2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

植物が未来を拓く

実施担当者

佐伯 栄治

所属:愛知県立惟信高等学校 教諭

概要

1.はじめに
21世紀を迎えた私たちの地球生命圏は、世界人口の増加に相まった食糧危機や環境汚染による地球環境の破壊などにより近い将来危機にさらされると考えられている。この危機を救う主役として近年植物が注目を浴びている。また本県では2010年度にCOP10が開催されるなど県内全体で環境に対する意識がこれまで以上に高まってきている。
そこで、地球が直面している危機的な環境問題の現状とその解決策について理解を深めるために、環境問題について先頭に立って研究を進めている機関に豊富なデータと写真をもととした講義を依頼するとともに、近年注目されている植物を利用した有害物質の除去に関する実験を企画した。ひとりでも多くの生徒に地球が直面している危機的状況について理解させ、その手だてとして様々な手法が開発されていることを認識させるとともに、これからの未来に向けて自分達がどうしていけばいいのか考える機会を設けることが本講座の第一目的である。その上で、植物の環境に対する有効性について調査する体験的・問題解決的な学習活動に取り組み、生徒の自ら学ぶ意欲や思考力、判断力を培うことをねらいとする。またこの活動を通して、生徒に最新の科学を伝えるだけでなく、進路選択のきっかけづくりとしても大きな効果を期待している


2.参加生徒および人数
 本校サイエンス部の生徒10名、理系クラス生物選択の生徒25名


3.事前学習
1人1テーマずつ興味がある環境問題について取り上げさせ、B紙にまとめさせた。まとめた内容は各自5分でポスター発表を行った。発表会では一人一回は質疑応答をするように徹底した。


4.講座
(1)講義
「植物の環境ストレス耐性と環境問題」というタイトルで名古屋大学大学院生命農学研究科三屋史朗助教に講義をお願いした。塩害を取り上げ、その現状や塩ストレスにより活性酸素が生じるメカニズムと植物が持つ抗酸化能力について説明した後、100%オレンジジュース、炭酸入りのオレンジジュース(無果汁)、トマトジュース、レモンジュース(果汁20%)、赤ワイン、水道水を用意し、最も抗酸化能力の高い物質を生徒自身に考えさせ、その理由とともに発表し合い、演示実験により確認した。また地球温暖化にともなう環境問題による農業への影響や、バイオテクノロジーを用いた環境問題への取り組みについても適当な話題を取り上げ、これらに関する関心、意識を高めた。

(2)実験
<実験概要>
 様々な植物などにおける抗酸化能力を探る植物が高塩濃度や乾燥などの環境ストレスにさらされると、植物の葉は黄色になるなどの障害があらわれて、最終的に枯死してしまう。この障害の原因は過剰な活性酸素であると考えられている。私たちヒトでも、日光に当たりすぎたりしてできるシミやいろいろな疾患の原因として、活性酸素が注目されている。一方植物は、障害の原因となる活性酸素を除去するためにビタミンCなどの活性酸素を除去する物質を生成・蓄積することによって、障害を緩和しようと努力している。では、この活性酸素を除去する能力は様々な植物の間で違いがあるのだろうか。そこで今回の実験では、身の回りの様々な植物を用いて、どのような植物が活性酸素を除去する能力が強いのかを調べた。

<実験方法>
 DPPHを用いた、植物に含まれる活性酸素除去能の測定
・原理
 DPPHラジカルの不対電子がトラップされると、DPPHラジカル特有の色(紫)が、退色するので、その退色の程度を、可視部の波長で測定することにより、DPPHラジカル消去能を測定することができる。
 手法が簡便であるため、実験ではDPPHラジカルの消去能力を抗酸化能力とみなした。ラジカルを消去する点では共通であることもあり、これを抗酸化能力の指標として用いた。

<生徒実験の結果>
 野外で植物を採取する際に、班ごとにキーワードだけを示した。生徒はキーワードからそれぞれ各自でテーマと仮説を設け採取する植物や部位を決定した。
 以下、生徒実験の結果を示す。図は生徒が発表時に作成したパワーポイントより抜粋した。
①植物の種類(1年生、3年生)
(A斑の仮説)(1年生)
・草本植物と木本植物では、木本植物の方が育つ時間が長いため、栄養を蓄えており抗酸化能力が高い
・木本植物の中でも実が熟しているものと熟していないものでは、熟している方が抗酸化能力も高い

(結果・考察)

(注:グラフ,考察/PDFに記載)

(感想)
・身近にも抗酸化能力の高い植物があることが分かりました。
・一見同じような植物でも、違いがあるということを知りました。
・初めてやったことが多くていろんなことが学べました。
・木本植物は実が熟しても熟してなくても抗酸化能力が高いことがわかりました。

(B斑の仮説)(3年生)
・環境ストレスの強い場所で生息できる植物ほど、活性酸素を除去できるだけの抗酸化能力がある
(結果・考察)

(注:グラフ,考察/PDFに記載)

②色(2年生)
(仮説)
・葉の色が緑色だと抗酸化能力が高く緑色以外だと抗酸化能力が低い
(結果・考察)

(注:グラフ,考察/PDFに記載)

(感想)
・今回の実験を経て、自分たちがたてた仮説と違う結果になり正直驚いた。
・仮説をたてて実験をすることの楽しさを知ることができた。
・今回の実験や講義を通して、高校では学べないような植物についての仕組みが学べた。

③植物の器官(3年生)
(仮説)
・抗酸化能力が高いものは緑黄色野菜など、鮮やかな色をしているものが多いので鮮やかな色をしている、花びらは抗酸化能力が高い。
・根は植物にとって栄養分の出入り口となる器官であり、この部位で抗酸化することで植物全体に活性酸素が回ることを防げるため、抗酸化能力が高いと推測する。
・葉は呼吸や光合成をする部位だから抗酸化能力が高い
(結果・考察)

(注:グラフ,考察/PDFに記載)

(感想)
・大学ならではの実験器具で実験をしてとても新鮮だった。
・大学内のグローバルな感じがとてもいいと思いました。実験は自分が使ったことの無い器具などを
使えてとても楽しかったです。
・高校ではできなかった英語での会話がとても新鮮で、大学はすごいと思いました。実験器具など使ったことのないものがあったので、すごくいい経験でした。
・今回の実験は何から何まで初めての連続で、すべてが新鮮で、めちゃくちゃ楽しかった。

③調理(3年生)
(方法・仮説)

(注:グラフ,考察/PDFに記載)

(感想)
・普段の学校の授業では使う事の出来ない実験器具を使うのが大変だったけれど、実験が成功してよかったです。
・無処理の物が一番消去能の値が高かった事に驚きました。
・電子レンジで調理の方法を変えることにより消去能の値が変わることに驚きました
・調理というテーマから条件を変えることで、違った結果の対照実験を行うことができました。貴重な体験ができてよかったです。
・電子レンジでこんなにもさまざまな結果がでるんだなと思いました。


5.事後学習(サイエンス部での研究活動)
今回の実験データや各班の結果を参考に追実験を行い活性酸素消去能の強い植物の探求を行った。
<テーマ>
校内の草木における抗酸化能力の比較

(注:表/PDFに記載)

(結果)
・樹木の方が草本よりも抗酸化能力が高い
・樹木では90%とかなり高く、草本は20%前後とかなり低い。
・草本は加熱すると抗酸化能力が大きく低下するが、樹木はほとんど低下しない。
・煮汁には抗酸化能力はほとんどなかった。
(考察)
・植物群落の遷移と抗酸化能力は関係するのではないか。
(一年生の草本や多年生の草本より樹木がさらに高い抗酸化力を示したという結果から)
(今後の実験について)
・地衣類、コケ類など耐乾性の強い植物を調べる。
・草本では、一年生草本や多年生草本など比較しながら調べる。
・常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹などの違いを調べる。
・陽樹林と陰樹林と比較しながら調べる。