2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

本校が立地する兵庫県中部地域の基盤岩の形成史を明らかにする-兵庫県中部~南部に広く分布する流紋岩と流紋岩質凝灰岩に着目して-

実施担当者

川勝 和哉

所属:兵庫県立西脇高等学校 教諭

概要

1.研究の動機と目的
 本校周辺地域は、毎年加古川の水害に悩まされている。平成16年の台風23号では死者を出す甚大な被害をもたらした。部員らも浸水被害を受けた。北播地域の景勝地である闘竜灘は、その地形的特徴によって洪水被害の原因のひとつとされている。そこで、洪水の原因のひとつとされる闘竜灘が形成された過程を明らかにすることを目的に研究を始めた。その結果、凝灰岩に石英安山岩が貫入し、さらにN38W42NEの断層面で北東側(上盤側)に広がる石英安山岩が
南西側に乗り上げていることがわかった。この地質構造が加古川の流れを堰き止める原因となっていることがわかった。
 闘竜灘の形成を兵庫県中南部の広い視点で考察しようと地域地質研究報告の地質図(北条1)・三田・生野・篠山)を並べてみたが、東西南北方向につながらなかった。北摂~播磨地域に分布する白亜紀後期の火山岩類は、地質調査によっても横の広がりを対比させることは困難だということであった。闘竜灘を含めて広く兵庫県中南部の形成過程を考えるためには、これらの地層を対比する必要があった。そこで、西脇市全域(東西20km×南北18km)の詳細な地質図を作成し、さらに凝灰岩の露頭を、加西市、三木市、加古川市、高砂市まで35kmにわたって南方に追跡することによって、岩石相互の関係を明らかにし、兵庫県中南部地域の形成過程を解明することにした。


2.西脇市の地史を解明する研究
 本調査地域には、流紋岩質凝灰岩が広く分布する。凝灰岩には、軽石が目立つ軽石凝灰岩や火山礫凝灰岩が溶結した凝灰岩があり、これらは不規則に入り組んで分布する。凝灰岩は場所によって、溶結の程度や斑晶の大きさと割合、黒色泥岩の有無などが異なる。流紋岩質凝灰岩は、全体に南西に傾斜している。筆者らが作成した地質図を図1に示す。
(1)西脇市の流紋岩質凝灰岩
・ガラス質結晶凝灰岩(N64E58SE)で、2mm~50mmの同質岩片や緑色に変質した軽石、数mmの黒色泥岩片、長石や石英の斑晶を多く含む。
・広範囲に溶結しており、基質はガラス質で緻密でかたい。強溶結凝灰岩は多くが火山礫凝灰岩で、ガラスがレンズ状に引き伸ばされている。溶結凝灰岩には垂直に柱状節理が発達している。
・岩片として含まれる流紋岩には自破砕構造が発達している。
・貫入する石英安山岩は、全体に調和的で直線的にEW86S 60SWである。石英安山岩の流理構造はほぼ水平である。
・河床を中心に、細粒砂岩~泥岩層が分布する。同様の砂岩~泥岩層は加古川市や加西市にも分布する。級化成層やクロスラミナがみられる。流紋岩質凝灰岩はこの岩片を含む。
・西脇市西部には、加古川市-高砂市のものと同じ斑状角閃石黒雲母花崗閃緑岩が凝灰岩類を貫いており、小岩体としてあらわれている。
(2)加西市の流紋岩質凝灰岩
・数mm~3cm程度の同質岩片や緑色軽石、1~2mmの黒色泥岩片、長石や石英の斑晶を多く含む。
・部分的に弱溶結して、岩片や軽石から生じた緑色ガラスがレンズ状に引きのばされている。一部は強溶結しており、基質がガラス質である。
(3)三木市の流紋岩質凝灰岩
・弱溶結で、最大1cmの同質岩片や、周囲が融食された斜長石や石英が一方向に引きのばされている。基質はガラス質である。
(4)加古川市の流紋岩質凝灰岩
・成層ハイアロクラスタイトの特徴をもち、最大5mmの流紋岩片や黒色泥岩片を含むことがある。基質は細粒でガラス化している。半自形の斜長石や融食された石英、軽石が斑晶をなす。
・南部では層状構造が顕著で、最大8cmの流紋岩片や数mm~4cmの黒色泥岩片を含む。半自形の斜長石と、融食された石英、軽石が斑晶をなす。
(5)高砂市の流紋岩質凝灰岩
・成層ハイアロクラスタイトをなす。節理や層状構造が顕著である。最大15mmの不規則な形の流紋岩片を含み、時々数mm~5cmの砂岩~黒色泥岩片を含む。
・弱溶結している場合、黒色泥岩片は周囲が熱で再平衡し融食されている。自形~半自形の斜長石と、融食された石英、軽石が斑晶である。
・流紋岩は流理構造の発達が著しい。自破砕構造をもち、同質の岩片を多く含む。
(6)凝灰岩の鉱物組成と帯磁率の比較
 凝灰岩のモード組成はいずれも同じである。すべての凝灰岩の基質の部分は、微細な斜長石と石英、ガラスからなり、流紋岩質岩片や黒色泥岩片、軽石が斑晶をなす。西脇市から南の高砂市に向かうにつれて流紋岩片の割合が平均で16.8%から3.3%へと次第に小さくなり、細粒で均質になる。特に西脇市の強溶結凝灰岩の岩片の割合は25.0%著しく高い。泥岩片の割合は0.92%、軽石は6.5%でほぼ同じである。また、西脇市~高砂市の流紋岩および流紋岩質凝灰岩の帯磁率は0.1~0.6SI×10-5と狭い範囲に収まっている。


3.兵庫県中南部地域の形成過程(図2)
 加古川市-高砂市に広く分布する凝灰岩は、①成層ハイアロクラスタイトをなす、②自破砕岩片や砂岩~泥岩片を含む、③流紋岩が自破砕で塊状であることから、流紋岩溶岩が水中で急冷されて自破砕し、岩片が火山灰とともにカルデラ湖の底に堆積したと考えられる。
 西脇市の凝灰岩は、同質岩片や砂岩~泥岩の岩片を含み、流理構造や溶結構造を示す。さらに、流紋岩溶岩が自破砕岩片を含み、塊状であることなどから、カルデラ湖の水底に堆積した砂岩~泥岩層を貫いて流紋岩マグマの噴火が起こり、同質の凝灰岩が堆積したと考えられる。調査した凝灰岩の鉱物組成は類似しており、帯磁率もほぼ同一であるため、これらの凝灰岩が同じ起源のマグマから同時期に形成されたと考えられる。
 西脇市西部の角閃石黒雲母花崗閃緑岩は兵庫県南部に広範囲にみられ、これらの凝灰岩類に浅所で迸入したものと考えられる。
 西脇市闘竜灘付近など複数の露頭において、南西に傾斜した流紋岩質凝灰岩に石英安山岩マグマが貫入し、地表が削剥されてあらわれている。このマグマ活動は加古川市や高砂市ではみられない。
西脇市に分布する流紋岩質凝灰岩は全体に南西方向に傾いている。また、西脇市から南に向かって凝灰岩の岩相は次第に細粒均質に変化する。凝灰岩が形成された後、カルデラ湖の北部側が隆起して削剥された結果、西脇市では加古川市-高砂市の凝灰岩層の下位層が露出していると考えられる。このように、西脇市から加西市、三木市、加古川市、高砂市にむかって次第に上位層を観察することになる。


4.さいごに
 今後は、各地の凝灰岩のX線による全岩化学分析をおこない、同一の凝灰岩である証拠を得たい。さらに、西脇市から兵庫県北部に向かって調査し、カルデラ湖が形成される以前の地史についても検討したい。兵庫県全域の露頭調査を精力的におこない、基礎研究を続けていく予定である。


5.生徒の変化と成果について
(1)活動・指導方針
・高校生だからといって、楽しさを強調して研究を曖昧なものだと意識させず、努力と苦労をともなう、オリジナリティーとプライオリティーのある本格的な研究に向かわせる。
・身近なテーマを扱い、特別な機器を用いずに、柔軟な発想と工夫で先端的な研究を行う。
・専門学会や各種研究発表大会に積極的に参加し、研究成果を発表する。
・自ら得た研究の成果を、サイエンスショーを通じて地元の児童や住民に伝えるほか、地元企業等に提供し、共同研究を行う。
・地元の小学校の先生対象に研究成果を発表し、授業に役立ててもらう。
(2)1年間の活動の流れ
・1月~4月:研究テーマの選定と予備研究。テーマは①身近な現象であること、②高校生でも実施可能なものであること、③オリジナリティーとプライオリティーがあること、を満たしていることとする。
・5月:研究計画を全部員の前でプレゼンテーションし、テーマを決定するとともに班を編成する
・6月~8月:研究活動。
・9月:研究を論文の形にまとめ投稿、その後発表会のために、ポスターやパワーポイント画面を作成して発表会に応募する。
・10月~3月:各種研究発表会に参加する。
(3)平成26年度の年間活動と表彰
 以下は、本年度の活動のうち、本助成金を研究費や専門学会および研究発表会への参加旅費として用いた成果である。
・7月:岡山大学研究発表会(岡山大学)
・9月:日本地質学会第121年学術大会(鹿児島大学)……最優秀賞
・10月:サイエンスショー(経緯度地球科学館)日本学生科学賞(神戸青少年科学館)……兵庫県大会佳作
・11月:第38回兵庫県高等学校総合文化祭自然科学部門(神戸青少年科学館)……地学部門最優秀賞(来年度全国大会進出権を獲得)神戸大学高校生科学研究発表会(神戸大学)益川塾シンポジウム(グランフロント大阪)
・12月:筑波大学科学の芽賞(筑波大学)……努力賞
サイエンスキャッスル(クリエイティブセンター神戸)
・2月:サイエンスフェア in 兵庫(神戸国際展示場)
高等学校魅力・特色づくり活動発表会(神戸ハーバーランド)
・3月:第13回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞(神奈川大学)……優秀賞・団体奨励賞
第70回日本物理学会(早稲田大学)……奨励賞