡なので,この生徒の出身校である水戸特別支援学校で科学体験となる観測会を開くことになった。天候に恵まれら最初の観測会で,重大なことに気付いた。生徒によって車いすの高さが違うのだ。よって,接眼部の高さが一定のナスミス望遠鏡では対応できないことが分かった。それでも,車いすから降りて,写真のように椅子に座って覗いてもらったり,どうしても覗けない生徒にはビデオ観測をするなど工夫をして観測会を無事終えることができた。
 この取り組みは,朝日新聞全国版に掲載されたことによって,何名かの賛同者が現れ,新型のナスミス望遠鏡の製作に至った。新型を製作する際に上下機構を組み込めないか検討をしたが,あまりにも重く大きいので,コスト面と安全面を考え諦めた。そして,新型のナスミス望遠鏡が完成した2年前に再び水戸特別支援学校にて観測会を行った。その生徒の中に背の高い車いすに乗っていて,降りることができない生徒がいた。その生徒は,星が好きでどうしても見たいと言う。せめて双眼鏡で,星を見せようと努力をしたが,残念ながら見せることができなかった。このときは本当に悔しい思いでいっぱいになった。
 そこで,どのような目の高さでも覗けるように望遠鏡全体が上下する架台を考えた。金属加工が得意な藁谷製作所と何度も話し合いを重ね,予算の範囲内で簡単に上下する架台を完成させることができた。プロの発想はさすがで,ガスシリンダーで上下させるという画期的な架台が完成した。さらに,生徒達と協力して高さが変化しても双眼鏡の方向が変化しないパラレルリンク式の双眼鏡架台も開発できた。
 平成27年10月26日(月)および平成28年3月15日(火)にナスミス望遠鏡・上下する架台・パラレルリンク式双眼鏡架台を持参して水戸特別支援学校にて天体観測会を実施した。10/26は満月に近い月があり,薄雲に空全体が覆われる条件であった。それでも,月や高い場所に輝くベガを観測してもらうことができた。視野一杯に観察できる月は迫力があったようで,観察するたびに多くの生徒が歓声を上げた。ベガが七夕の織り姫星であることを知らせると,多くの生徒が驚いていた。
 3/15は寒いものの快晴という好条件のなか,水戸二高地学部の生徒の協力を得て月・木星・すばる・ベテルギウス・リゲルなどを観測させることができた。
 望遠鏡にかじりつくように夢中で観測してくれた生徒が「このような機会はあまりないので,ものすごく楽しい」と言ってくれたことがとてもうれしい。ただ,あまりにも寒かったので長時間観察させることができなかった。万が一にでも風邪を引かせるようなことがあっては大変である。


4.まとめ
 スターキャッチコンテストに関しては望遠鏡製作,合宿時のコンテストともに成功したと言える。また,練習をするために望遠鏡を触る回数が増えたことで部活動の活性化につながった。
 特別支援学校での天体観測会では,昇降式架台が大変に有効であることが実証された。この架台は,100倍以上の倍率で観察しながら上下させても視野から目標天体が外れることがない。また,小学校での天体観測会でも小さな子供から大人まで楽な姿勢で観測できると好評である。パラレルリンク式双眼鏡架台は,少々ガタがあるので,目標天体導入には若干のコツが必要だが,1m以上上下させても12倍双眼鏡の視野から目標天体が外れることはない。動きも大変にスムーズである。


5.今後の課題
・スターキャッチコンテスト参加校の拡大
※茨城県内の高校だけでなく福島県や千葉県の高校にも声を掛ける。
・ジャッジの確保
・すべての学校が合宿に参加できないので,学校内で自作望遠鏡を使った写真撮影などのコンテストを行う。
・水戸特別支援学校以外の特別支援学校で観測会を開く(水戸,下妻共2回開く予定)
・昇降式架台に小型ナスミス望遠鏡を組み込む。
・パラレルリンク式双眼鏡架台のガタの除去。
・40cmナスミス望遠鏡の電動化
・特別支援学校の観測会の際に地元の高校生と共に観測会を運営する。