2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

料理の科学と科学マジックを通して、生徒の興味関心と生活の中で生かせる科学リテラシ ーの育成 -高校と大学や科学館との連携を探る- (初年度報告)

実施担当者

島 弘則

所属:富山県立志貴野高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 志貴野高校は、高岡駅前の総合ビルの中の定時制高校です。また、県民カレッジ高岡地区センターと連携して地域の生涯学習の拠点としての役割も担っており、社会人と共に学ぶ共学講座も開講しております。生活文化科を設置していることから、女子生徒が多く在学しています。学校生活や家庭生活で様々なトラブルを抱えてきた生徒や不登校経験者、また情緒が不安定な生徒が多く在学しています。そのため特に理系の学力が低く、その上高校で理科4単位のみの履修で卒業し、その後理科を学ぶ機会がないものが多くいます。そのような生徒たちも将来母親となり、子供を育てるようになれば彼女たちの理科への興味の無さが次の世代に引き継がれる心配があります。
 さて、社会の発展のためには理科教育の充実が必要だといわれています。本校に通学するような生徒や社会人の科学リテラシーの育成や理科に対する興味関心の育成こそ、日本の理科教育の底上げになると確信しています。
そのため、身近な題材や現象を多く選び、高校と大学及び科学館との連携による、実験教材の開発と特別授業実施による授業研究を行うことといたしました。


2.目的
 高校生と社会人のために、料理の科学と科学マジックを通して、生徒の興味関心と生活の中で生かせる科学リテラシーの育成を目的とし、実験教材の開発と実施研究を、高校と大学および科学館等の連携を探る。


3.方法
3-1 大阪科学技術センターとの連携
 特に科学マジックを含む実験を多く行い、生徒の興味関心の育成に資する教材を使用し実施する。
・題目 味のヒミツ
・生徒の集中力・記憶力のチェックと称する科学マジック
・回折格子による光の実験
・放射線によるデンタルフィルムの感光実験
・ペットボトル中のウーロン茶が水に変わるマジック(酸化還元反応 イソジン ビタミンC カルキ抜きを使用)
・紫色のワインの色が変わる科学マジ(BTB溶液 アルカリ溶液 酸性溶液使用)
・味の秘密の講義と実験
・味の基本の種類
 ケーキ、レモン、塩、ゴーヤに対応して甘い、酸っぱい、しょっぱい、苦いの4つ。
・5つめは「うまみ」 ミネストローネ、味噌汁に含まれる。
・実験 醤油、ビーフエキス、チキンエキス、乳糖を混ぜて作ったスープからうまみ成分を取り除いたスープを作り、味わう。
 良い臭いがするが、何か足りないことを話し合う。

 上記の残ったスープに「うまみ調味料」を入れて、味を確かめる。うまみの確認をする。
・うまみの素になる物を学ぶ
グルタミン酸 昆布、チーズ、トマト イノシン酸 煮干し 鰹節 ハム グアニル酸 干し椎茸
・いくつかのうまみが合わさると、よりうまみが強く深くなる。
 昆布と鰹節の合わせ出汁は、グルタミン酸とイノシン酸
・池田菊苗博士の昆布からのグルタミン酸の発見とうまみ調味料の発明
・昆布に含まれるグルタミン酸の量は2%
・日本人1人あたりは年間1Kgのうyまみ調味料を使用。昆布に換算すると400Kgとなる。
・昆布の産地と種類
・現在は、サトウキビから絞った糖蜜を発酵させてグルタミン酸を作っている。

3-2 富山大学教育学部との連携
・題目 目に見えない光や電磁波と生活
・回折格子による光の実験
・赤外線 リモコンとカメラの実験、炭火と焼き鳥
・紫外線 紫外線測定器や紫外線ビーズおよびブラックライトを用いた実験日焼け止めについての説明

3-3 黒部市吉田科学館との連携
・題目 海の中の森と牡蠣貝の発生について学ぶ
・近辺の生地港の海中のロープに発生した貝を分類しその発生の秘密を探るyy。
・干潟期、マット期、牡蠣礁期の変遷で、大気圏核実験によるF14Cによる年代測定を用い、ここ15年程度で形成されたyところがあることを確認した方法についての説明。
・外来種の移入年代による年代推定法。


4.結果
 生徒の感想を以下に述べます。
4-1 大阪科学技術センターとの連携
 スプーン曲げが簡単にできるのが驚きでした。
 味の素を入れない他の味覚だけのスープと、入れた物で味が全く違うのが驚きでした。
 料理は科学だと言っているTV番組がありますが、今日の授業を受けて本当にそうだと思いました。
4-2 富山大学教育学部との連携
 見える光だけではなく、見えない光もあることがあり、デジカメや紫外線ビーズなどを使うとそれが検出できることが分かりました。また、蛍光灯の種類により、肉などの食材がおいしく見えたり、そうでなく見えたりするのが、不思議だと思いました。
 日焼け止めに書かれているSPFやPAのことが、よく分かりました。
4-3 黒部市吉田科学館との連携
 牡蠣礁が形成されていく様子を色々な観点から推理していくように説明して頂いた。
 富山でもおいしい牡蠣を食べることができるが、生態系が海の中で森のように形成され、環境を変えて行っているのがよく分かりました。生地港のロープにそれぞれの段階の貝が順に付着しているのが興味深かった。


5.考察とまとめ
 以上まとめますと、この事業により大学の理科教育の研究者、サイエンスカフェ指導者と科学技術センター職員等の指導により、高校の現場ではあまり行われていない、生徒の興味関心や科学リテラシーを育成するための多くの実験を行うことができ、さらにそれを記録に残し以降の指導に役立てることができます。さらに、行った実験を他の学校やサイエンスカフェで紹介することができます。
 通常の高校の理科教育では、このようなことはできませんが、参加した生徒にとっても、それを聞いた人たちにとっても、新たな理科に対する興味や知見が開かれる効果があると期待しております。
 また、本校は地域の生涯学習校としての役割も担っており、社会人とともに生徒が学ぶ共学講座が開講されています。ここでも実施いたしました。科学リテラシーの普及の研究に大いに役立ったと考えております。
 本実践で得られた知見の発表は、大学での研究発表や全国理科教育研究大会で全国の理科教育の関係者を対象とした発表さらに教育ネット上での発表の他サイエンスカフェでの応用も予定しております。