2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

桑名西高等学校新教育プロジェクト『理数系科学への新たな出会い』

実施担当者

川北 康介

所属:三重県立桑名西高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 子どもの頃には、虫取りなどに興じながら自然や科学に興味を抱いている人が多い。ところが、中学・高校へと進む中で理数系離れがおこり、科学や自然への強い興味・関心を持つ生徒は少なくなる。このため、科学や自然への興味・関心を培い創造性及び先見性を育てるとともに、理数系教育をより充実させる新たな学校教育の改革が必要と考える。そこで下記の研究課題を設定し、地域における効果的な高大連携に基づく理数系教育に取り組み、新たに科学を愛する科学技術系人材育成に寄与することを目指して、今回は、新た取組みを行うことにした。
研究課題:理数系大学への進学を目指し、次世代の科学・技術を開発できるような論理的思考力と創造力を兼ね備えた人材を育成するとともに、科学を愛する心を育てる起爆剤的取り組みを実証的に行う。


2.取組内容
 新教育プロジェクト(以降、講座)の参加生徒は、2年生修学クラス理系進学志望者6名、一般クラス理系進学志望者2名である。大学での実験の事前・事後学習として、夏季休業中を中心に、課外授業を実施した。
 以降、a:実施日、b:場所、c:ねらいと内容、d:授業後の記述アンケートでの生徒感想の順で各講義の概要をまとめる。

①授業の概要と日程説明、基礎授業
a. 平成26年7月25日
b. 桑名西高等学校 物理講義室
c. ねらい:
本校生徒の場合、初めから、大学レベルの講義や実験では、ついてこられずに、受身の受講になってしまう可能性がある。また、知識がなければ、大学での実験が、作業をするだけの実験になってしまうことも考えられる。そこで、講義や実験を積極的に参加するための、今後の準備としての講義を行う。
内容:
宮岡邦任先生(三重大学教育学部教授)に、本講座の開講に当たり、科学や自然への興味・関心を持つことの大切さや、積極的に学ぶ姿勢について、講演していただいた(写真2)。講演に引き続き、本校の教員が、発電のしくみや、環境問題から見る再生可能エネルギーの研究・開発の必要性についての授業をした。(写真3)
d. 実験は、実際の測定のことだと思っていた。しかし、今日の講義で、実験は、準備や考察といった、実験の前後が大切であることをはじめて知った。

②風力発電機の模型を使った電力の計測実験
a. 平成26年7月28日
b. 桑名西高等学校 物理講義室
c. ねらい:
風車の模型で実験し、風力発電の仕組みを学ぶ。また、自由に実験させることで、生徒に、自分で考え、積極的に実験に参加することを促す。
内容:
風力発電機(ECO-103,ECO-202)を用い、風速と電力の関係、風車羽の枚数と電力の関係を実験する(写真4)。
d. 授業での実験のように、決められた工程をこなすのでなく、自分で考えて実験ができてよかった。

③鎌田准教授による基礎講義
a. 平成26年8月4日
b. 桑名西高等学校 物理講義室
c. ねらい:
次回の実験及び、風力発電について知識を深める。また、大学の講義を経験することで、大学への関心を高める。
内容:
鎌田泰成先生(三重大学工学部准教授)に、風力発電のしくみや、歴史、これからの時代における風力発電の必要性について講義と、次回の実験の説明をしていただく(写真5)。講義のスライドを、別紙Aに添付する。
d. 難しい内容もあったが、風力発電の将来性などが理解できた。また、前々から思っていたが、やっぱり大学での研究・実験は規模がデカい。風車が海に設置できると聞き驚いた。

④三重大学研究室での風洞実験・実習
a. 平成26年8月19日
b. 三重大学工学部
c. ねらい:
大学だからこそできる実験を経験することで、科学や大学への関心を高める。また、大学進学後に自分が研究をするイメージを、生徒に持たせる。
内容:
三重大学で、鎌田先生の指導のもと、風洞実験・実習を行う。午前に、実験の概要や作業工程の説明を受け、風力発電機を組み立てる。(写真1)午後からは、組み立てた風力発電機を用い、風速と電力の関係、風に対する風車の傾きの影響、風速と出力電圧の関係を調べる実験(写真6)を行った。また、風洞により30m/sの風を発生させ、強風を体験した。(写真7)
d. 大きな実験装置に触れ、実験に取り組むことができ楽しかった。今後、大学での研究において、制御プログラムや実験装置を自作していくことに興味を持てた。

⑤データ考察指導、及び発表要旨まとめ指導
a. 平成26年8月21日、8月22日
b. 桑名西高等学校 情報室
c. ねらい:
発表の準備を通して、データの解析・考察方法を学ばせる。
内容:
研究結果発表に向けて、計測結果の処理や発表用スライドの作成、発表練習を行う。
d. データを取った後、表やグラフからどんなことがわかるのか考えるのが難しかった。

⑥研究結果発表
a. 平成26年8月25日
b. 桑名西高等学校 物理講義室
c. ねらい:
実験というと、装置を操作し測定する作業に注目しやすい。一方、実験の前後が、研究していくときには重要になってくる。研究発表を通して、生徒に実験後の考察から報告にかけての課程の大切さを意識させる。
内容:
三重大学での実験の計測結果と考察を、準備したスライドを用いて発表する。本校の教員以外に、指導していただいた鎌田先生にも出席していただき、内容についての質疑及び講評をいただく。(写真8)
d. 発表はとても緊張した。グラフからの考察、スライドや原稿の作成など、大学での実験の流れを体験でき、大変だったけど面白かった。

⑦文化祭での活動報告
a. 平成26年9月18日
b. 桑名西高等学校 武道場
c. ねらい:
⑥の研究結果発表と同様に、生徒に実験後の報告活動の大切さを意識させる。
内容:
本校は、文化祭において、四日市大学と協力して、本校生徒(1年生)と地域の方々を対象とした、環境クイズを企画している(写真
9)。本講座の題材が風力発電ということもあり、環境クイズ中に、本講座の活動を報告した。(写真10)
d. 今回の発表も緊張した。ただ、今回の経験を発表できて、いい経験になったと思う。

⑧報告書の作成
a. 平成26年9月中
b. 桑名西高等学校
c. ねらい:
⑥の研究結果発表と同様に、生徒に実験後の大切さを意識させる。
内容:
本講座について、実験結果や、実験を通して学んだことをまとめ、報告書として提出させる。提出された報告書の一部は、別紙Bである。


3.新教育プロジェクトの成果
①アンケート結果
 本講座の最終日に、生徒にアンケートを実施した。アンケートの結果は、別紙Cにまとめる。アンケート結果より、本講座は、生徒の大学や科学への興味・関心を刺激することができたと考えられる。

〇質問項目A:
 本講義を通して伸ばせた力として、次の項目を選択した生徒が多かった。
・学んだことを応用することへの興味
・考える力(考察力)
・成果を発表し伝える力(プレゼンテーション力)
発表に向けて、実験結果をまとめ、スライドにしていく作業は、特に苦労した様子であった。アンケートに、『実験の成果を認めてもらうのは、大変だったがその分達成感があると思った。』という記述もあり、苦労の中に手ごたえを感じ取っているようであった。

〇質問項目B・C:
 本講座を通して、大学進学への関心や、自然科学や科学技術への興味を高まったと感じた生徒が多かったことが分かった。また、アンケートには、『大学に入って自分の好きなことを研究してみたい』や、『事前の準備から実験、発表と体験し、実験をもっと深くまでやってみたい。』という記述が多かった。生徒たちにとって、本講座は科学への興味関心を刺激するだけでなく、進路を考えるうえでのいい機会になったと考えられる。
 また、進研模試の数学の結果を、本講座の開講前の7月と、受講後の11月の偏差値で比較した。参加生徒8人の平均をとると、3.7の上昇がみられた。模試の結果については、生徒の努力や、教科担当の指導による影響が大きいと考えられる。しかし、アンケートには、『大学で実験ができたことで、大学で勉強したいと思った。』という記述もあり、本講座は、学習意欲の向上に、少なからずの影響があったと考えられる。

〇質問項目D:
 各授業内容が理解できたことで、興味・関心が高まり、今後も実験をやりたいと感じた生徒が多かったと考えられる。講義終了後に、『難しい内容ではあったが、初めて聞く内容も多く面白かった』と、話す生徒もおり、難易度や内容ともに適切であったと考えられる。

②総学における取組を通して
 本講座の参加生徒には、本校が総合的な学習の時間に実施しているカリキュラムに加えて、研究結果発表や活動報告、報告書の作成といった言語活動を実施した。提出された報告書の一部は、別紙Bである。
 アンケート結果にもまとめたが、本講座への参加は、参加生徒にとって思考力や表現力の向上、学習意欲の向上につながったと考えられる。

③教員所見
 近年、思考力や表現力を育むための学習活動が必要であるといわれている。実験とは、事前学習、準備、測定、解析、考察、発表といった一連の流れを通して、知識を得るための手段である。特に、事前学習において得た知識について『不思議だ!どうしてなのか知りたい!』や、解析・考察において『こんな結果が出たが、何故?どんな意味?』といった好奇心を持つことが、生徒の思考力を養うと考えられる。実験した内容をまとめ、発表する経験は、生徒の表現力の向上に役立つと考えられる。
 アンケート結果にもまとめたが、本講座での実験を通して、参加生徒は、自身の思考力や表現力の成長を感じている。このことから、思考力や表現力を育むためにも、実験を中心とした本講座は有効であったと考えられる。
 本講座をとおして、今後授業を計画するうえで、実験の前後を充実させる必要性を感じた。本講座の一回目の講義(2.取組内容①)において、事前学習から発表までの実験の流れを説明した。一回目の講義後、生徒たちが『実験は、装置を操作して、計測することだけだと思っていた』と話していた。本校に限らず今までに担当してきた生徒の様子から、このような実験の前後を意識していない生徒は、多くいるように感じる。
 一方、講座後のアンケートには、『事前の準備から実験、発表と体験し、実験をもっと深くまでやってみたい。』という記述もあり、生徒たちに実験の前後を意識させられたと考えられる。この意識の変化は、本講座の成果といえる。普段の授業と本講座の大きな違いは、発表の機会の有無と考えている。発表にむけ、実験で用いた装置や現象についてまとめ、測定結果を解析・考察していく作業をとおして、生徒たちの意識は変化していったと考えられる。
 思考力や表現力の成長を促すのに、実験は効果があると思う。しかし、この効果を発揮するのには、実験に向けての導入や、実験後の考察といった、実験の前後を充実させる必要がある。実験は、装置の操作や、反応の観察といった、動きのある授業の形態のため、理科を苦手とする生徒であっても、興味を持たせやすい。一方、実験の前後が充実していない場合、実験における装置の操作や観察といった動きにのみ注目してしまい、現象についての考察まで意識せずに終わってしまうことが考えられる。それにより、実験の過程をとおしての思考力や表現力の成長を促す効果が十分に発揮できず、実験の前後を意識できない生徒を育ててしまう可能性がある。
 理数系大学に進学していく場合、実験の前後を意識して、思考していける力は、生徒たちの力になる。生徒たちのためにも、今回の経験を今後の授業に活かしていきたい。


4.今後の予定
 今年度より発展的な内容で実施できればと考え、中谷医工計測技術振興財団の来年度の科学教育振興助成に申請中である。来年度は、参加生徒がさらに自然科学への興味・関心や、論理的な思考力・創造性を向上させることを目標として、2つを企画している。尚、来年度の大まかな流れを別紙Dにまとめる。

①三重大学での風力発電実験
 今年度の講座において、生徒たちが特に印象深く感じていたのが、大学での風車の組み立てや、大学の装置を利用した実験であった。オープンキャンパスとは違う視点から、大学を体験できたことが印象的だったようである。
 来年度も、今年度と同様に理系大学への進学を希望する生徒を募集する予定である。参加生徒には、この講座を通して、大学で自分が研究している姿を、イメージできるように、なってもらいたいと考えている。

②紙飛行機実験
 風力発電に係わってくる揚力の実験として、ペーパークラフトの紙飛行機を作成し、飛行実験を3回実施する。チーム別で飛距離を競う形式を予定している。また、各回に機体の工夫点について発表させる。
 揚力を体感する実験として以外に、4つの効果を期待している。①紙飛行機の作成を通し、モノづくりの楽しさ・難しさを学ぶ。②競技形式にすることで、飛ぶ機体を作成するために、チームで協力し、思考する力を身につける。③各回の発表を通して、プレゼンテーション力を向上させる。④紙飛行機といった加工が容易な題材を扱うことで、『研究=難しい』という思いを払拭し、生徒の積極的な参加を促す。