2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

最先端のロボット教育の推進と国際交流

実施担当者

福田 哲也

所属:追手門学院大手前中学校 教諭

概要

1.はじめに
 本実践は、最先端のロボット教育(キーワード:「ものづくり」「情報通信技術」「国際交流」)を通して、小中学生の創造力や科学技術の向上および米国をはじめとする他国の生徒との科学をテーマにした交流をねらいとしたものである。


2.いままでのロボット教育実践の概要
 本実施担当者(福田)は、2003年よりNASAの教育基金をもとに宇宙をテーマにしたロボット教育を推進し、海外の学校と様々な協同プロジェクトを行い、多くの成果を残してきた。そして、2013年より追手門学院大手前中・高等学校において、授業でもロボット教育の展開を試みた。参加生徒は決して理科やものづくりに興味をもつ生徒だけではないが、96%の生徒が授業に対して高い評価を行い、ロボット教育の教育的価値を明確にした。その教育的効果をより広めようと、2013年度の活動を発展させた実践を展開した。2014年度のロボット教育実践を次に記す。


3.2014年度のロボット教育実践
(1)授業おけるロボット教育の推進
 新学習指導要領中学理科において、「ものづくりの推進」が挙げられている。加えて文部科学省では小中校生の情報スキルの向上を目指している。そこで、昨年の授業でロボット教育を取り入れ、大きな教育的効果を生んだことから、その実践成果を広く発信し、地域の学校のパイロット校として、その役割を果たしたいと考えている。
①レスキューミッション
「山に水をはこべ!」(中1)
 生徒の発達段階を考え、中1ではロボット製作の基本構造を学ぶ授業を設定した(全4時間)。
 ロボットの歯車の組み合わせを変えることによるロボットの機動能力を実体験することで、その科学的特質を直感的に理解することに繋げることができた。アンケートにおいても、90%以上の生徒が技術的なものだけでなく創造力の向上に繋がったと、高い評価を示してくれた。

②スペースミッション
「火星の生命を探せ!」(中2)
 中2では、製作したロボットをコンピュータでプログラムをつくり、制御することを目標とした。授業においてレゴEV3ロボットキットを教材とした。ただ、単にロボットキットを動かすのではなく、宇宙をテーマにした課題を設定し、より生徒の意欲が高まるようにした。課題は「火星探査」に設定した。火星探査機は、地球からリモートコントロールによって動作を操作することができるが、緊急時のために障害物を避けたり、急な崖で止まったりするプログラムが仕込まれており、自律型ロボットの側面ももっている。火星や火星探査機の学習の後、火星探査機のモデルを製作し、フィールド上のミッションを行う過程で、プログラミング技術を養うことをねらいとした。
 4時間のロボット教育の授業後の生徒の感想を次に記す。

【ロボット教育のまとめ(感想)】
・プログラミングがとても楽しかったです。岩石がとれてうれしかったけれど、持って帰るときに引っかかってしまったのが、とても悔しかったです。めっちゃ楽しかったです。またしたいです。
・結果は、まあまあでした。自分で操作するのは簡単でも、ロボットが自律して動かすためには、「このあとどうなるのか」ということを考えなければならず難しかったです。操作との大きな違いがわかりました。楽
しかったです。

 以前にプログラミングをした経験のある生徒はいない。当初、全4時間でのロボットプログラミングは厳しいと考えた。しかしながら、指導者の想像以上に生徒の意欲は高かった。その中で、壁をうまくつかったり、距離と回転数の関係を測定したり、工夫されたロボットを製作する班もあった。ロボット教育が手先の器用さやコンピュータの操作能力の向上だけでなく、創造力の育成にも繋がることを改めて実感できる場面を垣間見ることができた。

(2)世界の頂点を目指して(科学クラブの設立)
 授業でロボットやものづくりに興味を持った生徒たちに応えるために、2014年4月、科学クラブを設立した。科学クラブの活動理念は「宇宙をテーマにしたロボット教育活動」である。そして、6名の生徒がその門戸を叩いた。彼らの活動実績を次に記す。
①世界規模のロボットコンテストWRO
(World Robot Olympiad)への挑戦
 科学クラブは、世界規模のロボットコンテストであるWRO(World Robot Olympiad)に挑戦した。ちなみにWROには世界50カ国8万人以上の子どもたちが参加している。また、文科省や経産省も後援している。
 たった6名の部員であったが、3つのチームにわかれ、【高校ベーシック部門】【中学エキスパート部門】【中学オープン部門】に参加した。とはいえ、ロボット製作もプログラミングも素人同然である彼らに、指導者としても期待はできなかった。しかしながら、3チームとも大阪予選を勝ち上がり全国大会の舞台に。日曜日も1日中練習したいと生徒が嘆願するようになり、彼らの成長は目を見張るものがあった。そして、3チームとも全国大会の表彰台に立つ快挙を成し遂げた。加えてオープン部門のチームは、世界大会への切符を掴んだ。

【中学オープン部門】に出場した松尾と岩田は世界大会に駒を進めた。世界大会は、ロシア(ソチ)で行われた。オープン大会は、その年のテーマをもとにロボットを製作し、その構想や自慢のロボット技術を発表するというものである。今年のホスト国はロシアということもあり、「宇宙」がテーマであった。2人は火星に人類が行くために月にロケット工場をつくることを提案し、それをロボットで表現した。
 今回、残念ながら世界大会で入賞することはできなかった。しかしながら、小学生のような幼い面をもっていた彼らが、この世界大会を通して大きく成長する様を目の当たりにし、あらためてロボット教育の教育的価値を痛感している。また、英語もままならない彼らがたくさんの国の代表チームの生徒たちと交流をしている様を垣間見ることができた。きっと今回の経験をこれからの様々な活動に活かしてくれることだろう。

(3)ロボット教育の啓発と地域貢献
 ロボット教育の教育的価値は、21世紀スキルとも直結しており、これからの教育を考えたとき、ますますロボット教育の必要性は高まると考える。
 そこで、科学クラブの中高生が指導者となり、地域の小学生に対してロボットセミナーを開催した(6月大阪市、9月大阪市、12月柏原市、1月大阪市、2月奈良市)。当初、数回の予定であるが、結果的には5回することになった。これは、ロボット教育の必要性と重要性を物語っている。ロボットセミナーでは、幅広くロボット教育ならびに「ものづくり」の素晴らしさにふれる機会を提供し、大阪から最先端のロボット教育を全国に、また世界に向けて発信することをねらいとしている。とくに文部科学省がICT教育の推進を掲げ、タブレットの導入を呼びかけていることから、タブレット端末を用いたロボットのプログラミング講座を展開した。ただ、安易にロボットキットを動かすだけではなく、火星を見立てたフィールドをつくり、いつかの課題を遂行する内容とした。


4.ロボット教育を支える3人の宇宙飛行士
 本件担当者(福田)は、2003年よりNASAの教育基金をもとに宇宙をテーマにしたロボット教育を推進し、海外の学校と様々な協同プロジェクトを行い、多くの成果を残してきた。この活動は、1986年のスペースシャトル・チャレンジャーの事故で亡くなったクリスタ・マコーリフ宇宙飛行士と深く繋がっている。彼女は教師であったことから、「子どもたちに宇宙の素晴らしさを伝えたい」という遺志をもとに、この教育基金が設立された。そして、本基金をもとに福田と米国教師であるイバーラ教諭によって、マーズ・ローバー・プロジェクトを行ったことが本実施担当者(福田)のロボット教育の原点である。
2014年6月、NASAのジョン・マックブライド宇宙飛行士が私たちの学校を訪れた。クリスタ・マコーリフ宇宙飛行士と同じくスペースシャトル・チャレンジャー号に乗って宇宙に行った宇宙飛行士である。不思議な縁を感じざるを得なかった。


5.成果と課題
 本年度からロボット教育を本格的に展開したが、その成果にただただ驚いている。
 授業におけるロボット教育について、生徒たちは思考力や創造力の育成に繋がると高い評価をしてくれた。また、授業やロボットセミナーではお互いに「学び合う」「教え合う」ことを意識した。そうすることで、「教える」という学びによって、ロボット製作能力だけでなく、コミュニケーション力を培う機会に繋がっている。また、生徒が指導者として展開する授業形態はロボット教育の無限の可能性を示している。
 加えて科学クラブの今年度の活躍は目を見張るものがある。とくにWROロボットコンテストにおいて、6名の部員全員が表彰台に立った。これは、長年ロボット教育に携わってきた指導者にとっても信じられない光景であった。言葉を言い返すと、彼らは奇跡を起こしたのかもしれない。ただその蔭には、奇跡と言われるくらいの努力があることを忘れてはいけない。
 とはいえ本校にロボットキットがもともとあったわけでもなく、プログラミング用のパソコンも指導者の私物をやり繰りしている状態である。また活動場所もなく、環境的には厳しい状態であった。新たに科学クラブの門戸を叩く生徒もおり、これからの環境整備が急がれる。
今後、本校においてロボット教育の推進はいう
までもないが、本校だけの取り組みに終わらせるのではなく、その教育実践と教育効果がものづくり文化のまち「大阪」、科学技術立国「日本」そして「世界」へと広がることを熱望している。