2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

批判的思考力を育む理科授業の構築-21 世紀は水素の時代か?水素についてクリティカルに探究する-

実施担当者

櫛田 敏宏

所属:愛知県立豊田東高等学校 教頭

概要

1. はじめに
 本校では、ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)を積極的に教育課程に取り入れているが、そのポイントは、問題を見出し、その解決を図っていく学習の過程を重視することである。その中でも批判的思考力(critical thinking)を重視している。批判的思考は、もちろん批判するだけでなく、多面的に物事を考え、どのように対処するとよいか自分の意見をもつことである。水素が21世紀の夢のエネルギー源となり得るのか、いろいろな視点から生徒に探究させたいと考え、この実践を行った。
 今回の授業の最大の目的は、批判的思考力(critical thinking)の育成である。今回の授業にあたっては、生徒に、いつも「なぜ?」「どうして?」という姿勢をもたせ、多面的に考えさせた。


2.実践内容
 この実践の最大の論点は、水素が化石燃料に代わるエネルギー源となるかということである。特に本校は、トヨタ自動車の地元であるので、燃料電池車(FCV)に注目した。FCV単体で考えれば、排気されるものは水だけである。しかし、水素の生産は現在は天然ガスから改質という方法で作られているのでトータルで考えれば、通常の自動車と二酸化炭素の排出量はそれほどは変わらない。将来は、太陽光発電を用いて水の電気分解によって水素を生産すれば二酸化炭素は全く出ないなどと推進派は言う。しかし、そのためには莫大な技術開発費とインフラ整備費がかかる。反対派は自動車の多くをFCVにするにはコスト面で不可能であると言う。この両論を生徒に批判的に考えさせたいと実践を組み立てた。
 実践は、特別に夏休みに行った理科授業(夏休み特別授業)と通常授業である「物理基礎」での授業の二つを行った。
(1)夏休み特別授業
 本校と同じ市内にある低炭素社会を目指した次世代の環境技術を集約した全国初の地区であるエコフルタウンをフィールドに行った。まず、事前の授業として、学校内で燃料電池によって水素から電気ができることを確認し、グループワークで講師の方に投げかける質問を考えた。その後エコフルタウンに出かけ、東邦ガス株式会社技術開発本部技術研究所環境・新エネルギー技術担当の方を講師として特別授業を行った。
 エコフルタウン内の水素ステーションを中心に、実物を見ながらその実際を理解した。このステーションでは、天然ガスを改質して水素を作っているが、極力二酸化炭素が出ないような工夫がされている。そういった工夫も含めて、水素利用の利点、欠点を学んだ。
 最後には、講師との対話で、今後の水素作成と利用の展望を学んだ。生徒は、水素を利用する場合としない場合の未来について想像しながら対話を行った。
 対話では、未来の理想像に対話が傾き、批判的な議論には残念ながらならなかった。
(2)「物理基礎」における授業
 1年生の「物理基礎」で、電気の単元が終了したところで「水素を考える」授業を3時限で組み立てた。
ア 第1時限 燃料電池の理解
 小型燃料電池と小型太陽電池パネルを用いて、それぞれの特性をデジタルテスターなどを用いて測定した。
イ 第2時限 水素についての講義
 水素の特性とその活用の利点と欠点を講義でまとめる授業を行った。
ウ 第3時限 グループワークによる討論
 「FCVの普及、私は賛成 or 反対」等位テーマでグループ討論させた。
 8班で討論を行った結果、6班が将来性を考え、賛成、2班が莫大なコストや水素の危険性(爆発しやすい)などを考え、反対という結果になった。


3.実践評価、まとめ
 以下に、生徒の実践後アンケートの結果を示す(回答40人)。
1 今回の授業に興味をもって取り組むことができた。
①とても45%(18人)
②まあ53%(21人)
③あまり3%(1人)
④全くない0%(0人)
2 水素利用の現状を理解できた。
①とても48%(19人)
②まあ53%(21人)
③あまり0%(0人)
④全くない0%(0人)
3 水素利用について自分の考えをもてた。
①とても30%(12人)
②まあ60%(24人)
③あまり10%(4人)
④全くない0%(0人)
 以上のように、ほとんどの生徒が興味をもって実践に取り組み、水素利用について現状を理解し、自分の考えをもつことができた。
 FCVが販売され始めた今年度は、「水素元年」と言われている。非常にエコな水素は、夢の燃料ともてはやされている。しかし、課題も多い。一般市民も水素利用の利点と欠点を見極め、水素利用に関して自分の考えを持つことが大切ではないかと考える。