2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

探究学習を通した連携授業とその成果の検証-高校生が小学生に教えるエネルギー科学実験授業-を通して-

実施担当者

一木 博

所属:京都府立南丹高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校がエネルギー分野にかかわる連携授業を始め今年度が11年目となる。当初は、エネルギー科学実験を大学の先生から教えてもらい、それを事後学習として、授業で振り返る形式で進めていた。今思うと、当時は大学からのエネルギー分野の専門的なアプローチを受けるだけで満足していた。その実践をしている中、私自身が所属する「エネルギー環境ワークショップ」のメンバーに、同じ地域の小学校の先生が2名おられた。そのワークショップでエネルギーにかかわる授業プログラムの議論をしているとき、高校生が小学生に教えられないかという考えが浮かび、小学校の先生に提案したところ、快諾を得られたのが始まりである。
 初年度(2005)は、何をどれくらい準備すればよいのかなど、わからないことばかりであったため、必要教材の不足、機器の故障、高校生の内容把握・コミュニケーション力の不足など数々の課題が噴出した結果に終わった。しかし、その中にも、小学生の反応、高校生の前向きな行動など、担当者が予想しなかったよい意味での場面が数多くみられた。小学校の先生との交流も深められ、その次の年度以降も課題をクリアしながら続けていくこととなった。今年度は、これまで同様、成果と課題を検証しながら、エネルギー科学にかかわる高大連携授業および小学生への実験教室を実施した。前年度からの改善点の一つである、事前学習における探究活動の徹底を行いながら、今まで以上に内容を深めようという強い気持ちで臨んだ。


2.目的、意義
 エネルギー教育の必要性は社会一般どこでも認識されているのであるが、学校教育でどのような取組を行えば、効果的かつ効率的であるかを考えて授業案を立て、それを実践することをねらいとしている。大学との連携授業を中心としたエネルギー科学実験授業の計画を立て、そのまとめとなる実践が、今回テーマとなる小学生への実験授業である。
 以下に、この取組の目的および、意義と重要性をいくつかの視点に分け記す。
(1)目的
①高校生が大学の先生から学習したことを伝える(教える)取組を実践し、学習内容をさらに深める。小学生にも科学への興味・関心を今以上に持たせる。
②高校生に、物事を筋道立てて考え、結果に至るまでの過程を考えながら、その解決方法・考察過程を自分で発見しようとする、探究的なものの見方・考え方を身につけさせる。
③高校生が将来の自分の進路を決定するための選択肢を与える。

(2)意義・重要性
 小・高連携のクラス全員が取り組む理科実験授業としては、他にほとんど実践例がない本校独自のものであり、この11年間、体系的学習の成果に自信が持てるようになってきている。生徒たちが探究的ものの見方考え方ができるようになり、将来の「理科離れ」を少しでも和らげることができるのでは、という期待ができる。
また、[高校生アンケートで、将来教える職業に就きたいか、という問いに事後アンケートでは、数値が上昇している。実験授業を次の学年でもやってみたいという生徒が年に5~10名ほど出てくる、など、この取組の意義・重要性は大きなものであると考えられる。


3.活動内容(規模、課題、改良点など)
(1)活動内容と規模
 毎年、高校1年生の特進クラス(知的探求系列)の生徒を対象に、大学の先生による科学実験授業を行い、その成果と学習内容を深めるため、小学校への出前実験授業を実施した。
学習の流れは、以下のような内容で1年間の授業で取り組んだ。
①探究的な取組、大学との連携授業、小学生への実験教室、課題研究発表についての事前学習として行う。また、実施後には、振り返り学習やアンケートを実施する。
②今年度の助成金を活用した高大連携授業を
1年間に3回(以下のA,B,C)実施した。この中で、探究実験やエネルギー科学実験、年度によっては、環境にかかわる実験などを行う。
 探究実験では、生徒が試行錯誤を繰り返しながら、実験の方法を考え、発見していく。

A 東京理科大学の先生よりエネルギー科学実験として、色素増感型太陽電池の作製を学習した。導電性ガラスに酸化チタンを焼き付けし、ハイビスカスの色素で染色した負極と、6B鉛筆で炭素膜を塗布した正極を合わせて電池とする。後日この実験を、小学校への出前実験授業とするため、事後学習においてしっかりとした振り返り学習が必要となる。

B 京都教育大学の先生より探究実験として、「マッチ棒ロケット」の実験を学習した。実験方法はまったく伝えず、「マッチ棒でロケットをつくりなさい」という指示のみで、実験を開始する。
生徒たちは、自分たちで考え試行錯誤を繰り返し、時々ヒントをもらいながら、飛距離の出るロケットを考案するという実験。

C 高校生による小学生へのエネルギー科学実験教室
 エネルギー教育のすそ野を広げていくためには、学習したことを伝えて内容を深めるとともに、小学生に理科実験の面白さを強く印象付ければよいのではないかと考え、この取組を2005年度から取り入れてきた。本校独自の取組・実践で、高校生は対象クラス1クラス全員が参加。今年度も小学校6年生が全員参加し、授業内で実施した。また、2009年度に探究学習を始めてから、実験方法をすぐに伝えず、小学生にも考えさせながら実験を進めるという形式に変わってきており、小学生の感想にも「高校生が最初から答えを言わずに、自分たちに考えさせながら進めてくれたことがうれしかった」などといった、探究学習の成果が表れているものもみられた。
 自転車発電機の体験は、電気を発電するのにどれくらいのエネルギーが必要かを体験させ、児童・生徒たちが自ら節電意識を高めるものとなった。(小学生・高校生アンケートより)

(2)課題と改良点
 取組当初は、機材故障、高校生への指導不足、一部不成功など、小学生に十分満足してもらえるものでなかった。年々課題を改善していき、探究的な取組を入れることで、5年ほど前からこの取組の「準備・方法・まとめ」という一連の流れを完成させることができた。また、
 大きな課題としては、連携授業、出前授業を実施するためには、謝金・旅費・実験消耗品・生徒輸送など、多額の経費が必要となることである。今後は、学校の理科予算の中でどれくらいのことができるのかを、理科教員全体として話し合っていくことが重要である。


4.成果
 生徒の活動状況、小学生のアンケートでの感想、などを見ると、この10年間の取組を通して得た成果を今年度も同様に引き継ぐことができた。具体的な成果は、以下の項目として挙げられる。
①通常授業では見られない生徒の活動を引き出すことができた。⇒[普段ではほとんどしゃべらない生徒が、小学生に対して一生懸命伝えようとしている。グループごとに実験の進め方を考えさせているので、担当者がオッと思えるような探究的な活動を実践する。
②小学生への実験教室の前後、また、高校生への事前・事後学習でのアンケートを実施し、年度末に集計し、成果・課題を検証している。単年度で検証するのがよいのであろうが、ここ数年間の大きな視点で見たデータを次に示す。今年度までも、ほぼ同じような事前事後の推移を示しており、矢印で示すように小学生にも下記のように成果のあったことがわかる。(今年実施69名分もアンケート数に含む)特に「実験が好きですか」の項目が「好き」の方向へ大きく伸びている。
③生徒自らが、グループ内で実験進行の役割分担をしたり、探究的に活動できるよう進め方を立案して実行したりできるようになった。
④探究活動を導入することで、高校生だけでなく、小学生にもその成果が表れている。⇒感想に、
「印象に残ったのは、自分たちで考えどうすれば音が鳴るかです。はじめわからなかったけど、ヒントをもらうとわかってきて、とけるとうれしかったです。」のような感想が増えてきた。
⑤自転車発電の体験学習では、2010年度以降、
「発電するのがこんなに大変だとは思わなかった」という感想が多く、これまで以上に多くの小学生の節電意識向上につながった。


5.考察
 成果の項目でも記したように、この取組の成果はアンケートや生徒の活動状況を振り返ると、エネルギー教育の実践として、小学生にも高校生にも、非常に効果的なものであったことがわかる。
探究活動を始めた年度以降は、アンケートの結果などからみると、以前の結果よりも、多くの小学生・高校生が良い方向へ(自主性、積極性の向上)推移していることがわかった。
 2005年度から始め、これまでの取り組みで、1600名以上の小学生に実施した。また、下記「資料」に示すような小学生用個別実験レポートを1200名以上に配布している。(今年度も小学校へ80部を配布した)
 科学への興味関心をひかせることや一部ではあるが地域連携を深めるという目的はある程度達成できたと考えられる。
 この取組をさらに充実させることが、未来の科学者への人材を育てる一助になったり、地域での理科離れを少しでも抑えるおもりになったりするという確信が得られた。


6.この取組の特徴
 この取組は、授業の一環として高校生全員が行うこと、小学生も、授業として学年全員が参加すること前提としている。希望者のみが行えば、うまくいくのが当たり前で、それは、休日などで実施されている実験教室やイベントに任せ(私も積極的に講師を務めている)、別の角度から科学への興味関心を、できるだけたくさんの児童・生徒に広げていきたいと考えている。高校生・小学生が、理科や実験の好き嫌いに関係なく、全員で取り組むこと、これを今後も改良を続けながら続けていくつもりである。
 小学生や高校生から新しい発見をもらったり(指電池、探究活動の進め方)、普段見られない高校生の行動(前述:4成果)を見たりすることで、次も絶対これ以上の取り組みをしようというエネルギーを受け取っている。これが次への行動力の源になっていることは間違いない。
 授業内では、高校生が小学生に教える実験教室の年度ごとの課題を改善してきており、2009年度からは、探究的要素を取り入れた新しい実践(高校生がすぐに先の手順を伝えず考えさせながら進めていく、グループ独自の進め方を計画する)を取り入れることができた。今年度の取り組みにおいても、この特徴を生かした活動ができたといえる。(アンケートより)今後も新しい視点を取り入れながら、引き続きこの取組を続けていきたい。


7.まとめ
 今年度の取組では、授業内での事前学習が例年ほど多く取れなかったが、生徒たちは集中して学習すると、積極的に活動できるということが確かめられた。
 小学生が卒業後、高校に入学するまでの中学校の3年間で、科学への興味関心をどれだけ発展させられるか、持ち続けられるか、ということを今後視野に入れていく必要がある。5年後、10年後の取組を念頭に置きながら、実践を進めていかなくてはならない。
 これまで同様の取り組みがないかを様々なツールで検索したが、同様の取り組みを実施しているところは見当たらず、特に、小学生への実験教室は、希望者を募って実施している高校はあったが、授業内で、1クラス全員が小学校6年生全員を対象とするような取り組み(高校生が教える実験教室)は、まったく独自の取り組みといえる。また、探究的要素を取り入れた実験教室も新しい実践で、高校生がすぐに先の手順を伝えず、考えさせながら進めていくというところも新しい視点である。さらには、自転車発電機による体験は発電するのがどれだけ大変かを、その場で体験できるものであり、児童生徒の感想でも、この体験で、節電意識が高まったというものが非常に多くみられた。
 さらに、連携授業を実施した小学生全員に、下記の資料にあるような担当者手作りのレポート(B5版20ページ)を配布している。これは、当日の実験教室の様子や家でできる実験の工夫を記載することで、科学への興味関心を促す目的で作製したものである。