2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

思考力・判断力・表現力を育てる探究学習教材及び指導事例の開発と実践(2年目報告)

実施担当者

久保木 淳士

所属:福山市立城北中学校 教諭

概要

1.はじめに
 昨年度より,生徒の科学的な思考力・判断力・表現力を高めるために,探究学習(問題解決学習)の教材開発・指導実践を行ない,それらを指導事例としてまとめる活動を行ってきた。
 本研究では,理科における生徒の思考力・判断力・表現力を育成するために,理科の授業の中で探究学習を行うことで生徒にどのような学力が形成され,思考力・判断力・表現力がつくかについて研究を行った。
 また,その教育効果について現場の教員が実感を持って理解し,実践を検証・修正できるようなシステムの構築を目指して,福山市の教育研究団体の中での自主研究会「福山理科の会」として活動を行った。
 本年度は,昨年度までの「事例開発」に続き,「実践」を重点的に位置付け,さらには福山市内の教員に情報提供を行うことを活動の中心として行ってきた。


2.探究学習の定義づけ
 新学習指導要領では,理科における改訂の要点の1つに科学的な思考力,表現力の育成を図ることを挙げている。「科学的な思考・表現」の趣旨は『自然の事物・現象の中に問題を見出し,目的意識を持って観察・実験などを行い,事象や結果を分析して解釈し,表現する』こととなっている。
 本研究会では,
探究学習の“仮説・計画→実験→結果・分析→説明・表現”のプロセスを通して,そのような学習の場面を一単元の中で仕組むとともに,その中で効果的な評価を行うことが,科学的な思考力,表現力を育成しく上で有効ではないか
と考えた。
 一般的に探究学習とは,
①生徒が問題を見出し,仮説を立て,観察・実験を計画する。
②観察・実験の結果を分析し解釈する。
③科学的な根拠のもとに説明・表現する。
などの活動で構成した授業1)である。


3.事例実践への取り組み
 本研究会「福山理科の会」は,有志数名による自主研修会である。模擬授業や実践交流,小笠原豊氏の講演などで学んだ実践や,村上忠幸教授の論文,または,普段の授業実践で行ったネタ・コツの共有,先輩教師との交流から学ぶなど活動をしている。
 本年度はとくに,探究学習の「実践」を中心に行ってきた。
 今年度まで,本研究会で開発・実践した探究学習の授業は,以下である。
(☆は福山理科の会オリジナル授業,★は先行実践あり)

(注:表,図/PDFに記載)


4.事例実践の成果
 本研究の主な対象である本校,中学2年生では,広島県基礎・基本学習状況調査の問題を用いた検証を行った。
 タイプBを呼ばれる,いわゆる「活用」問題の正答通過率について,本研究の対象である中学2年生は,物理・化学・生物・地学の4領域のうち3領域が,広島県と福山市の生徒の平均よりも,
1領域は広島県より高かった(下表)。

(注:表/PDFに記載)

 特に,化学分野における「実験結果を分析・解釈して,結論を導き出す」問題では,広島県平均通過率が59.3%に対し,本校生徒は65.4%であった。このことから,本研究の取組により,探究的に活動の経験が,科学的な知識を活用して考えるための一定の力をつけているものではないかと推測できる。


5.事例の共有化に向けて
 本研究会では,定期的に機関紙「Fantastic Science」を発行している。本年度は2015年7月と10月(9号)発行に発行した。自らの実践を振り返り新たな実践の創造を目指し,さらには他の実践につなげるヒントを共有することを目的としている。これまで,市内の理科教員10名程度が執筆しており,2016年4月発行で第10号となる。


6.学会への参加で先端情報の獲得をめざす
 平成27年度日本理科教育学会全国大会が8月1日,2日の二日間にわたって,京都教育大学で行われ,福山理科の会からは2名の参加をした。
 大会では,シンポジウム,課題研究発表や一般研究発表のほかに,企業展示なども行われており,こちらでは2015第Ⅷ期の機関誌の先進校視察/大学訪問でも紹介した中部大学の小笠原豊先生が出展されており,教材の購入や情報交換を行うことができた。各分科会会場で理科教育に関する研究成果の発表・議論が活発に行われた。


7.まとめ
 平成27年度はじめに,広島版「学びの変革」アクション・プランというものが広島県教育委員会から提示された。6つの具体的な施策の中に「課題発見・解決学習の推進」というものがある。これは,これからの社会で活躍するために必要な資質・能力の育成に効果の高い「能動的な学び」を促進するため,授業の中で「課題発見・解決学習」を推進する,ということである。
 指導する教師自身,課題発見・解決の経験をどれだけ持っており,またどれだけの指導力を備えているのかが,これから求められる教師像になると考える。
 福山理科の会がずっと推し進めている探究学習は,<課題を発見し,仮説をたて,検証し,課題の解を探す>授業である。この授業づくりは,最近の流行に乗ったものではなく,多くの先達の教師達により形成され,主張されてきた。現在でも,中部大学の小笠原豊先生や村上忠幸先生(京都教育大学教授)が中心となり,日本全国に広げようとしている。
 今再び,新しい要求の中で,私たちが目指している理科の探究学習づくりを再構築・整理・統合していき,未来を担う子どもたちが社会で生き抜く資質・能力をつけるための授業を創造したい。また,そのための教師力向上をめざして活動をしていきたい。広島県や福山の子どもたちの科学的な資質・能力の向上のためにも,努力を絶やさず教師修行を行ってい
きたいと再決意し,この研究のまとめとする。