2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

思考力・判断力・表現力を育てる探究学習教材及び指導事例の開発と実践(初年度報告)

実施担当者

久保木 淳士

所属:福山市立城北中学校 教諭

概要

1.はじめに
 生徒の科学的な思考力・判断力・表現力を高めるために,探究学習(問題解決学習)の教材開発・指導実践を行ない,それらを指導事例としてまとめる活動を行ってきた。
 本研究では,理科における生徒の思考力・判断力・表現力を育成するために,探究学習(問題解決学習)の教材開発(事例開発)をおこない,更に指導実践を行なった上で,それらを指導事例としてまとめる。また,探究学習を行うことで,生徒にどのような学力が形成され,思考力・判断力・表現力がつくかについてエビデンスを出し,その教育効果について現場の教員が実感を持って理解し,検証・修正できるようなシステムの開発を目指す。本年度は,特に「事例開発」に重点を置き,研究を進めていた。


2.探求学習の定義づけ
 新学習指導要領では,理科における改訂の要点の1つに科学的な思考力,表現力の育成を図ることを挙げている。「科学的な思考・表現」の趣旨は『自然の事物・現象の中に問題を見い出し,目的意識を持って観察・実験などを行い,事象や結果を分析して解釈し, 表現する』こととなっている。
本研究会では,
探究学習の“仮説・計画→実験→結果・分析→説明・表現”のプロセスを通して,そのような学習の場面を一単元の中で仕組むとともに,その中で効果的な評価を行うことが,科学的な思考力,表現力を育成しく上で有効ではないか
と考えた。
 一般的に探究学習とは,
①生徒が問題を見い出し,仮説を立て,観察・実験を計画する。
②観察・実験の結果を分析し解釈する。
③科学的な根拠のもとに説明・表現する。
などの活動で構成した授業である。
 日本で探究学習実践の第一人者である小笠原豊氏(現中部大学准教授,元愛知県刈谷市立刈谷南中学校校長)は,探究的な学習が成立する条件として
① 生徒と先生の「人間関係」がよいこと
②「問い(学習課題)」がよいこと・強い問題意識・達成要求を抱かせる
③「時間」と「お金」が保障されていること
の3点を挙げている。
 さらに理想的な探究学習として
子どもたちの方から,「おや,不思議だ,なぜだろう」が生まれる授業を指摘している。
 そのために,「なぜ」が生まれる仕掛けを教師から生み出すことが必要になる。情報を小出しにし(納得の連続),納得できる説明のできない/うまく作れない生徒自身と出会わせることが大切である。
 小笠原氏は,探究学習(問題解決的な授業)の授業の仕組み方を提案している。(下図)
 単元の中で,追求課題を共有する時間,追究,まとめの3時間で組み立て位置づけたい。

(注:図/PDFに記載)

 以上を踏まえて,平成27年度の久保木の授業実践プランを以下のようにまとめ,実践した。

(注:図/PDFに記載)


3.事例開発への取り組み
 本研究会では,有志数名による自主研修会である。模擬授業や実践交流,小笠原豊氏の講演などで学んだ実践や,村上忠幸教授の論文,または,普段の授業実践で行ったネタ・コツの共有,先輩教師との交流から学ぶなど活動をしている。中でも力を入れているのは,探究学習の事例開発である。今年度まで,本研究会で開発した探究学習の授業は,以下である。

単元「植物のくらしとなかま」(中1:植物分野)
(※表/PDFに記載)

単元「身のまわりの物質」(中1:化学分野)
(※表/PDFに記載)


4.事例実践の成果
 上の授業展開の単元終了時に広島県「基礎・基本」定着状況調査の問題を用いた検証を行った。

(※表/PDFに記載)

 上記AとBについて,本研究の対象である1年生の方が,対象ではない本校2年生や広島県と福山市の生徒よりも通過率は高かった。このことから,本研究の取組により,実験の条件を意識して実験結果から何が言えるのかを判断し,未知の物質の性質を調べ実験結果から物質名を類推する「科学的な思考力・表現力」の定着に一定の効果があったと考えられる。
 来年度も継続して,このようなエビデンスを検証し,生徒にどのような力が身に付いたのかを継続的に分析して研究を進めていきたい。


5.事例の共有化に向けて
 福山理科の会では,定期的に機関紙「Fantastic Science」を発行している。

 原稿を書くことで教師力を上げることと,福山市の理科教員の先生方の情報交流の冊子として活用している。書くことで自分の実践を振り返り,次の実践に生きていくようになります。さらに,その実践から,また他の先生の実践が生まれることを期待している。これまで,市内の理科教員10名程度が執筆してきた。今後も続けたい。


6.トップイメージの獲得
 2015年2月に愛知県刈谷市の中学校2校の訪問による理科授業参観,そして京都教育大学の村上忠幸教授のゼミに参加し,探究学習についてご教授していただいた。
 今後の探究学習の方向性や,研究のやり方を今後の参考にしていきたい。


7.まとめ
 まずは,理科の現象で面白いネタや理科だけでなく,教師として力をつけていくとき福山理科研究会の自主研修部“福山理科の会”では『守・破・離』の意識大切にしたい。
 『守』とは,師の教えに従い,その技術や手法をまねることにより基本原則または型をきちんと学ぶ段階,『破』はその教えをもとに,自分なりの工夫や考えを盛り込んで実践していく段階,『離』はその師から離れ, 自らの型を作り出す段階,である。
 我流だけで教育実践するのではなく,先行して実践された教育の手法の原理原則,授業の型を学び,その教育手法の効果はいかほどであったのかを分析する作業が必要ではないだろうか。そのような作業を経てからこそ,また新しい教授法が生まれるのであると考える。
 それを実行できる場が本研究会であることを目指し,活動をしている。本研究会は,理科の「探究学習」という授業スタイルに注目し,それを実践してきた先達から効果的な教育技術を学ぶことを目指す。さらに,新たな理科の探究学習スタイルを確立することも目標である。そのためには,チーム力が必要になってくる。福山の理科教員のチーム力を高め,理科が好きだといえる生徒が増え,次の世代にもそれが伝わる空気をつくりたい。切磋琢磨し合える同志と,それを実現するためにこれからも勉強会という形で教師修行を続けたい。