2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

最新電子機器を使った高等学校での物理教育の可能性を探る

実施担当者

福島 伸一

所属:長野県中野西高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 現在、私たちのまわりには最新の電子機器がありふれており、高校生たちはそれらを当たり前のように使用しているが、そこに使われている技術に物理学の研究成果が活用されていることを知らないでいる。そこで、それらの機器に高等学校で学んだ物理学の原理とその応用技術が使われていることを学ぶことで、物理学への興味関心を高め、さらに将来理工系を志望する生徒が技術開発の夢を抱くような授業展開を探った。最新電子機器としてGPS機器とデジタルカメラを選び、それらに使われている原理や技術を学ぶ授業を実施した。


2.GPS機器による授業展開
(1)地球の引力による人工衛星の運動を理解し、地球全域をカバーするためのGPS衛星の高度と数を学ぶ。
(2)位置を決定するために、3つの衛星からの電波と時間補正のための4つ目の衛星からの電波を捕捉する原理を学ぶ。
(3)原子時計による衛星の正確な時間計測の原理を学ぶ。相対論の効果による衛星における時間の進み方のずれの補正について学ぶ。
(4)GPS機器の活用として、GPS機器を持って歩き、距離と経緯度測定から地球の大きさを算出する。


3.デジタルカメラによる授業展開
(5)光電効果で光を電気信号に変える素子
「フォトトランジスター」の原理を学び、それらを小型集積化させたイメージセンサーの仕組みを学ぶ。

(6)デジタルカメラにはカメラの手ぶれを振動ジャイロセンサで感知し、それを打ち消すように瞬時にレンズや受光面が動く手ぶれ補正技術が備わっている。そのセンサ技術の仕組みや、受光面を駆動する磁力方式の原理を学ぶ。

(7)デジタルカメラの受光面の手ぶれ補正機構とGPS機器による地球の自転運動情報を結びつけることで、簡単に天体撮影が可能になる。その仕組みを学ぶ。

(8)デジタルカメラを用いて、運動体の運動を瞬時に表示できる。これまでは科教書のストロボ写真を使って体験したものを、その場で直接的に観察することで、各種の運動の解析に役立て、授業に活用する。


4.まとめ
 これらの授業は高校2年生を対象に、電気分野の「半導体、ダイオード、トランジスター」を学んだ後に実施した。半導体技術は電子機器を動かす素子をつくるその基幹となる技術である。ただ半導体を学ぶだけでなく、簡単なトランジスターを用いた回路をつくって説明をし、その原理が理解できた上で、それが小型集積化されたLSIがCPUやメモリになっていることをできるだけ易しく説明をした。また、半導体基板上に可動部分を製作してできたジャイロセンサが手ぶれ量を計測し、イメージセンサーの受光面を電磁力で駆動して手ぶれ補正する機構を分解したデジタルカメラの構造から考えさせた。教科書『物理』(数研出版)のコラムではLSIだけでなく、このジャイロセンサに使われているMEMS(Micro Electro Mechanical System)にも触れているが、これらの最新の電子技術を学ぶには、実際にそれらが活用されているGPS機器やデジタルカメラなどを使いながら、その原理と仕組み、技術を学ぶとよい。実際にこれら一連の授業について、生徒たちはたいへん興味関心を持ち、とても好評であった。1)