2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

未活用資源を使った水質浄化

実施担当者

鳴海 智也

所属:青森県立五所川原農林高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校の所在する青森県五所川原市には、一級河川の岩木川が流れている。津軽地域の生活を支えているこの河川は、東北地方一級河川水質ランキング(※H24 国土交通省東北地方整備局)ワースト1位と水質汚濁が問題となっている。
岩木川は、白神山地の雁森岳に水源があり藤崎町で平川と合流し、津軽平野の平坦な低地をゆったりと北上しながら十三湖を経て日本海に注ぐ流路延長102kmの一級河川である。
岩木川水系が流れるこの地域は農業地帯であり、流域の土地利用は、山地等が約72%、水田や畑地等の農地が約26%、宅地等の市街地が約2%となっている。この耕地面積は全国一高い比率となっており、リンゴの一大産地でもある。また岩木川流域では水田利用も多く、青森県の米の生産高約7割にもなっている。1)
このことから、水田や畑地から施肥に伴う窒素やリンが農業排水路に流出していることが考えられる。また集落排水の整備も遅れており、生活排水も農業排水路に流れ込んでいる地区もある。
そこで本校の環境土木科水循環班では農業排水を水質浄化することが河川の水質改善につながると仮説を立て、取り組むことにした。


2.実施内容
2.1 農業排水路の水質調査
 植物の茎・葉の伸長のために窒素成分が施肥として用いられる。そのため栽培に必須な肥料要素となっており一般的に化成肥料で施肥される。また化成肥料はアンモニア態窒素あるいは硝酸態窒素として施肥される。
 そこで測定項目として硝酸態窒素、汚染度の指標としてCOD、アンモニア態窒素、濁度について調査した。場所は学校水田の農業排水路3地点とし、デジタルパックテストを用いて調査した。

2.2 水質浄化材の選定
 水質浄化の検証実験を行うために、学校周辺にある溜池の水を採水した。なお水質浄化検討材料として未活用資源であるホタテ貝殻、廃材の木炭を使用した。試験区として採水した水(control)、採水した水にホタテ貝殻を加えたもの、採水した水に木炭を加えたものを設定し、定期的に水質調査を実施した。なお測定項目としてCOD、硝酸態窒素、アンモニア態窒素について調査した。

(注:表/PDFに記載)

2.3 水利施設の見学
 地域の河川や農業用水について理解を深めるために、地域の土地改良区が管理する水利施設を見学した。このことにより、岩木川の支川から農業用水として利用され、また利用された農業用水は排水として再び河川に流出することが理解できた。
また溜池が地域ごとに存在し、農業用水として利用されていることを理解した。

2.4 炭の浄化効果
 検証実験の結果から水質浄化の材料として木炭を選定することにした。このことから、その浄化効果の詳細について知るために青森県産業技術センター工業総合研究所を訪問した。
 炭は紀元前10世紀から薬用や防腐剤として利用されていた。18世紀になると木炭の吸着性が科学的に認識され、用途として精糖工業に利用された。19世紀後半には活性炭の調製が試みられ、その後、化学工業の急速な発展に伴い用途が拡大してきた。
 炭は空隙に不純物が吸着することによって浄化効果を発揮する。その空隙はミクロ孔(2nm以下)、メソ孔(2~50nm以下)、マクロ孔(50nm以上)に分けられる。一般的に水質浄化に効果があるとされる空隙はメソ孔である。
 今回の訪問では、実際に自分たちが廃材で製作した木炭を使い、活性炭を製作し比表面積の測定や吸着量の測定を行った。炭の浄化効果について理解を深めた。

(注:図/PDFに記載)


3.結果と考察
3.1 農業排水路の水質調査
 農業排水路の水質調査結果をそれぞれ図2~図5に示す。硝酸態窒素(図2)とアンモニア態窒素(図3)に着目すると、4月~5月上旬にかけて測定値が高い結果となった。このことは水田の作業と関係していることが考えられる。水田の耕起や田植え時の元肥またはその時期の水管理によって、植物に吸収されない肥料分が、農業排水路に流亡したことが考えられる。
 次にCOD(図4)、濁度(図5)に着目すると6月中旬から7月上旬にかけて測定値が上昇し高い結果となった。これは今年度、この時期の天候が晴天続きであり例年よりも用水量の供給が減少した影響が考えられる。このことから、水田の水管理の関係から用水量が減少し、汚染物質が薄まらないことが原因で、測定値が高くなったのではないかと考えられる。
 以上のことから、水田には窒素などの肥料分が流亡していることがわかった。また農業排水路の水質は水田の水管理や天候と密接に関係していることが考えられた。

3.2 水質浄化材の検証実験

(注:図/PDFに記載)

 水質浄化材の検討実験結果は図6~図7の通である。硝酸態窒素は、ホタテ貝殻試験区の測定値が上昇した。これは、何らかの物質と貝殻の成分が反応したのではないかと推測される。木炭試験区には変化がなかった。CODでは、ホタテ貝殻試験区、木炭試験区ともに測定値が下降する結果となった。以上のことから、木炭を水質浄化の材料として選定し、研究を継続することにした。


4.今後の展望
4.1 水質浄化材の模擬実験
 実験用に化成肥料10gを溶かした10リットルの汚水を製作する。また汚水が循環する水路をアクリル板で製作し、そこに水質浄化材を設置し定期的に水質調査を行う。その際、試験区として廃材から製作した活性炭と木炭などを利用する。

(注:表/PDFに記載)

4.2 地域の未活用資源リンゴ剪定枝の活用
 岩木川水系が流れるこの地域はリンゴの一大産地である。リンゴ栽培は、作業をしやすくすることや、木の内側まで太陽の光が届くように枝を切る剪定をする。その剪定枝が現在、あまり活用されていない。またリンゴ剪定枝を活性炭化することで4~20nmの範囲のメソ孔が多く生成されることもわかっている。そこでこの剪定枝を利用し炭化することで浄化材料として利用できないか現在検討している。


5.まとめ
 本研究では農業排水路の水質調査、水質浄化材の検証実験などの結果から、以下の知見を得ることができた。
(1)農業排水路に肥料分が流出していることがわかった。
(2)木炭は水質を浄化する効果があることがわかった。