2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

有孔虫化石を用いた地域の古環境の推定

実施担当者

吉川 契子

所属:静岡県立清水西高学校 教諭

概要

1.はじめに
 地域の古環境を研究する上で、生徒達が生活している身近な地域で、化石を発見し観察させることができれば、地球史への興味関心を高め、探究する心を育てることができる。
 本校は、地域で通称「日本平」と呼ばれる小丘陵、有度丘陵(有度山)の東に位置している。有度丘陵は1年間に3mmの高速で隆起しており、そのメカニズムは未だ解明されていない。地域では、地層から貝化石が産出することが知られている。地質研究者の間では、さらに、有孔虫化石を多産することが知られている。この環境を生かして、有孔虫化石を地層から取り出して、古環境を推定する
研究を行うこととした。


2.研究の概要
 近年、有度丘陵では生徒たちが安全に観察し、貝化石を発見できる良い条件の露頭が少なくなっている。しかし、有孔虫化石であれば、安全な条件で研究を行うことができる露頭が残されている。
 高校の地学の教科書には有孔虫化石の研究方法が紹介されている。そこで、まず、有度丘陵の地層から有孔虫化石を取り出し、古環境を推定することを試みることとした。また、ここから離れた地域にある掛川市の掛川層群を研究対象として比較し、地域の古環境を推定することとした。
 公益財団法人中谷医工計測技術振興財団の助成を得て、双眼実体顕微鏡を購入することができた。生徒は、双眼実体顕微鏡の操作方法に慣れていなかったため、最初は操作方法に習熟するための時間が必要であった。顕微鏡の操作に慣れたところで、有孔虫化石の分析作業に移ることとした。
 有度丘陵の最下層の根古屋層の泥から取り出した、有孔虫化石を、生徒たちは、興味深く観察し、小さく奇妙な化石に大変興味を持って作業を行った。
 また、本校の倉庫に過去のボーリング試料があったので、その中に有孔虫化石が含まれるかどうかを調べてみた。結果としては本校試料からは有孔虫化石は産出しなかったが、探求心を育てることができた。
 本校の東数100mの位置に、静岡市立清水桜ヶ丘高校がある。ここでは最近、後者の改築工事が行われていた。そこで採取された、新しいボーリング試料を借用し、その中に有孔虫化石が含まれているかを調べてみた。このことは、当初研究計画にはなかったことであるが、生徒が興味を持ち、研究することにしたのである。
 静岡市教育委員会に協力いただき、ボーリング試料の借用をすることができた。分析の結果、桜ヶ丘高校の根古屋層に相当する地層に、有孔虫化石が含まれていることを、発見した。
 一方で、掛川市の掛川層群の地層も採取し、その中に有孔虫化石が含まれているかを調べてみた。この泥の中からも有孔虫化石が発見された。
 日本平の根古屋層と本校の近くにある桜ヶ丘高校の地下の根古屋層、そして、掛川層群ともに含まれていた有孔虫化石があった。Rectobolivina raphanaという種類である。水深100m以下の大陸棚外縁に生息する種類である。このことから、根古屋層も、掛川層群の地層も、水深100m以下の時期があることがわかった。
 研究を、高等学校文化連盟主催の静岡県生徒理科研究発表会中部支部大会で発表した。
優秀賞をいただき、また、会場では他校の生徒から質問が出て、興味を持ってもらうことができた。生徒たちには、貴重な体験をさせることができた。
 今年度は、顕微鏡操作に慣れることに時間がかかった。操作には慣れてきたので、今後はより多くの種類を同定し、さらに詳細に古環境の推定を進め、研究を深めさせていくこととしたい。