2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

次世代型「環」の文化の提案プロジェクト

実施担当者

鈴木 崇司

所属:静岡理工科大学 星陵中学校・高等学校 教諭

概要

1 はじめに

環境問題やエネルギー問題はグローバルな視点で取り組むことが必要な課題であり、教育機関においてはそれらの課題の解決に向けて貢献できる人材を育成することが求められる。そのため、次世代を担う子供達には21世紀型のスキル(課題発見・解決力、情報収集・解析力、論理的・批判的思考力、コミュニケーション・コラボレーション能力)を身につけるアクティブラーニングの実践が必要不可欠である。
本校では、東北大学の多田准教授と共同で再生可能エネルギーであるバイオメタンを利用した新しい暮らしを提案する教育プログラムを開始した。バイオメタンとは、有機性廃棄物を嫌気性条件下で発酵させることで生成する可燃性ガスである。この教育プログラムの実施にあたり、校内に生ゴミからバイオメタンを生成するための施設の構築を開始した。しかし、現在構築中のシステムでは、発酵タンクの加温やポンプなどの動力は電気を使用している。教材としての価値はあるものの、再生可能エネルギーを生み出すシステムを電気で運転することは、一番の課題となっている。そこで、発酵タンクの加温は太陽熱を利用し、ポンプなどの動力は太陽光パネルによる電力で補う自立型のバイオメタン施設の構築を行いたい。これにより、従来にはない新規のバイオメタン施設を活用した教育の実践が可能となる。また、この施設からは発酵後の液体が生成され、この液体は液肥として作物の栽培に活用することができる。本プロジェクトでは、地域から排出される原料からバイオメタンを生成し、発酵後の液を地域内で活用する仕組みを構築することを検討している。中高生が主体的となった一連の活動を通して、古き良き物を大切にする日本の「和」の文化から、それを次世代型にアレンジした環境と循環を大切にする「環」の文化を考え、社会に提案したい。今年度は、①バイオメタン施設を太陽熱利用型のシステムに改善すること、②バイオメタンを利用したアクティブラーニングを実践すること、③希望者を対象にした、バイオメタンの課題研究を実施することを目標とした。

2 実験方法

2-1 バイオメタンシステムの改善

バイオメタンを生成するには、微生物のはたらきを活性化するために約37℃で保温する必要がある。現在は、この保温をするための設備は電気を利用して運転している。そこで、今年度は、発酵槽の保温を電気から太陽熱を利用したシステムに改善することを試みた。温水をつくるための設備は、太陽熱温水器クリアホットウォーター(64-ST、株式会社MMC社製)を用いた。温水は、ステンレスドラム缶(KD-lOOL、JFEドラムサービス社製)に貯湯し、マグネットポンプ(PMD581B2E、アズワン社製)を用いてシリコンチューブ(10Xl4、アズワン社製)内を循環させた。温水の温度はおんどとりワイヤレスデータロガー(RTR-502、株式会社ティアンドデイ社製)で、太陽の照度はデータロガー照度計(LX-1128SD、佐藤商事社製)で計測した。照度や外気温が太陽熱温水器の湯温にどのような影響を与え、湯温の温度変動が発酵槽の温度や発酵状況にどのように影轡を与えるのかを調査した。

2-2 バイオメタンを利用したアクティブラーニングの実践

中学生を対象に、バイオメタンなどの再生可能エネルギーについて、グループに分かれて調べ学習と室内実験および発表会を実施した。室内実験では、生徒の家庭から出た生ゴミを利用してバイオメタンを生成する実験を行った。実験を行うために、ペットボトル、アルミニウムバッグ(AAK-1、ジーエルサイエンス株式会社製)、シリコンチューブ(5X7、アズワン社製)を用いて模型装置を作成した。生ゴミはミキサーで粉砕し、栄養塩類を含んだ溶液と微生物を含んだ種菌とともにペットボトルに注入した。容器にガスバッグを接続し、約37℃の恒温槽内で2週間程度の期間保温した。生徒は昼休みの時間に、装置の撹拌やガス量をシリンジで計測するなどして観察を行った。実験後には、方法や結果をスライドにまとめ、発表会でプレゼンテーションを実施した。

2-3 バイオメタンの課題研究

中学生と高校生の希望者を対象に、バイオメタンに関する課題研究を開始した。生徒はそれぞれが興味のあるテーマについて、昼休みや放課後の時間に主体的に活動を行った。具体的には、
(1)バイオメタン施設の実運転試験、(2)茶殻や家庭の生ゴミを原料としたバイオメタン生成室内実験、(3)発酵後の液(以降、消化液)を液肥として用いた作物栽培試験を実施した。バイオメタン施設の実運転試験では、本校に設懺したバイオメタン施設を利用して、生徒主体での運転管理や各種成分分析を開始した。運転開始時は、砂糖を原料に立ち上げ作業を行い、その後は成分の安定しているドッグフードで連続運転を行った。バイオメタン生成室内実験では、茶殻やスイカの皮などを原料にして、投入量によるガス生成量の違いを比較した試験を実施した。消化液を用いた作物栽培試験では、トマトを栽培し、化学肥料と無施肥の条件での栽培と比較を行った。

2-4 バイオメタン聖火への挑戦

バイオメタン施設や室内実験で生成したガスは、聖火の燃料として使用するプロジェクトを東北大学の多田先生と共同で開始した。学内においては、金属パイプとボールバルブを組み合わせたバーナーを自作して燃焼試験を行い、ガスの通気条件などを検討した。本校と他の小学校、中学校、高等学校の生徒が作成したバイオメタンも合わせて、石巻の総合運動公園に移設された実際の聖火台においても燃焼試験を行った。

3 結果

3-1 バイオメタンシステムの改善

太陽熱湿水器は、中学生が中心に設置をして運転を開始した。冬場は外気温の影響があるものの、日中では70℃以上のお湯をつくることができた。ただし、連続的にお湯の循環をするには、夜間の温度低下を考慮しないといけないため、設備の断熱と運転管理の方法が今後の課題となった。来年度は、循環するお湯の温度変動が発酵槽からのガスの生成や微生物の状態にどのように影響を及ぼすのかを調査する。

3-2 バイオメタンを利用したアクティブラーニングの実践

中学2年生を対象に、バイオメタンを利用したアクティブラーニングを実施した。再生可能エネルギーやバイオメタンに関する調べ学習とまとめ、バイオメタン生成の室内実験と発表会を行った。生徒は、「実際にゴミがエネルギーに変わるのを体験して驚いた」、「他のゴミでも試したい」、「この技術がもっと社会で身近なものになったらいいと思う」などの意見が出された。これらの活動を通して、生徒の環境やエネルギーに関する興味や関心を高めることができた。

3-3 バイオメタンの課題研究

(1)バイオメタン施設の実運転試験
中学生の希望者が交代で、昼休みの時間を使ってバイオメタン施設の運転管理を実施した。発酵槽温度、ガス圧、ガス量、原料投入量を記録し、定期的なガスと液のサンプル回収と分析を行った。発酵槽温度は約37℃で安定した管理ができており、ガスの生成量も安定して運転が可能であった。今後は生徒の家庭の生ゴミを回収して連続運転する仕組みの構築を検討している。

(2)茶殻や家庭の生ゴミを原料としたバイオメタン生成室内実験
高校生の希望者を対象に、生徒が考えた原料でバイオメタン生成の室内実験を行った。茶殻、やスイカの皮などを原料に、投入量とガス生成量の関係を比較した。茶殻は投入量が多くなるとガスの生成が低下し、微生物の活性に負の影響を与えることが明らかになった。今後は、分析環境の設備を充実させて、さらに詳細な研究活動を展開することを検言寸している。

(3)消化液を用いた作物栽培試験
バイオメタンを生成した後の液は液体肥料としての活用が可能であるため、作物の栽培試験を実施した。今年度は、消化液、化学肥料、無施肥でトマトの生育を比較する試験を行った。消化液を利用することで、緑の濃い太い茎と菓になり、実の数と糖度の結果も良好であった。

3-4 バイオメタン聖火への挑戦

バイオメタン施設や室内実験で生成したガスは、聖火の燃料として使用するプロジェクトを東北大学の多田先生と共同で開始した。10月10日には、石巻総合運動公園において実際の聖火台での点灯式イベントに参加した。聖火リレーの原料として利用するには課題が残るが、圧縮したボンベから聖火台で点灯するのは無事に成功することができた。活動の様子は、石巻の団体が丸川大臣に報告をしていただいた。バイオメタン聖火の実現に向けて、来年度も引き続き活動を検討している。

4 まとめ

本プロジェクトの実施により、生徒のバイオメタンに関する理解や関心が高まるとともに、専門的で実践的な情報提供はキャリア教育にも効果があると考えられた。また、生徒が主体的に活動できる環境の整備ができ、実践的な教育活動が展開できた。また、バイオメタンを利用した本校の教育・研究活動が、今年度の静岡県の地球温暖化防止活動知事褒賞を受賞した。特に、中高一貫教育を活かし、継続的な教育で生徒の取り組みを深めるとともに、実証実験など外部機関と連携した専門性の高い教育を行っている点が評価のポイントとなった。今後は各種機関や団体と連携を強化してさらなる活動を展開したいと考えている