2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

廃棄松葉の利用研究

実施担当者

櫻井 正剛

所属:静岡県立静岡農業高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 静岡農業高校の食品系では、食のスペシャリストの育成の基礎学習として、基幹科目として「食品化学」と「食品製造」を学習している。
「食品化学」で栄養素の構造や性質、体における役割や食品中の栄養素の定量実験など定性実験や定量実験を行いながら学習している。「食品製造」では食品の性質を活かして、様々な食品の加工を行っている。これらの基礎学習を実践的に学び、科学性・社会性・指導性の力をつけるため次のことを考え研究活動を行った。
①栄養の性質・分析・製造の食品系基幹科目として学んでいることすべてを実践的に活用
②廃棄資材の有効性を再発見する
③3次的機能性を重視した加工を行う
④産・学・官の連携など社会との関わりの中で活動を行い社会での実践力をつける
⑤研究活動の最終目標は地域還元である


2.研究の目的
 三保松原では、景観を保つため多くの松葉が定期的に伐採されるため廃棄松葉が多く出る。松の種類は違うが、韓国では松葉を栄養剤として活用していたり、食べ物を満足に与えられないときの栄養源として使われていたりするなどの報告をみることができる。日本においては、あまり栄養源として考えられていないが、大きな可能性を秘めた植物であると感じ松葉の効能分析に乗り出した。松葉を有効利用することができれば三保地域の活性にもつながると考えた。


3.松葉の成分から機能性に成りうる成分を見つけ定量分析
 松葉の成分を調べたところ、ケルセチンが含まれていることがわかった。ケルセチンには血管を強くする効果や老化、生活習慣病予防など様々な効能がある。その中でも、注目したい効能が抗酸化作用とアレルギー症状緩和効果である。抗酸化作用は、ストレスの軽減、生活習慣病予防など様々な効果を発揮することができ、薬の服用なしでアレルギー症状の緩和に効果がある栄養素があるとしたら大変有意であると考える。そこで、ケルセチンに焦点をあて含有量を液体クロマトグラフィーで分析した。

実験方法
HPLCを使用したケルセチン定量法 ケルセチン標準品と試料溶液(松葉溶液)を作成し分析

(注:図/PDFに記載)

松葉100g中のケルセチン量=49.62mg
ケルセチンが多く含まれている食品例
りんご100g中のケルセチン量 = 6mg


4.松葉の添加法の確立
添加法の候補
①栄養素を抽出添加
②栄養素を抽出後スプレードライ法で固形化し添加
③松葉をそのまま添加
 ①、②を実行した際に食物繊維が豊富にあることが認められたため食物繊維の効能も考え、③の松葉をそのまま添加する方法に決定した。

問題点
①松葉特有の臭いがある
②食物繊維が豊富にあるため喉越しが非常に悪い
③松葉特有の苦みがある
 問題点を解決するため松葉をパウダー状にすることを考えた。
パウダー状にしたことでのケルセチンの減少率を定量分析し算出した。
生松葉(水分考慮) → 53.0mg
松葉パウダー → 49.6mg
算出結果のようにケルセチンの減少はほとんど認められなかった。
 次に松葉特有の臭気の減少を官能試験で感じたので、ガスクロマトグラフィー質量分析器で臭気定量を行った。
 下ピークグラフは、松葉パウダーの臭気のピークを示したものであり、臭気の大幅な減少を認めることができる。

(注:グラフ/PDFに記載)

<結果>松葉特有の臭気(問題点①)と食物繊維による喉越しの悪さ(問題点②)を改善することができた。


5.抗酸化作用の相乗効果実験
 茶葉に含まれる茶カテキンとケルセチンが抗酸化作用の相乗効果を発揮するのではないかと仮説を立てお茶の中に松葉を添加し DPPH 法での抗酸化作用比較実験を行った。

(注:グラフ/PDFに記載)

結果
 お茶+松葉は茶葉に対して松葉を 60%にしたものは、茶のみの抗酸化力と比較すると 3.97 倍の抗酸化力を示した。このことから、茶と松葉の抗酸化力相乗効果を検証することができた。
茶 ・・・・1717ABS
松葉茶(松葉60%)・・・・6820ABS 3.97 倍


6.松葉茶の製作
 もっと松葉を効率よく摂取する方法を模索し、毎日飲む人が無理なく多く摂取できる松葉茶の製作に取り掛かった。松葉だけでなく、茶葉との組み合わせにより、「静岡のお茶と三保松原の松葉」と話題性のある商品となることを考えた。
 松葉が多すぎると松葉独特の味が出てきてしまうため好みが分かれてしまう。誰でも美味しく、なるべく多くの松葉を摂取できるようにするために茶葉と松葉パウダーの割合を 3:2 にすることが妥当であると考えた。


7.まとめ
 本研究を通して生徒たちは、仮説と証明、考察を繰り返し学習することができるようになった。