2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

日野山周辺(越前市味真野地区)の在来種タンポポの生態~夏眠性とニッチについて~

実施担当者

澤崎 孝也

所属:武生東高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校理科クラブは、2年間の越前市味真地区のタンポポの調査により、(1)この地域には見かけ上の外来種タンポポの中に、在来種との交配でできた雑種タンポポが高い割合で存在すること、(2)在来種ニホ
ンタンポポは、雑種や外来種タンポポとは違い、上層に他の植物が茂る群落の下層でも生育することができ、この地域の生態系の中で特有のニッチ(生態的地位)をしめていることを確認した。(2)が可能な理由として、在来種ニホンタンポポは、他の植物が葉を展開する夏の間は自らは葉を畳んで休眠し、他の種が衰える秋から冬・早春には葉を展開し、光をとる「夏眠性」を持っているからと考えられた。
 本年度、当クラブはこの「夏眠性」という現象が具体的にどのような形で発現するのか、について以下のように観察・実験に取り組んだ。


2.研究の目的
 在来種ニホンタンポポと雑種タンポポの「夏眠性」について「葉」に注目し、タンポポが春の開花後、葉の数を減らし、葉を縮小する現象を(1)写真記録と(2)数値データの2つで明らかにする。また、在来種ニホンタンポポの中でも種類により「夏眠性」に差があるか確かめるために、この地域に自生種及び自生していない種も観察実験に加えて、違いを調べる。


3.調査方法
(1)葉緑体
DNAの解析:調査個体の葉緑体DNAを解析し個体を在来種ニホンタンポポと雑種タンポホを分類する。

(2)「タンポポ活性指数」の定義;「葉の数」とともに、葉のサイズと数に現れるであろう「夏眠性」を評価する観点の1つとして、以下のように定義してみた。

タンポポ活性指数=そのタンポポ1個体の「葉の本数」
×最大葉の「長さ」×最大葉の「幅」

この指標の、値が大きいほどそのタンポポの「夏眠性」は発現していないことを表わし、この値が小さく、「0」に近いほどそのタンポポの「夏眠性」が大きく発現していることになる。

(3)観察地点の設定;
ア、光に恵まれない環境でありながら、この地域に自生する在来種ニホンタンポポを、定点観察点として、

(注:表/PDFに記載)

上の①②のように2カ所、設定した。
イ、プランターに、比較すべき在来種ニホンタンポポ、対照実験の意味で雑種タンポポをプランターに植栽し、比較的光のあたる本校生物室横の庭に置いた。プランターには、1鉢あたり同じ種類を3~4個体
(株)植栽する。

(注:表/PDFに記載)

(4)定点観察点およびプランター植栽タンポポを1~2週間ごとに1回、測定・写真等に記録しグラフ化した。


4.調査結果
(1)DNA解析結果

(注:図/PDFに記載)

 44サンプルのうち、32個体を解析できた。1種類当たり最低3個体のサンプルがあり、すべての種類の葉緑体DNAのタイプが解析できた。(図2)

(2)写真による記録結果

(注:図/PDFに記載)

 上の図3は、本校構内生物室横の庭のプランター植栽タンポポの写真である。在来種ニホンタンポポ各種は、
8月18日以降、夏眠を脱し葉を増やし始めた時ものである。下の図4は、在来種ニホンタンポポ各種の生育状況の推移を写真で記録したものである。

(注:図/PDFに記載)

(3)数値データ(グラフ)の結果
図5は、プランター植栽の各種タンポポの「葉の数」、
の推移、図6は同様に「タンポポ活性指数」の推移を表したグラフである。

(注:グラフ/PDFに記載)


5.まとめ
写真・及びグラフから以下のことが言える。・8月中旬には数が少なくなっていること、・セイタカタンポポやシロバナタンポポのように「夏眠性」が強く現われる種とトウカイタンポポのようにそれほど強く現れない種がある。・プランター植栽の環境のように光に恵まれている環境でも「夏眠性」は発現される。・夏眠性の「差が収束する点」があることが分かった。

(注:図/PDFに記載)


6.考察
 夏眠性の「差が収束する点」の存在について、この現象が夏眠性に因るものなのか、それとも今年の特殊な(異常な暑さ等の特殊な気候に因るものか疑問が残る。次年度は、この点を詳しく確かめる必要がある。課題としては、純系の外来種タンポポを探し出し、その夏眠性発の様子を調べ、在来種や雑種との「夏眠性」発現の差を確かめたい。
今後も在来種ニホンタンポポやその雑種タンポポの夏眠性のしくみに迫っていきたい。