2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

最先端のロボット教育の推進 ~世代をこえた学びの構築~

実施担当者

福田 哲也

所属:追手門学院大手前中学校 教頭

概要

1 はじめに
 WRO(ワールド・ロボット・オリンピアード:文科省、経産省後援)は、世界50カ国、小中高生8万人以上が参加する世界規模のロボットコンテストである。また、JSTが指定する国際科学コンテストの1つでもある。ロボット分野で注目されている日本であるが、日本の小中高生のロボット製作技術レベルは決して高いとはいえない。それは「ものをつくる」機会が彼らにほとんどない現状からも推測することができる。しかし、このような現状は科学技術立国といわれてきた我が国の未来を揺るがすものであることはいうまでもない。そのような課題を改善すべく、【大阪ロボットプロジェクト】を立ち上げ、大阪の地からロボット教育を中心とした科学教育の推進を図り、全国へ世界へと発信することを試みた。
 そこで、地域の小学生を対象にロボットセミナーを開催し、ロボットづくりに興味ある小学生をロボット技術に長けた本校中高生が指導し、ともにWROに挑戦することを試みた。また、小学生と中学生のコミュニケーションを促進するために大学生も加わった。これにより、本校中学生が小学生を教える場面で「教える」という「学び」を習得することができるし、大学生がセミナーのファシリティト(支援)することによって、世代をこえた学びに繋げたいと考えた。

 本活動のねらいは次の通りである。
①世界規模のロボットコンテストWRO(ワールド・ロボット・オリンピアード)に学校枠をこえて挑戦することを通して、小中学生に対して「ものづくり」や「プログラミング」の素晴らしさを伝え、「ものづくり」を支えてきた大阪の地から末来の科学技術を担う人材育成を図る。
②WRO大会への挑戦の過程において、「ものづくり」の力だけではなく、「学び合い」「教え合い」の活動を通して、生徒のコミュニケーションカ(表現カ・判断カ・協調性)の育成に努める。


2 活動内容および時期
2-1 大阪を中心とした小中学生のためのロボットセミナーの開催(6月)
テーマ:「Mission on Mars」(火星探査をテーマにしたロボットセミナー)
内容:火星を設定したフィールドにおいて、自ら製作したロボットをタブレットで制御しながら、課題を遂行する。その過程で、「ものづくり力」「創造力」「人間関係力」を育成する。
参加者:地域の小中学生16名(2名ずつ8チーム編成)
5月に募集
指導体制:各チームの助言者として本校中高生(10名)、全体進行として大学生(2名)
教材:ロボットキット8セット、プログラミングタブレット8セット

2-2 世界規模のロボットコンテストであるWROに挑戦(7月・8月)
内容:WRO大阪ベーシック部門に挑戦する。
参加者:セミナー参加者から、WRO大阪ベーシック部門に参加する小学生を募る。
小学生2名・本校中高生l名でチームを構成し、全7チーム(14名)でWROに挑戦する。
指導体制:本校中学生6名がサポートに入りながら、ともに大会に挑戦する。
プログラミングに長けた大学生5名にチームサポートをする。
教材:ロボットキット(EV3)7セット、コンピュータ(EV3ソフトウェア)7台

大阪ロボットプロジェクト(WRO 大阪大会ベーシック大会に挑戦!)
第1回 チーム編成・自己紹介・基本ロボットの作成
第2回 基本プログラムの習得
第3回 センサーを使ったロボット制御
第4回 ライントレースのプログラミングの習得
第5回 ロボットの誤差を減らす術の習得
第6回 WRO大阪大会準備

2-3 世界の頂点を目指して(4月~11月)
 本校中学生は、WRO大阪大会、WRO全国大会(東京9月)、WRO世界大会(インド11月)を目指し、高度なロボット製作に取り組み、日本のロボット教育を牽引する。


3 まとめ(活動の成果)
 大阪ロボットプロジェクトは、単にものづくり力の向上だけでなく、ロボットを試行錯誤しながら製作することで、考える力および創造力の育成を目指すものである。参加した小学生のアンケートから①ロボット製作技術、②プログラミング技術、③間題解決能力、④創造力、⑤コミュニケーションカ(表現カ・人間関係力)のすべての項目において能力が向上したことが推測される結果を得た。

 また、WRO挑戦のために夏休みに6回のプログラミング講習を行ったが、誰1人休むことはなかったことからも、参加小学生の興味・関心を高めることができたことを察していただけることだろう。
 そして、WRO大阪大会では、7チーム中6チームが8位以内の上位入賞を果たすことができた。また、小中大学生が1つの目標に向かって取り組むという世代をこえた教育実践ができることは、ロボット教育の無限の可能性を示唆している。

 今回、指導にあたった中学生自身も、WRO大阪大会で優勝をふくむ素晴らしい成績を残し、全国大会に臨んだ。全国大会でも、「枝打ちロボットによる日本の林業の課題解決」を発表した中学生チームが優秀賞(全国で1チームのみ)を獲得し、日本代表として世界大会の切符を掴んだ。そして、世界大会(インド)でも健闘し、国内外から高い評価を得た。
 今年度の本校ロボット・サイエンス部の主な実績を次に記す。
WRO全国大会ミドル部門高校生準優勝
WRO全国大会ミドル部門中学生3位
WRO全国大会オープン部門優秀賞(優勝)→WRO世界大会(インド)オープン部門出場
FLL西日本大会2位→FLL全国大会9位→FLL世界大会(アメリカ)出場
ロボカップ大阪大会優勝→ロボカップ全国大会4位
テピアロボットグランプリ大会準グランプリ  他

 今年度の本校中学生の活躍については、日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞をはじめ、多くの新聞にも掲載された。また、府知事への表敬訪問やインド領事館の方との繋がりをもつことができ、素睛らしい経験をし、その様子は、TV大阪等のメディアでも採り上げられた。

 新学習指導要領の改訂にともない小学校でのプログラミング教育の推進が叫ばれている。しかしながら、そのノウハウが教育現場には存在しない状態である。今回実践した大阪ロボットプロジェクトは、まさにこれから求められる教育実践であり、本実践が日本の教育の先駆的な役割を果たすことを期待してやまない。