2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

普通教室におけるICTを利用した観察力・表現力の向上を目指す化学の授業

実施担当者

三嶋 廣人

所属:宮城県気仙沼高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校は宮城県北部の気仙沼市にある公立学校で、東日本大震災で校舎への直接的な被害は少なかったものの、家の流失や親の収入減少など、生徒の多くは何かしらの影響を受けた。震災を機に、地元産業の復興や地震・津波の研究、防災に興味関心を抱くようになり、将来その道に進みたいと思う生徒が増えた。このような中、地域の拠点校として、将来の気仙沼を担う人材を育成すべく、支援を受けながら様々な活動を行ってきた。その一つに平成25年度、公益社団法人日本化学会の支援を頂きiPadを10台購入し、ICT機器を活用した授業方法を模索してきた。化学の実験に使用しある程度の成果が見えた。しかし、特別教室での実践であったため、中谷医工計測技術振興財団の助成を受け、普通教室での実践について今年度研究させていただいた。


2.ICT教育について
 ICTとはInformation and Communication
Technology(情報通信技術)の略で近年教育分野での利用が注目され、国の戦略でも平成32年までに小中学校で一人に一台タブレットPCを持たせることを表明している。佐賀県では今年度からすべての県立高校でタブレットPCを用いた授業を行っている。


3.本校の環境
 本校は独自に光インターネット回線を一部にひいているため、化学室内で無線LANが使えるように環境を整備し、授業や実験でICT機器を活用してきた。しかし、普通教室にはそのような環境が整っていないため、今回の助成で機器をそろえることにした。


4.可能になったこと
 黒板いっぱいに投影するには、普通のプロジェクタでは黒板から2m、短焦点型でも1mの距離が必要になる。しかし、超短焦点型では40cmあれば十分で、教壇の位置から投影でき、スペースがいらない。DVDプレーヤーを接続すれば、テレビのある教室に移動することなく、教室で80インチのテレビモニタが作れる。HDMIケーブルで接続すればプロジェクタのスピーカーから音声も出る。
 また、無線LANルーターとApple TVがあることで、Apple TVのミラーリング機能を使いiPadの画面を無線で飛ばし、見せることができる。教室内を巡回しながら、手元にある画面で操作でき、カメラ機能等を使えば、生徒のノートやプリントに書いたことを即座に投影でき、全体で考えを共有することができる。


5.実践内容
 前述の通り、教室でICTを気軽に使える環境が整ったため、DVDで映像を見せるのはもちろん、iPadのアプリを使った授業(化学では元素図鑑やバーチャル実験室)を化学の授業で行い、英語や国語でも実践し始めた。その中から、化学の無機物質の単元にある「陽イオンの分離」における実践を紹介する。
 この実験は、4種類の陽イオンを含んだ試料(5パターン用意し班ごとに違うものが混合されている)に対して実験をして、含まれている陽イオンを探る実験である。無機物質の総まとめの実験で、それぞれの元素の性質を理解していないと突き止められない、難易度が高い実験である。
 実験プリントに沿って操作を行うのは変わらないが、所々iPadで写真をとるよう指示。実験結果をプリントに簡単にまとめ1時間目終了。2時間目に普通教室で班を作り座らせ、最初にアプリGood Notesの操作方法だけを伝え、約30分間まとめレポートを作成。残り15分でアプリで作成したiPadの画面をスクリーンに無線で投影しながら、導き出した結論を説明する(その様子が最初の写真)。導き出した結論に他の生徒が疑問を持ち、その場で議論することもできた。


6.まとめ
 写真付きでのレポートは後から見ても現象を思い出せるため効果的であり、相手に伝える説得力を持つ。また、ビデオ撮影すれば一瞬の変化でも、あとから何度でも振り返ることができる。このようにiPadは有効なツールである。更に、プロジェクタ等で全体に発信し共有できる環境があることで、実験やって終わりではなく、結果について議論する場を教室で容易につくれることがわかった。この設備が他教科や総合的な学習の時間等で活かせる様に、今後も研究していきたい。