2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

活動を国際的に展開する中で、科学・技術の興味や関心を育む~ロボット教材を中心題材として~

実施担当者

沼田 和也

所属:同志社中学校 教諭

概要

1.はじめに
 近年、学校教育の現場にも英語教育の波が押し寄せ、ようやく学校教育のグローバル化の兆しが見え始めている。英語スキルの効率良い獲得のための教授法の改革、海外旅行型の研修企画も続々と増え始め、中でも米国などの一流大学などで科学テーマを扱ったものなど注目を集めている。
 筆者はこれまで自校にてアジアものづくり授業交流プロジェクトと銘打って、アジア諸国の学校の教師や生徒をつなぎながら、ものづくりや科学技術をテーマにした授業交流をすすめてきた。ものづくりやビジネスの現場では学校教育の有様以前にすでに国境を越えて営まれており、共同開発や企業提携など例をあげればきりがない。このような現実を参考にしながら教育活動においても、国際交流を教師/生徒の両側面から実現しようとしたのが本プロジェクトのきっかけである。教師のための国際交流という側面としては、国境をこえた教材開発や授業改善にむけた交流を、そして生徒のための国際交流という側面からは、同士の科学/技術/文化の交流、語学習得の練習の場としての交流を考えてきた。
 またアジアに注目する理由は、将来的に中国、インドなどのアジア諸国の中間所得層の購買力の拡大、経済力の成長が予測されており、日本の企業もますますアジア諸国での展開がきたいされるであろうと考えたことは理由の一つである。また学校間での交流を考えたときにも、時差が少なく移動コストをおさえられるだけでなく、多くのアジア諸国は英語で意思疎通が可能であるというのも大きな利点であった。
 本プロジェクトはすでに韓国、台湾の私立学校と密接な関係を築いている。ソウルの名門大学の一つである慶熙大学の付属中学、慶熙中学校とは、筆者が訪問するだけでなくものづくりの授業を行っている。また慶熙中学の教師もまた筆者の学校である同志社中学に来校し授業を行うなど、教師同士の授業交流を実施していた。近年では生徒も一緒に行き来し生徒同士の交流も授業を通して行っている。橋梁技術の教授法として定評のある「ブリッジコンテスト」を中心に行っている。韓国の生徒と日本の生徒を一つのチームとして、橋の模型を製作する。決められたスパンと材料で橋を製作しなければならないが、デザインや工夫やプレゼンは生徒が自分たちのアイデアを盛り込める。強度試験も生徒達自身で行えるものである。英語でコミュニケーションをとり、技術的な課題を乗り越えるプログラムである。
 台湾では台北にて古い歴史を持つ淡江高級中学との教師同士の授業交流、生徒も交えた授業交流を行っている。2013年には、筆者が淡江高級中学にて、建築に関わるトピック「折板構造(Folded Plate Structure)」をケント紙で製作するというワークショップを行っている。2014年には、淡江高級中学の教師が来校した際、LEGOを使ったロボットプログラミングの授業を実践している。
 他、インド、ベトナム、フィリピン、中国なども授業を行ってはいるが、現地の教師が本校に来校したり、生徒同士は未だ交流はできてきないが、将来の交流実践の基盤を固めつつある現状である。
 私は将来的に「ものづくり授業」だけでなく、「科学」「技術」により焦点をあてながら、教育活動を展開しようと計画している。注目しているのは、レゴ社などのロボット教材である。
 国内国外問わず、ロボットプログラミングを中心課題としたロボットコンテストは近年ますます脚光を浴びており、まさに技術力を真剣に競い合うようなかなり高度な課題設定の大会から、初心者層の獲得をターゲットにした比較的易しい課題設定の大会まで、対象年齢も含めかなり幅広いコンテストが行われている。ロボットプログラミングにおいては、センサーによって取得したデータを判断処理し、アクチュエーターに出力するといった計測と制御の実践が不可欠となる。この原理は私たちの生活の様々な分野で利用されているものであり、市販の製品がどのように設計されどのような原理で働いているのかを考えるきっかけともなり、応用範囲の広い学習題材であるとも言える。
 本校ではナリカの主催する宇宙エレベーターコンテストに参加しており、経験を蓄積している。2015年度は、その大会にも参加し子ども達の科学技術に対する関心も深めさせながら、できることならそのノウハウを生かしアジア諸国の生徒達との交流にも適応したいと考えた。その中で、与えられた課題にて対して最適な解を共同作業でアプローチしていく科学・技術の手ほどきを、生徒達に教育したいと考えた。アジア諸国の生徒達と「科学」「技術」「ものづくり」をテーマにして教育活動を展開する中で、本校の生徒達に刺激を与え、国際的に協力して課題を解決していく力を養うことを目指している。
 結果として、韓国の慶熙中学との授業交流、中谷医工計測技術振興財団の助成による宇宙エレベーターコンテストへの参加、台湾の淡江高級中学との授業交流の実施(写真1)を行うことができた。


2.韓国の慶熙中学との授業交流
 8月に慶熙中学にて予定していた授業交流はMARSのため学校判断により、渡韓できず実施できなかった。
 1月22日には、慶熙中学のキムジンヌ氏が来校し建築学の初歩のワークショップとして有名なパスタタワーコンテスト(世界的にはマシュマロチャレンジとして有名)を行った。「より高い構造物にするには?」という問いに対して、生徒たちはチームでアイデアを出し合い問題の解決策を探っていった。限られた材料をしようし、構造力学の視点からの知識や工夫を施しパスタによるタワーを製作した
 1月23日、ソウルの慶熙中学の生徒10名が同志社中学に来校し、キムジンヌ氏とともに授業を実施した。題材は先述の内容と同じであるが、韓国の生徒と日本の生徒を一つのチームにしてコミュニケーションをうまくとりながら各自のアイデアを問題解決の成果に盛り込んでいくことが違う。手を動かしながら、工夫を考えコミュニケーションをとり協力しながら製作していく様子は、国境を越えたビジネスの姿の典型であるように思えた。生徒たちは、日頃学習している英語だけでなくボディランゲージも使い、制限時間いっぱいまで丈夫な橋の製作を楽しんだ。制限時間終了が近づく頃には大盛り上がりであった。


3.宇宙エレベーターコンテスト参加
 11月8日、日本科学未来館で開催の宇宙エレベーターコンテストに参加した。宇宙エレベーターコンテストとは、約5メートル垂らされたテザーを自力で登り、フィギュアなどを宇宙ステーションに見立てた籠に運ぶロボットの製作がその内容である。本大会は中谷医工計測技術振興財団の助成を受けて開催されている取組でもある。
 LEGO社のロボット教材(EV3)を使って事前にロボットを製作し、会場まで運び競技に参加した。生徒たちは意欲的に取組み、自宅にもって帰ってまで考えてくる生徒もいるくらいで、興味をかなり強くもっている様子であった。大会では、予選通過はならなかったが、参加した生徒は「理系に進み、将来は宇宙に関する仕事をしたい。めっちゃ刺激になった」と参加した女子生徒は新聞記者の取材に答えていた。


4.台湾の淡江高級中学との授業交流
 9月19日、台湾の私立学校である淡江高級中学に9名の同志社中学校の生徒が渡台した。様々な授業交流プログラム(食品加工、中国語、アート、体育)をこなしたが、科学技術に関わるものとしては、筆者が台湾と日本人の生徒を混合にしたクラスにて「折板構造」の授業を行った。日本人生徒は事前に授業内容を教えておき、基本的な説明と全体支持は筆者が行い、日本人の生徒がワークショップのガイド役となって台湾の生徒に手取り足取り教えて回るという形態にした。日本人生徒たちは英語やボディランゲージを使いながら一生懸命教えつつ、技術交流(建築に関する内容について対話)を楽しんだ。
 11月16日には、淡江高級中学の生徒11名が同志社中学に来校した。メインとなる授業交流プログラムはレゴを使ったロボットプログラミングであった。淡江高級中学のロボット工学の教師である黄維彦氏が全体の指導を行い、台湾の生徒がガイド役となり日本の生徒に手取り足取り教えに回るという形式であった。あらかじめ基本となる動きをプログラミングし、その内容をつかってロボットの躯体を考える課題を提示された。生徒たちは台湾の生徒と一緒になって、アイデアを考え、または台湾の生徒からアドバイスをもらいながらロボット製作に熱中した時間であった。最後には、各チーム製作したロボットを走らせ、完成を喜びあった。
 この他、建築・工芸の教師である楊氏が数学の幾何学をデザイン化したオブジェを製作する授業を実施してくれた。台湾の生徒が日本の生徒にアドザイザートしてまわり、生徒たちは製作を楽しみつつ立体の美しさと面白さを楽しんだ。


5.まとめ
 本年度、「科学」「技術」「ものづくり」をテーマにして教育活動を展開し、本校の生徒たちの「科学」「技術」に関する興味関心を高める機会を作ることができたと考える。また、「ものづくり」の要素を取り入れることで、アクティビティに正解のない課題設定を行うことがしやすくなり、生徒たちの思考力養成にもアプローチすることができたと考える。とりわけ韓国や台湾の生徒との授業交流の場面でそれは顕である。本校の生徒達に刺激を与え、国際的に協力して課題を解決していく力の育成の機会を提供することができた。
 韓国の慶熙中学との授業交流、宇宙エレベーターコンテストへの参加、台湾の淡江高級中学との授業交流の実施は具体的な実践例の資料として提供することができたと考える。筆者は、未来の授業に国境はないと考えている。年齢も立場も専門分野も越えて、アイデアや学びをシェアしながら新しいものを生み出していく。手を動かしながらお互いの息遣いも感じながらの交流は、たんなる語学スキル獲得のための活動にはおわらないものがあると考える。近い将来を考えるとき、国境を越えたSTEM(Science, Technology,
Engineering, Math)教育分野の取組は、有効な鍵の一つであると考える。