2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

教育と地域振興をつなぐ日本の古典園芸「変化アサガオ」

実施担当者

水本 祐之

所属:奈良県立青翔中学校・高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 変化アサガオとは、日本の古典園芸植物の一つである。江戸時代に爆発的に流行し、変わった色や形の花を咲かす変わりものが多数育種された。しかし近年になると、多くの変化アサガオが失われ、一部の研究機関などで栽培法の伝承と品種の維持が行なわれるのみとなった。本校では、中学校理科の遺伝分野における教材として変化アサガオを用いている。生徒は実際に、変化アサガオの栽培と品種の維持を行うことで、貴重な遣伝資源を後世に継承する取り組みに参加している。一方で、本校が位置する奈良県御所市は、少子高齢化と人口減少が問題となっている。そこで本事業において、御所市と協力し、本校が行う変化アサガオ栽培と遺伝資源の維持を御所市民とともに取り組むことで、特色ある地域の創生につなげる取り組みを行った。また、変化アサガオを実験材料や教材として用いることで、遺伝に関する基礎的な知識・理解を深め、科学的思考力の育成も目指した。


2 実施内容
2-1 実施概要
 本事業は本校中学2年生と3年生の一部(合計50名程度)と、高等学校の生徒を含む本校科学部(約30名)に対しておこなった。
 中学2年生に対しては、変化アサガオを教材とした理科の講義を行うことで、生徒の遺伝に関する興味・関心を育むとともに、遺伝に対する理解の促進を目指した。
 中学3年生に対しては、本校独自の科目「探究科学」において、生徒4名が変化アサガオを実験材料に探究活動に取り組んだ。
 科学部の部員は、変化アサガオの苗を多数育成し、それらを地域の住民に配布する活動に取り組んだ。また、栽培したアサガオの種を採取し、遺伝資源の維持にも取り組んだ。

 各項目の実施時期と実施内容を以下にまとめる。

5月~6月:変化アサガオを用いた講義の実施。変化アサガオ栽培に関する歴史を理解するとともに、メンデル遺伝学の基礎を学ぶことで変化アサガオの新品種作成に向けた基礎知識を理解する。[中学校生徒対象]

6月中旬:前年度に回収した変化アサガオの種子を播種し、御所市民への配布用苗を準備した。

7月15日:御所市の協力を得て、市内各地で生徒による変化アサガオの苗の配布した。また、生徒が授業で学んだ知識を活かして、変化アサガオ栽培と品種の維持に関するパンフレットを作成し、配布した。

9月~2月:「探究科学」において、中学3年生の生徒が変化アサガオの諸性質についての研究をおこなった。

11月:変化アサガオの種子を回収し、保存した。

1月~2月:中学2年生の理科の授業において、変化アサガオを教材として用いた。

2-2 変化アサガオを用いた遺伝の授業について
 本校では、中学2年生の生徒が、理科において遺伝の仕組みを学ぶ。この単元においては一般的に、メンデルの業績を紹介するとともに、エンドウを例にとって、「優性形質と劣性形質の違いについて」「子や孫の形質の変化について」「遺伝子の伝わり方について」「遺伝子と形質の関係について」などを学ぶ。しかしエンドウを用いた例が、生徒たちにとってはあまり一般的でなく、知識・理解の定着があまり進んでいないように考えられた。変化アサガオでは、劣性遺伝子をホモに持つことで、花弁や葉に著しい変化が現れる。このことから、変化アサガオは、エンドウで学ぶ遺伝の仕組みを身近に観察することが可能となる教材となりえる。またアサガオは、多くの生徒達が実際に栽培したことのある数少ない植物の1つである。実際に、身近なアサガオを用いて遺伝の仕組みを説明することで、遺伝に対する興味・関心をはぐぐむことができた。また、実際に変化アサガオを見ることで、知識の定着しやすくなったと考えられた。

2-3 生徒の実験材料としての変化アサガオ
 本校独自の科目「探究科学」において、中学3年生の4名が変化アサガオを研究材料として用い研究を行った。探究とは本校独自の科目であり、隔週で2時間の講義、実習、および生徒による自主的な研究活動を行う科目である。「探究科学」においては、研究に対する基本的な講義実習を半年間おこなった後、生徒が独自に選んだテーマで研究に取り組む。この「探究科学」において中学3年生の生徒4名が、変化アサガオを実験材料に探究活動に取り組んだ。
 「探究科学」においては、生徒が自分たちの考えでテーマを選定し、チームで研究を行う。このため、科学における実験操作を学ぶだけでなく、「発想力」「独創性」や科学に対する興味・関心を育むことができる。生徒の取り組む姿勢から、アサガオという身近な植物を扱うことで、生徒は強い意欲を持つことができたと考えられる。

2-4 御所市民と取り組む遺伝資源の維持と伝承
 変化アサガオは、一個体の親に由来する子でも、さまざまな葉の形、葉の色、花の形、花の色を示すものが得られる。そのため、毎年の変化を楽しむことができる。日本の古典園芸植物であるとともに、貴重な遺伝資源である変化アサガオを後世に残すとともに、より多様な品種の開発を目指すため、本校は御所市と協力して、プロジェクト「御所で咲かそう変化アサガオ」を2015年度から立ち上げた。将来的には、市民が変化アサガオを維持し、全国に種子を配布する「御所アサガオ・シードバンク」を目指している。本年度も、2016年7月15日(金曜日)13時から、御所市老人福祉センター(御所市櫛羅11281)において、御所市民の皆さんに変化アサガオの配布を行った。昨年より多くの変化アサガオの株(約60株)を配布することができた。また配布の状況については、新閾社によって報道された(朝日新聞8月6日朝刊、産経新聞8月19日朝刊)。この報道により、市民の皆さんに、本校の活動について広く周知することが、市民の皆さんからさまざまな反響を頂くことができた。


3 まとめ
 本校は、奈良県内で唯一の理数科単科高校であり、特色ある教育を行っている。また、併設の中学校も開校後4年目を迎え、特色を活かした教育を実践しようとさまざまな試みを行っている。日本の古典園芸の一つである変化アサガオを用いた遺伝の学習もそのような取組の一環である。本申請では、本校が取り組む変化アサガオ栽培と品種の維持を御所市民とともに行うことで、特色ある地域の創生につなげることを目的とした。また、このような取組を通じて、生徒の科学的思考力の育成と、コミュニケーション能力の向上を図る狙いがあった。1年間の取り組みの結果、身近なアサガオという植物を通じて、「生徒の科学的思考力の育成」だけでなく、学校と地域を結びつけることができ、「地域振興」の一助になったのではないかと考えられる。今後も本事業を継続し、更なる発展を望んでいきたい。