2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

桑名西高等学校新教育プロジェクト『理数系科学への新たな出会い』

実施担当者

川北 康介

所属:三重県立桑名西高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 小学生の頃、教室内で友達同士作った紙飛行機を飛ばし合って競った経験がきっかけとなり、航空機等の科学や自然に興味を抱いた人は多いだろう。ところが、中学校・高等学校へと進む中で理数系離れがおこり、科学や自然への強い興味・関心を持つ生徒は少しずつ少なくなる。このため、科学や自然への興味・関心を培い創造性及び先見性を育てるとともに、日本の科学技術を支え続けてきた「ものづくり」のすばらしさ・楽しさを体験させるために、高等学校において理数系教育をより充実させた新たな学校教育を行う改革が必要と考える。そこで下記の研究課題を設定し、地域における効果的な高大連携に基づく理数系教育に取り組み、新たに科学や「ものづくり」を愛する科学技術系人材育成に寄与することを目指す。
研究課題:
次世代の科学・技術を開発できるような論理的思考力と創造力を兼ね備えた人材を育成するとともに、科学や「ものづくり」を愛する心を育てる起爆剤的取組を実証的に行う。


2.取組内容
 新教育プロジェクト(以降、講座)の参加生徒は、2年生修学クラス理系進学志望者7名である。大学での実験を含め、夏季休業中を中心に全10回の課外授業(以降、授業)を実施した。
 今年度は三重大学での風洞実験の事前・事後学習にも力を入れた。風力発電について、風車が回転する仕組み、発電する仕組み、風車を取り巻く環境問題について、本校教諭が高校の内容を踏まえ講義した。また、講義ごとに、理解を深めるための実験を行った。また、紙飛行機を題材とした実験を連続で実施した。事後学習では、事前学習や大学での実験を通して学んだことをまとめ、研究発表を行った。実験から発表までの一連の流れを通して、次世代の科学・技術を開発できるような論理的思考力を育むことを目的とした。
以降、a:実施日、b:場所、c:ねらいと内容、d:授業後の記述アンケートでの生徒感想の順で各課外授業の概要をまとめる。

◎紙飛行機作成と情報交換会
a.平成27年7月3日~8月3日の各授業
b.桑名西高等学校 物理講義室
c.ねらい:
 紙飛行機の作成、改良を通して、揚力の仕組みを学ぶだけでなく、「ものづくり」のすばらしさ・楽しさを体験し、創造力を育む。また、情報交換会では、班ごとに機体の特徴や作成時の工夫を発表することで、講座の最終日の研究発表の練習を行った。
内容:
 機体の作成→試験飛行→情報交換会→機体の作成→・・・のサイクルで、8/3の競技会(写真2,3)にむけて、よく飛ぶ紙飛行機の作成・改良を行った。紙飛行機は、厚紙(マルアイコ-L11学校教育工作用紙)1枚と接着剤(指定なし)で作成させた。試験飛行と情報交換会は、授業の後半に行った。情報交換会では、
A3紙にまとめ、作成した機体の特徴や工夫点を、班ごとに発表させた。機体の作成は、各班の宿題とし、次の授業までに機体を作成させた。

①揚力についての講義と実験
a.平成27年7月3日
b.桑名西高等学校 物理講義室
c.ねらい:
 風力発電を考えるうえで重要になってくる揚力について、講義と実験を通して理解を深める。
内容:
 高校での普段の授業では詳しく扱っていない揚力について、講義と実験を行った。紙飛行機のキット(Artecヒコーキ大研究)を用い、揚力の発生のする仕組みを学び、紙飛行機の設計と作成計画を考えさせた。
d.簡単そうに見えるが、やってみると難しい。長く飛ぶ機体を作りたい。

②三重大学教授宮岡先生の講演、発電の仕組みと試験飛行1
a.平成27年7月21日
b.桑名西高等学校 物理講義室
c.ねらい:
 宮岡先生の講演を通して、大学で学ぶことを明確にさせ、生徒に自身の進路に向き合うきっかけにする。講義と2つの実験を通して、電流の仕組みや交流発電機による発電の仕組みを学ぶ。
内容:
 前半では、宮岡先生に、大学での生活や実験、研究の様子を講演していただいた。
 後半では、本校教諭が電気の性質と電流が流れる仕組み、交流発電装置の仕組みについて講義した。各実験では、講義に理解をより深めるだけでなく、実験1(未知抵抗の計測(写真4))では、方眼紙のみを配布し、グラフ作成の実習も行った。実験2(クリップモーターの作成)は、完成見本のみを提示し、制限時間内に動くモーターを作成させた。
d.・クリップモーターはうまく回らず、散々な結果であったが、面白く興味が持てた。
・生徒たちの中では一番飛んだが、教員機に勝てなかった。残念。あと、各班の発表が図を用いた発表であり、わかりやすくて、面白かった。

③環境問題についての講義と試験飛行2
a.平成27年7月27日
b.桑名西高等学校 物理講義室
c.ねらい:
 風車の仕組みや発電原理だけでなく環境問題について講義を通して、風力発電の研究が急がれる背景を学ぶ。
内容:
 前半では、風車を取り巻く環境問題と、風力発電のメリットとデメリットについての講義を行った。後半では、前回から引き続き、試験飛行と情報交換会を行った。また、風洞実験で用いる模型飛行機の作成に取り掛かかった。
d.・知っている内容もあったが、新に知る内容もあり面白かった。
・今回は安定飛行よりも、スピード重視の機体を作成した。ゴムの勢いで飛んだだけで、ふわっと浮いた感じではなかった。揚力を感じられる機体を作成したい。

④三重大学准教授鎌田先生による基礎講座と競技会
a.平成27年8月3日
b.桑名西高等学校 物理講義室
c.ねらい:
 大学レベルの講義を受けることによって、大学で学ぶ感覚を経験させる。
内容:
 風車による発電の仕組みや、風力発電を取り巻く環境、風力発電の研究が求められる背景について、講義していただいた。
d.・世界単位の問題であるエネルギー問題について知れてよかった。風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーがもたらす将来に期待したい。また、三重大学にもっと行きたくなった。

⑤三重大学での風洞実験
a.平成27年8月4日
b.三重大学工学部
c.ねらい:
 大学だからこそできる実験を通して、科学や大学への関心を高め、進学後に自分が研究をするイメージを、生徒に持たせる。また、実験だけでなく、強風体験や大学院生との交流会をとおして、大学への関心を高める。
内容:
 鎌田先生の指導のもと、風洞実験を行った。実験は、風力発電実験(写真5)と模型飛行機の揚力計測実験(写真6)の2つである。風力発電実験では、風力発電装置の組み立てからはじめて、風速と電力の関係、風に対する風車の傾きの影響、風速と出力電圧の関係を調べた。模型飛行機の揚力計測実験では、六分力天秤に模型飛行機を固定し、垂直方向と風下側への力を計測した。
d. 大学の実験というものが体験できてよかった。今回の経験で、大学へ進学し、研究することがなんとなくではあるが掴むことができた。イメージを明確にするために、もう一度やりたい。大学院生に手伝ってもらいながらの実験であったが、途中ハプニングがあった。実験を成功させるためには、どんなに小さなことでも調べ注意を払う必要があることを知った。風の力を利用するときには、風を受ける角度が重要であることが分かった。

⑥データ考察指導、及び発表要旨まとめ指導
a.平成27年8月6日、8月21日、8月24日
b.桑名西高等学校 情報室
c.ねらい:
 発表の準備を通して、データの解析・考察方法を学ばせる。
内容:
 研究結果発表に向けて、計測結果の処理や発表用スライドの作成、発表練習を行った。

⑦研究結果発表
a.平成26年8月25日
b.桑名西高等学校 物理講義室
c.ねらい:
 生徒に実験後の考察から報告にかけての課程の大切さを意識させる。
内容:
 三重大学での実験の計測結果と考察を、準備したスライドを用いて発表させた。本校の教員以外に、指導していただいた鎌田先生にも出席していただき、内容についての質疑及び講評をいただいた。
d. 最初は全然興味なかったけど、やってみると楽しかった。これからも新しい分野に興味を持って臨みたい。研究発表において、先生からの質問に答えられず、事前にしっかりと調べておけばよかったという反省ができた。

⑧報告書の作成
a.平成27年9月中
b.桑名西高等学校
c.ねらい:
 ⑥の研究結果発表と同様に、生徒に実験後の大切さを意識させる。
内容:
 実験結果や、実験を通して学んだことをまとめ、報告書として提出させた。


3.新教育プロジェクトの成果
①アンケート結果
〇質問項目A:
 本講義を通して伸ばせた力として、次の項目を選択した生徒が多かった。
・粘り強く自分から取り組む姿勢(自主性)
・未知の事柄への興味や好奇心
・考える力(考察力)
・成果を発表し伝える力(プレゼンテーション力)
 研究発表まで行う実験の経験がない生徒が本校には多い。そのため、実験結果のまとめや、スライド作成といった発表の準備を通して、成長を実感できたようである。
 一方、昨年度からの変化と比べ、『粘り強く自分から取り組む姿勢(自主性)』を伸ばせた感じる生徒が多かった。紙飛行機の作成・改良実験を導入したことで、自主的な活動の機会が生まれたことの影響だと考えられる。

〇質問項目B・C:
 本講座を通して、大学進学への関心や、自然科学や科学技術への興味を高まったと感じた生徒が多かったことが分かった。また、アンケートには、『飛行機も風車も作ることが楽しいと感じたのは久しぶりであった。何かに興味を持ち探究していくことは今回のことも、勉強も、日常生活においても同様に必要で大切なことだと思う。これからも、ジャンルにとらわれずに様々なことに興味を持ち探究していきたい。』という記述があった。生徒たちにとって、本講座は科学への興味関心を刺激するだけでなく、進路を考えるうえでのいい機会になったと考えられる。

〇質問項目D:
 各授業内容が理解できたことで、興味・関心が高まり、今後も実験をやりたいと感じた生徒が多かったと考えられる。また、アンケートには、『最初は三重大での実験に紙飛行機がどのようにかかわってくるのかわからず、紙飛行機の作成はただの遊びと思っていた。しかし、講義や紙飛行機の作成を通して、揚力を学び、わからなかったことがわかっていくに従い、楽しみながら学ぶことができた。今回学んだことを次の場面でも生かしていきたい。』という記述があった。難易度や内容ともに適切であったと考えられる。

②総学における取組を通して
 講座の参加生徒には、本校が総合的な学習の時間に実施しているカリキュラムに加えて、研究結果発表や活動報告、報告書の作成といった言語活動を実施した。アンケート結果にもまとめたが、本講座への参加は、参加生徒にとって思考力や表現力の向上、学習意欲の向上につながったと考えられる。