2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

微小生物を活用した高校生(自然科学部員)による理科実践 自分たちで採集した微小生物を使った観察教室

実施担当者

山本 剛

所属:福島成聡高等学校 教諭

概要

1 はじめに
本校自然科学部では,福島原発事故後,生徒たちから身近な環境の変化を調査したいと申し出があり,2011年に財団法人放射線計測協会と連携をとり,原発事故後の生活環境中の放射線量について調査した。調査後,生徒たちは放射線の影警を受けやすいのは,小さな生き物ではないかと考え,自分たちの目線で考えることのできる水田の微小生物調査をしようと試みる。しかし,当時,学校近くの水田の空間放射線量が高く,作付け制限もあり,水がはられていなかったため調査はできなかった。そこで,学校近くの茶屋沼(空間放射線量が比較的高かった福島市渡利地区にある)にて,空間放射線量,水質調査(水温,pH,電気伝導度,透視度),微小生物の種類と計数測定を2012年8月~現在まで,月1回のペースで実施してきた。その中で,生徒たちは自分たちで採集した微小生物を福島のために何か役立てることができないかと考え,微小生物に関する研究をスタートさせた。研究過程で,採集したミカヅキモを塩化ストロンチウム水溶液中に入れると,その溶液の電気伝導度を低下させる現象を発見した。生徒たちは,自分たちで採集し,培養した微小生物を原発事故後,今も問題となっている汚染水中の放射性ストロンチウムの除去に利用できないかと考え,先輩たちから研究を引き継ぎ,現在も取り糾んでいる。また,研究活動を通して,その活動の大切さ,研究の意義,自分たちの研究を自分たちの言葉で外部に発信していくことの必要性など多くの事を生徒たちは学習してきた。
本プログラムでは,本校自然科学部員が研究活動を通して学んできた研究の楽しさや苦しさ,研究活動に必要な能力や技術を自分たちより年下の小学生に自分たちの言葉で伝える。また,理科の楽しさはもちろん,この活動を通して,研究活動にも興味?関心を持ってもらえるように取り組みたい。
最終的には,福島復興を担う人材の育成に繋げたい。2自然科学部員による微小生物観察教室~微小生物を見てみよう!~自然科学部員が普段調査している茶屋沼を観察のポイントに決め,小学生に対して夏の微小生物,冬の微小生物を小学生自身で採集し,ルーペ,実体顕微鏡,光学顕微鏡を用いて観察することを目標に設定した。
参加を募集するチラシも部員たち自身が作成し,本校のホームページを活用しで情報発信した。また,県北地区の小学校や学童クラブなどに案内し,参加を呼び掛けた。

第1回微小生物観察教室(2016.8.10)小学生11名,保護者4名合計15名
第2回微小生物観察教室(2016.11.26)小学生5名,保護者5名合計10名

実施した内容は,
① 自己紹介②部員たちによる本日のプログラム説明③実習で使用する実験器具の使い方
④ 茶屋沼に移動し,現地実習(写真1/PDFに記載)⑤パスツールピペット作成⑥実体顕微鏡観察
⑦ 光学顕微鏡観察⑧部員たちによる研究活動紹介
となります。
特に,③ではルーペの使用方法を小学生に体験させるのに部員たちが作成した微小生物カードを用いて実施し,小学生一人一人が自分で採集した微小生物を観察できるように部員たちが小学生を指導(写真2/PDFに記載)。茶屋沼にて実践(写真3/PDFに記載)する。

また,観察したい微小生物を採取するためのパスツールピペットについても,部員が作り方を演示し,一部の小学生には作成させた。実体顕微鏡で観察しながら,詳しく観察したい微小生物を小学生に選ばせ,部員たちが採取し,観察用のプレパラートを小学生一人一人に作成させ,光学顕微鏡で観察させ,写真も撮影した。

第2回微小生物観察教室では,茶屋沼近くの水田にも調査範囲を広げ,微小生物の採集を実施(写真4/PDFに記載)。
夏には観察されなかった微小生物を発見し,実体顕微鏡,光学顕微鏡による観察を実施した(写真5,6/PDFに記載)。
最後に,自分の採集した微小生物の写真を撮影し,新しいカードにして小学生に持ち帰らせ,継続して微小生物に興味・関心が湧くように工夫した。

3 参加した小学生,企画・運営した自然科学部員のアンケート結果
参加した小学生のアンケート結果

(注:図/PDFに記載)

アンケート結果より,参加した小学生は概ね満足した活動ができたと考える。特に,部員たちが作成した微小生物カードについては,帰宅後,カードを絵日記作成に活用したり,学校にカードを持って行き,小学校の先生や友人たちに報告したりと,継続した活用が見られ,小学生の理科に対する興味・関心を高めることができたと考える。

自然科学部員のアンケート結果

(注:図/PDFに記載)

アンケート結果より,企画・運営した自然科学部員たちも充実した活動になったことが伺える。特に,小学生たちとのコミュニケーションを通じて,自分の力不足や相手に自分の考えを伝えることの難しさを体験し,自然科学部員たち同士のコミュニケーションもより頻繁に取るようになり,部員のチームワークも強化された。特に,ジュニア農芸化学会2017における高校生による研究発表会(主催:公益社団法人 日本農芸化学会)では,部員全員の力を集結し,銅賞を受賞することができた。

4 まとめ
本プログラムの活動を通して,小学生に研究活動の一端に触れさせ,研究の楽しさや苦しさを体験させ,じっくり観察する力,継続して考える力,工夫を生み出す力を育むことができる可能性を見出すことができた。また,自然科学部員に企画・運営等を担当さ,せ自然科学部員一人一人の成長につながった。二年目についても,同様の取り組みを継続し,最終目標である福島復興を担う人材の育成に繋げたい。