2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

日野山周辺のタンポポについて~みかけの外来種における雑種の割合について~

実施担当者

澤崎 孝也

所属:武生東高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 セイヨウタンポポやアカミタンポポ(外来種タンポポ)は近年,生息場所を急激に広げており,在来種(ニホンタンポポ)と交配し、両種の間で、雑種化が急激に進行しているといわれている。この雑種タンポポは、純系の外来種タンポポと外見上見分けがつかない。この純系と雑種の両タンポポを「見かけの外来種タンポポ」と呼ぶ。
 当クラブは昨年度に引き続き,本校近辺の味真野地区を調査対象範囲とし,同地区の見かけの外来種タンポポのうち,雑種タンポポの占める割合(雑種率)を調査・実験により明らかにした。


2.研究の目的
(1)味真野地区の見かけの外来種タンポポの雑種率を,葉緑体DNAを用いたPCR法・電気泳動法により解析する。昨年のデータにさらにサンプル数を増やして調査の精度をあげる。
(2)雑種化した外来種タンポポは在来種(ニホンタンポポ)と「すみわけ」をしているかどうかを、外来種(雑種・純系)と在来種の生育の分布図をつくることにより確かめる。


3.雑種タンポポの葉緑体DNAについて
 在来種タンポポは基本的に2倍体で,受粉により種子を生産する。外来種タンポポは基本的に三倍体で「無融合生殖」と呼ばれる特殊な種子生産様式をもっており,受粉することなく種子を生産することができる。葉緑体DNA(1倍体)は核外遺伝子としてめしべの雌性配偶子から次世代に遺伝する。
 雑種タンポポは,在来種タンポポのめしべに外来種タンポポの花粉がついてできるので,次世代には必ず母方の在来種タンポポの葉緑体DNAが引き継がれる。一方の純系外来種では配偶子をつくらず,葉緑体DNAは純系外来種タンポポのものがそのまま引き継がれる。よって見かけの外来種タンポポの葉緑体DNAが在来種タンポポのものであれば,その種は「雑種の外来種タンポポ」,外来種タンポポのものであれば,「純系外来種タンポポ」と判定される。(図2)


4.調査方法
(1)見かけの外来種タンポポが雑種か純系かは,各個体の葉緑体DNA(1倍体)が在来種タンポポ由来のものか,純系外来種由来のものかをPCR法・電気泳動法で明らかにする。在来種タンポポの葉緑体DNAは外来種のものより長く電気泳動で差が出る。(図3)
(2)調査範囲の設定:本校近辺の日野山のふもとの味真野地区を中心とした2km?2kmのエリアを設定した。(図1)
(3)サンプル標本の作製。昨年はエリア内で49個体、今年度は50個体を採取)・写真撮影(GPSデータを記録できるカメラでサンプルとその生育環境,周囲の環境を撮影)・分布図の作成・サンプルの葉緑体DNAのタイプを判定(葉緑体DNAのTrnL.-F領域をPCR法・電気泳動法で調べた。)(図3)・DNA解析実験結果から見かけの外来種の雑種率を計算する。


5.結果

(注:図/PDFに記載)

(1)雑種率について
見かけのセイヨウタンポポは,雑種率79.1%%、見かけのアカミタンポポは81.8%,外来種タンポポの総計雑種率は,79.6%であった。(図4)

(2)すみわけについて
・在来種(ニホンタンポポ)は、大きめの川沿いの自然の残っている環境(社叢林、植え込み等)に多い。
・在来種タンポポの多いエリアの両側に雑種のセイヨウタンポポが多くみられる。(図5)
調査結果より在来種・外来種の雑種タンポポに関して「すみわけ」がみられると言える。


6.考察
 在来種タンポポは有性生殖で,1年のうち春に1回だけ種子をつくり綿毛を飛ばす。夏の間は、夏眠性を発揮し,小藪の中で他の背の高い植物との競争を避け,晩秋から早春をじっと待つ。これにより,在来種タンポポは独自のニッチを持つことができると予想される。今後「夏眠性」について,この現象の実態の確認と,この現象の
スイッチをONにする条件について調べてみたい。