2001年[ 年報 ] : 年報15号

年報15号

中谷電子計測技術振興財団

概要

目次

設立の趣意
役員・評議員および事業の概要
木村英ー前理事長の逝去を悼む
梅垣健三先生を偲んで
平成21年度事業概要
I 技術開発に対する助成事業
技術開発研究助成金贈呈式の開催状況
II 技術交流に関する支援事業
21生体電子計測研究会からの提言
平成10年度(第51回)技術開発助成研究成果報告
平成21年度技術交流助成成果報告
技術開発に関する研究助成状況
技術交流に関する助成状況


設立の趣意

 わが国経済社会の高度化は,1970年代以降急速に進展しています。これは,わが国の唯一の資源でもある恵まれた頭脳資源を,十分に活用することで達成されたものです。特にコンピュータを始めとするエレクトロニクス技術の発展が重要な役割を果たしてきました。
 これらのエレクトロニクス技術の発展は,優れた電子計測技術の基盤の確立か無くしてはありえません。今後わが国のエレクトロニクス技術の一層の発展を実現する上で,電子計測技術基盤の一層の強化か大切であります。電子計測機器がエレクトロニクスのマザー・ツールであるといわれる所以でもあります。
 政府におかれましても,その重要性を十分認識され,電子計測技術甚盤の確立のためにいろいろな施策を展開されております。
 このような客観的諸情勢から故中谷太郎初代理事長は,電子計測技術の発展を推進し,産業基盤の確立に貢献することを強く念顧され,昭和59年4月に財団法人「中谷電子計測技術振興財団」が設立されました。
 当財団は,技術開発・技術交流の推進,技術動向等の調査研究等を行うことにより,電子計測技術の基盤の確立に微力をつくす所存でございます。このような主旨をこ理解の上,当財団にご指導,ご協力を賜わりますようお願い申し上げます。


設立年月日 昭和59年4月24日
基金 6億2千万円

役員
理事長
三輪 史郎 (財)沖中記念成人病研究所所長・理事長

専務理事
家次 恒 シスメックス株式会社代表取締役社長

理事
浅野 茂隆 東京大学医科学研究所附属病院院長・敦授
軽部 征夫 東京大学先端科学技術研究センター教授
菅野 剛史 浜松医科大学副学長・附属病院長
中谷 正 シスメックス株式会社取締役
栗山 榮治 当財団事務局長

監事
麻植 茂 公認会計士
秋山 純一 多摩大学・同大学院赦授(公認会計士)


評議員
川越 裕也 東大阪市立中央病院名誉院長
藤井 克彦 大阪大学名誉教授
斎藤 正男 東京電機大学工学部敦授 東京大学名誉教授
屋形 稔 新潟大学名誉敦授
八幡 義人 川崎医科大学教授
戸川 達男 東京医和歯和大学生体材木十二学研究所散授
雪本 賢一 シスメックス株式会社専務取締役
和歌 光雄 シスメックス株式会社常務取締役


事業の概要
電子計測技術の発展を推進し,産業基盤の確立を図ることにより,わが国経済社会の発展および国民生活の向上に資することを目的として,次の事業を行います。
■電子計測技術分野における技術開発に対する助成
電子計測技術分野における先導的技術開発活動を促進するため,これに助成します。
■電子計測技術分野における技術動向等の調査,研究
電子計測技術分野の実態および種々の問題について調査研究を行い,または,助成します。
■電子計測技術分野における技術交流に関する支援
電子計測技術分野における技術の交流を推進するため,内外の研究者等の交流に対する助成,シンポジウムの開催等を行います。
■電子計測技術分野に関する情報の収集,提供
電子計測技術に関する情報文献,資料等を収集整理し,その広汎な利用を図るための種々の活動を行います。

特定公益増進法人当財団は1998年9月に通商産業大臣より「特定公益増進法人」の認定を受けました。


木村英一前理事長の逝去を悼む
財団法人中谷電子計測技術振興財団
理事長 三輪 史朗

 かねてより大阪市立大学医学部附属病院泌尿器科に入院中であった本財団蔀理事長木村英一先生は、平成13年1月4日午前5時37分、84歳の生涯を終えられました。
 先生は大正5年4月7日台湾台北小1-1南投郡南投街に生まれ、開学第一回生として昭和15年3月台北帝国大学医学部を卒業、同年8月同医学部助手となりましたが、翌昭和16年11月より軍医として兵役につき、昭和18年には広朴I湾より中国へ上陸、その後中国各地で職務を遂行、海南島方面1,300キロメートルを踏破されるなど、大変なご苦労を重ねられました。昭和20年8月15日広東にて終戦、翌年無事日本に帰国されました。昭和21年7月より福島県で地域医療に携わった後、昭和25年1月大阪市立医科大学助教授、昭和28年3月医学博士の学位授与、32年4月大阪市立大学教授兼医科大学教授、35年にはその才能を発揮して考案した器械コイルプラネット型遠心器を展示し第八回国際血液学会研究成果展示賞を受賞、その後大学紛争で研究が困難となった時期を経て、48年大阪市立大学医学部長、55年同学長となり61年3月退職、4月より大阪市立大学名誉教授となられました。昭和49年には大河内記念技術賞を受賞、昭和63年11月には勲二等瑞宝章に叙せられました。
 本財団との関わりについて述べますと、先生は、本財団設立発起人のお一人で、昭和59年4月24日の設立当初から理事にご就任いただき、初代中谷太郎理事長逝去のあとを受けて理事長に選任され、平成9年6月6日迄理事長を勤められ、その後も理事として平成11年6月9日迄ご活躍され、廷べ14年8ヶ月の長期間にわたり財団発展の為に多大なご尽力、ご貢献をされました。ここに改めて心から感謝の意を表する次第であります。
 先生は実に温厚篤実でおおらかなお人柄の人格者でした。役員会等では、議事は粛々と進められましたが、終了後には実に和やかな雰囲気を作られ幡広い話題に花が咲くことも多く、含蓄の深いお話しも伺うことができました。毎年開催される財団助成金の贈呈式では、お人柄がにじみ出た祝辞を述べて受賞者を称えられ、温顔で賞を手渡されたお姿が脳裏に焼きついております。また事務局に対し絶えず温かい心配りをいただいたとお聞きしており、今もなお先生のお姿を懐かしむ声があることは、先生のお人柄を表しているものと考えております。
 先生は戦中戦後の激動の時代を、まことに先生らしく生き抜かれました。すばらしい方が、また、お一人旅立たれ、寂しさがこみあげてまいります。
 心よりご冥福をお祈りいたします。


梅垣健三先生を偲んで
財団法人中谷電子計測技術振興財団
専務理事 家次 恒

 中谷電子計測技術振輿財団理事であり、また奈良県立医科大学元学長・名誉教授の梅垣健三先生が、平成12年11月1日、幽明境を異にされましたことは誠に痛恨の極みであり、先生のご生前のご遺徳を偲び、心から哀悼の意を表します。
 梅垣先生には、シスメックス株式会社(当時東亜医用電子株式会社)の創業者である中谷太郎が、電子計測技術の発展を通じて杜会に貢献することを念願し、財団設立についてご相談申し上げたところ、即座にご賛同いただぎ、設立発起人としてお力添えを賜り、また、財団理事へのご就任につぎましても、快くお引ぎ受けくださいました。以来16年半の長きにわたり当財団の運営に多大なご尽力をいただきました。ここに改めて深く感謝の意を表したいと存じます。
 梅垣先生は、東京慈恵会医科大学をご卒業後、済生会日生病院を経て昭和28年に奈良県立医科大学に移られ、以来、血友病に関する研究に取り組まれ、後世に残る輝かしい業績を挙げられました。また、中央検査部の発足、そして病態検査科担当の教授として、新たな学問体系の確立にも全力を傾注されました。昭和53年には学長に就任され、混乱していた大学機能の回復に取り組まれ、見事に正常化されるとともにさらなる発展に導かれたと伺っております。退官後も旺盛な意欲を持って病院運営、よりよい医療の実践に取り組まれました。戦後の激動期から、昭和、平成を通じて生涯の大半を医学の発展に捧げてこられたご功績が認められ、平成6年に勲三等旭日中綬章を受章されましたのは、我々に取りましてもこの上ない喜びでございました。
 このようにお忙しくご活躍されながらも当財団に対して厚いご支援をお寄せくださったのは、先生が情熱を注がれた血液凝固検査の自動化に電子計測技術の活用が不可欠であったことから、電子計測技術の発展に強い思い入れを抱かれ、当財団の主旨に共鳴してくださったのではなかったかと存じます。毎年開催される財団助成金の贈呈式では先生を囲んで賑やかに談笑の輪が広がり、ご自身の経験をもとに研究者の方々に温かい眼差しで激励の言葉をかけておられました。
 その先生が約4年前に体調を崩され、不屈の闘志で大手術を乗り越えながらも、薬石効なく旅立たれましたことは誠に残念でなりません。かけがえのない方を失った痛手に言葉を無くす一方、「綸言汗の如し」をモットーにご自身を律しながら、生涯現役を貫かれた姿勢に深く感銘を受けるとともに生きる勇気を与えられた思いがいたします。
 今後は遺された我々が梅垣先生のご遺志を継いで当財団の事業活動を継承し、社会の発展に貢献するべく責務を果たして参る覚悟でございます。
 謹んで梅垣先生のご冥福をお祈り申し上げます。


平成12年度事業概要

I 技術開発に対する助成事業
 国際経済社会において、大きな位慣づけにある我が国にとって、国際的協調をはかりつつ、経済産業の発展を進めてゆくには、新たな局面に対処するための産業構造の変換をはかるとともに先導的技術開発の創出が急がれている。
 このため、当財団においては、中核事業として電子計測技術分野における先導的技術開
発活動を促進するよう、昭和59年度から大学及びこれに準ずる研究機関に対して研究助成
を実施してきたが、平成11年度の実施概要は、次のとおりである。

1.助成対象研究の募集
 産業技術の共通的・基盤的技術である電子計測技術は極めて広汎な分野に亘るが,その中で,健康で、明るい人聞社会を築くために重要な役割を果すと考えられる技術開発分野として,理学・工学と医学・生物学の境界領域としての学限的研究である「生体に関する電子計測技術」の進展がますます要請されている。
 かかる状況を勘案し,当財団では対象を次のように定めて,毎年9月末日を締切として助成対象研究を募集してきた。

対象研究課題 生体に関する電子計測技術
助成対象 独創的な研究であって,実用化が期待されるもの。または,実用化のための基盤技術となるもの。

2.審査委員会
 応募のあった助成研究申請書の内容について、菅野允委員長ほか7名の学識経験者からなる審査委員会において、再三にわたる慎重かつ、厳正な審査を行い、助成対象研究テーマを選定した。

3.研究助成金の贈呈式
 審査委員会の審査を経て選出された夫々の研究開発テーマの研究責任者に対して、技術開発研究助成金の贈呈式を、平成13年2月23日、芝浜松町にある世界貿易センタービルにおいて、多数の関係者、来賓を迎えて盛大かつ厳閑裡にとり行った。
 この際、各研究者より研究内容の概要を発表していただき、好評を博した。
 また、研究助成金の贈呈式後、祝賀を含めて、記念懇談会を開催し、相互に、よろこびと意見の交歓を行った。
 なお、平成12年度の研究助成件数は9件、助成金総額は1,800万円であった。


第17回(平成12年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)


技術開発研究助成金贈呈式の開催状況
(注:写真/PDFに記載)


贈呈書の授与・研究計画の発表
(注:写真/PDFに記載)


記念懇親会
(注:写真/PDFに記載)


II技術交流に関する支援事業

1.技術交流助成事業
 電子計測技術の促進を図るためには、国際化時代に対応し、先端技術に関する内外研究者相互の国際交流を推進する必要があり、平成12年度は、次の事業を行った。これらの会議等において活発な技術交流活動が行われた。

(1)技術交流(派遣)に関する助成
 下表のとおり、電子計測技術分野における海外で開催される国際会議に参加した研究者等4名の技術交流に対して助成を実施した。
(注:表/PDFに記載)


(2)技術交流(招聘)に関する助成
 下表のとおり、電子計測技術分野における日本で開催された国際会議等に海外から招聘した研究者等15名の技術交流に対して助成を実施した。
(注:表/PDFに記載)

2.技術交流研究事業
 理・エ学と医学とに関連する9名の専門家が交流し、新たな観点から生体電子計測技術に関する研究課題について討議を行い、間題点と今後の方向を探求するための研究会「21生体電子計測研究会」を支援した。平成12年度は、電子技術総合研究所の守谷哲郎大阪ライフ
エレクトロニクス研究センター長を主査として、「映像医療センターのめざすもの」「ME連携事業における研究開発目標J「レーザー治療の現状と将来」「粒状計測技術の現状と今後一細胞計測を中心に一」「ティッシュ・エンジニアリングの現状と今後の展開」等をテー
マとして討議が行われた。また、これまで4年間にわたる研究会の成果を取りまとめるための報告書原案を作成した。

21生体電子計測研究会メンバー(平成13年3月末現在)
守谷 哲郎 電子技術総合研究所大阪ライフエレクトロニクス研究センター長
伊関 洋 東京女子医科大学脳神経センター 脳神経外科 専任講師
岡田 英史 慶応義塾大学理工学部電子工学科 助教授
木村 聡 昭和大学医学部臨床病理学教室 専任講師
黒田 輝 東海大学総合科学技術研究所専任講師 先端医療振興財団映像医療研究部副部長
佐久間 一郎 東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻 工学部システム創成学科生体・情報システムコース助教授
田村 光司 東京女子医科大学学長室医学教育情幸認室 附属心臓血圧研究所循環器内科 助手
中井 敏晴 電子技術総合研究所大阪ライフエレクトロニクス研究センター 医用ビジョンラボ 主任研究官


「21生体電子計測研究会」からの提言
守谷 哲郎
電子技術総合研究所
大阪ライフエレクトロニクス研究センター

1.生体電子計測技術の置かれた状況
 本文においては、いくつかの具体的トピソクスに関する動向および提言がなされているので、個々に議論を繰り返すことは避けることとし、本研究会の上旨である21世紀の展開に向けた生体電子計測技術の大きな流れに基づいた提言を行って、締めくくりとしたい。
 現在、我が国全体としても、科学技術の展開に大きな見直しがなされようとしている。世界的な技術競争という観点からは、一部の生産技術を除いて産業規模は欧米並を保っているものの、未来への展開力では創造性、競争性の点で欧米の後塵を拝するケースが増えてきている。個別の技術をとると決して遅れてはいない分野でも、システム化、実用化といったビジネスに近い部分での優位性が欠落してきているのが大変気になる。
 生体電子計測技術は、医療機器分野の基盤として今後国を挙げて力を入れていくべき重要研究開発課題である。21世紀の2大潮流であるバイオテクノロジーや情報技術の最も重要な応用分野の1つでもあり、広義の医療機器産業は、到来しつつある超高齢化杜会において、健康増進・管理から診断、治療、健康回復に至るまで幅広く個人の健康をサポートするインフラ産業として、新たな市場や雇用を創出し得る成長分野である。また、多様なニーズに対応した他品種少量生産型の医療機器産業の本質は、画ー的な大量生産から脱却した21世紀
型の産業のあり方を先取りするとともに、人々の医療に対する需要の多様化にも対応するものである。
 我が国の医療機器産業は、着実に成長を続け、今や工作機械産業や半導体素子産業に匹敵する生産規模となっている(1998年1兆5,214億円)。また、輸出入についても共に規模が大きく、全体として見ればグローバル化が進んだ産業であるといえる(輸出3,273億円、輸入8,345億円)。医療機器の国際的な市場を見てみると、先進国でほぼ80%を占めているが、今後、成長率が高いのは発展途上国、特にアジア市場であり、近年毎年10%以上の成長を続けている。こういった医療機器市場の国際化に伴い、欧米においては、国境を越えて医療機器関連企業の合従連衡が進んでいる。国際市場での熾烈な競争に生き残るためには、製品開発サイクルを短くし、次々と新技術の商品化を進める事が不可欠である。
 「日本は、診断機器は強いが治療機器は弱い」といった一律の評価がなされてきたが、国際競争にさらされる中、高齢化社会での難病克服等に向けて、より診断と治療が密着した先進医療開発型の研究体制を国家レベルで確立し、古い産業体質の限界を打破する必要がある。
我が国には、依然として独自の高感度センサー技術やマイクロエレクトロニクスの利用に優れた計測技術系の企業を数多く擁しており、微細加工技術などのとの組み合わせで、小型・携帯化、非侵襲化などにさらなる発展が期待される(図1)。

2.組織的な医工学連携システムの育成
 医療機器分野においては、ニーズに即した技術開発が必須であり、臨床に通じている医師と工学技術者との協調的な連携関係の構築は欠かせない。しかし、我が国における医師とエ学技術者との連携は、これまでどちらかというと個人的関係に基づくものが多く、組織的な連携システムは構築されてこなかった。しかし、少なくとも本研究会の活動は、相当早い時期からこの事に気づいた研究者が自発的に集まるという、連携の必要性に対する自覚がベースになっていた。
 近年では、医療機器の開発と臨床現場をリンクさせるという観点から、大学医学部/病院等の医学研究者が工学系の大学学郎・国公立研究機関/民間医療機器メーカ等との共同研究の場を設置する試みが始まっており、予算的支援も得られるようになってきているがり、全国規模で見るとまだまだ十分とは言い難い。第5章において、当研究会のメンバーが関与するものを中心にいくつか実例を示してあるので読者の参考になれば幸いである。さらに、医療機器分野において画期的な技術革新を生み出すためには、狭い意味での医用工学のみならず、情報技術、数学、物理学、分子生物学、材料科学等の幅広い分野の工学技術の融合が不可欠であり、これらのメカニズムを促進する研究会などの場の広がりがますます重要となろう。
 また、我が国においては病院において工学系医療技術者の職域が十分に確立しておらず、専門的知識を持つ高度なクリニカルエンジニアが、医療機器の安全管理、保守等に責任を持ち、さらに病院経営の戦略の一環として医療機器の調達全般を統括するなどの立場にある米国杜会に学ぶべき点は多い。今後は、医療現場の制度を改革していくと同時に、医学の専門的知識を有する工学系研究者や工学的知識を有する医学研究者を育成する教育制度の充実も不可欠である。

3.今後の展望と戦略
 医療機器産業の21世紀における技術トレンドを展望すると、以下の4つの技術シーズと医学の融合による技術革新が、新たな付加価値と市場を生むであろう事は容易に想像出来る。
①情報技術(IT)
②システム化技術
③バイオテクノロジ一
④マイクロマシン・マイクロエレクトロニクス技術
 言うまでもなく、在宅健康管理レベルからセキュリティー・プライバシーの確保を含めた病院内の高度な情報管理に至るまで、革新的な情報技術は医療の高付加価値化・効率化、安全の確保に大きく寄与する。本報告の中でも2.3で最近の取り組みを取り上げている。また、画像処理技術が診断技術にもたらした革新を1.1から1.4までで詳述した。
 今後の医療機器は、単体機器だけでなく、治療機器と情報システムの統合、治療機器と医薬の統合、診断機器と治療機器の統合というようなシステムの統合化、統合化に基づくより高度で効率的な医療の実現が望まれる。本報告書でもリアルタイム処理、可視化といった観点から2.1、2.2において論じられている。
 バイオテクノロジーは、21世紀の科学技術の大きな潮流の1つであるが、医療機器は、人の生命・健康を扱うという特性から、バイオテクノロジーとの融合化は必然である。診断から治療・生体機能代替に至るまで、遺伝子工学、組織工学等の最先端技術の応用が、新たな展開をもたらすのは間違いない。臨床検査の章でまとめた4.1から4.3までで取り上げた技術は、まさにこういった科学の応用の場として今後ますますは発展するものと考える。
また、低侵襲化の章で取り上げた3.5の内容は、広い意味での遺伝子操作と細胞培養技術に立脚した再生医学の展望を論じたものであり、昨今の医学分野で最もホットな話題である。
 我が国の強みであるマイクロマシンとマイクロエレクトロニクス技術の応用により、医療機器のミクロ化、精緻化が進展し、医療機器の既成概念を変える可能性が出てきている。特に、高度な計測手段を利用した低侵襲診断・治療の進展はめざましいものがある。本報告でも、低侵襲化の章の3.1から3.4までの話題で、この流れに乗っているいくつかの例を諏論した。
 このように、医療機器分野およびそれを支える生体電子計測技術そのものについては、技術の動向を十分把握して重点化を行う事が出来れば、我が国独自の発展の道を見いだすことは可能であると考える。ただし、社会システムとしての医療を考えるとき、人材の流動性の低さ、ベンチャー企業が育ちにくい環境、質の高い臨床試験実施体制の不備、薬事・保険制度の問題など、取り巻く現状は我が国に有利とは決して言い難い。生産性という観点から分析しても、米国を100とした場合、我が国の医療は93でありよく頑張っているとは言え、自動車の145のような輸出型産業として祉界に通用するレベルを考えると、まだ大きな格差があると言わねばならない。産学官の知恵を集積して、マイナス要因を1つ1つ取り除いていく努力を今から開始することが肝要であろう。
 今後の医療へのもう1つの社会的課題として、先進的技術を利用するだけにとどまらず、患者のQOL(Quality of Life)を高めるという、技術の競争原理だけでは対応できない問題がある。予防、個別対応(テーラーメイド)の医療、予後・回復、低侵襲・非侵襲化治療といった様々な場面で、通常の生活に近い中で高度でかつ安全な医療を受けるという新たなニーズに答えなければならない。国際的な視点も含めて、これから関連研究者の総力を挙げて検討していく必要があろう。
 最後に、患者の心理的安心感、人間指向の考え、医療システムの安全性などの倫理的要素に言及しよう。倫理問題については本研究会の範疇を越えるものではあるが、今後医療技術が極限まで発展すると、何がやって良く何がやって悪いかを的確に判断するアセスメントを抜きにして、技術開発を技術者あるいは医師の興味だけに任すのでは大きな開発リスクを負うことになる。様々な事前のアセスメントを医療システムの設計プロセスの中に取り入れるべきであろう。研究開発に関する効率の軸だけでなく、倫理の軸を取り入れることにより、結局は安全性確保などの点で無計画に技術開発を進めるより効率が良い選択となるはずである。

参考文献
1)神戸市先端医療センター:http://www.sentan-iryo.or.jp/

注:この「提言」は平成9年から約4年間にわたり開催された「21生体電子計測研究会」の活動を取りまとめた「21生体電子計測研究会報告書」から「提言」部分を抜粋し、「21生体電子計測研究会からの提言」として掲載したものである。


平成10年度(第15回)
技術開発助成研究成果報告

1.マイクロチャンネル微小血管モデルのマイクロマシーニングと血球細胞の変形・凝集能の画像解析システムに関する研究
2.超高感度4倍速テレビカメラの開発と心筋細胞内カルシウム動態の高速3次元画像解析
3.蛋白質構造異常症のソフトイオン化質量分析による臨床検査技術の開発
4.遺伝子結合性タンパク計測のためのバイオセンサーの研究・開発
5.表面プラズモン共鳴と2光子励起蛍光を用いた高感度単一生体有機分子イメージング
6.カルシウム依存性蛋白分解酵素活性とカルシウム濃度の細胞内同時測定システムの開発
7.携帯型酸素解離曲線自動解析装置の開発
8.電気的細胞接着度測定法を用いた癌細胞浸潤度に関する定量的検討
9.ラット用運動負荷時エネルギー代謝測定装置の開発およびその適用一糖尿病性腎症に対する運動処方に関する研究
10.糖尿病治療のための自律型微小インスリン注入システムの研究


技術開発に対する研究助成状況
年度 贈呈式年月日 助成件数 助成金総額
昭和59年度 昭和60年2月28日 6件 1,600万円
昭和60年度 昭和61年2月25日 9件 2,100万円
昭和61年度 昭和62年2月27日 9件 2,050万円
昭和62年度 昭和63年2月26日 9件 1,950万円
昭和63年度 平成元年3月10日 8件 1,880万円
平成元年度 平成2年2月23日 10件 2,110万円
平成2年度 平成3年2月22日 10件 2,010万円
平成3年度 平成4年2月28日 12件 2,430万円
平成4年度 平成5年2月26日 10件 1,930万円
平成5年度 平成6年2月25日 11件 2,100万円
平成6年度 平成7年3月24日 11件 2,160万円
平成7年度 平成8年2月23日 9件 1,820万円
平成8年度 平成9年2月28日 10件 1,920万円
平成9年度 平成10年2月27日 10件 1,670万円
平成10年度 平成11年2月26日 10件 1,700万円
平成11年度 平成12年2月25日 10件 1,780万円

第1回(昭和59年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第2回(昭和60年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第3回(昭和61年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第4回(昭和62年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第5回(昭和63年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第6回(平成元年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第7回(平成2年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第8回(平成3年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第9回(平成4年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第10回(平成5年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第11回(平成6年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第12回(平成7年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第13回(平成8年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第14回(平成9年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第15回(平成10年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第16回(平成11年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)


技術交流に関する助成状況

技術交流に関する助成金贈呈者
(注:表/PDFに記載)


編集後記

 今年は早目に梅雨が明け暑い日が続いております。皆様方にはいかがお過ごしでしょうか。
関係者のご協力により、年報第15号は比較的早目にお届けできることとなりました。
 悲しいことですが、財団の発展に貢献されたお二人の前理事がご逝去され、朗号に引き続き、本号でも追悼文を掲載させていただきました。即ち、平成12年11月に理事であった梅垣健三氏が他界され、また、平成13年1月には、前理事長の木村英?氏が他界されました。お二方とも財団設立時からの理事として約15年以上という長期にわたり、諸々ご活躍を頂いた方々であり、残念でなりません。心からご冥福をお祈り申し上げます。
 財団の役員等に移動がありました。昨年11月に、橋本専務理事が退任され、評議員であった家次氏が専務理事に就任され、新しくシスメノクスの和歌氏が評議員に就任されました。
また、この6月には、宇都宮理事が退任され、東京大学の車墨部氏及び浜松医科大学の菅野氏が理事に就任されました。橋本前専務理事、宇都宮前理事のこれまでのご指導ご協力に対しまして、この場をお借りし、厚く御礼申し上げます。
 さて、本年報は、財団の事業報告及び成果報告を兼ねており、例年のように、平成12年度の財団の活勤状況と過去に行いました助成事菓の成果を紹介しております。
 目新しいものとしては、平成9年から実施しておりました「21生体電子計測研究会]の成果を取りまとめた報告書の中から、「提言」部分を抜粋して掲載させていただいたほか、技術交流助成事業の一環として実質的に12年度から実施致しました、海外研究者の招聘助成成果について、受人責任者となれた先生からのレポートを掲載しておりますので、ご一読下されば幸いです。
 「21生体電子計測研究会報告書」は、研究会が平成12年度末で終rするため、メンバー、講師等の方々のご協力を得てこれまでの成果を報告書の形にまとめたもので、費用の関係もありCD-Rで作成しております。また、部数に限りはありますが、簡易印刷版(A4版約100頁)も作成致しました。入手ご希望の方は事務局まで、お申し越し下さい。
 事務局では、昨年から、パソコンベースの事務処理に切り替えました。まだまだ不慣れな面も多く、皆様方にはご迷惑をおかけ致しておりますが、恩恵は多大なものがありました。即ち、不在となることが多い方々との連絡がメールにより効率良く行えるようになった他、上記報告書の作成作業の過程におきましてもフル活用させて頂きました。また、研究助成事業の募集をホームページでも行ったため、間い合わせも増え、応募総数は、これまでの最高となりました。
 KSD事件もあり、公益法人に対する指導、監督も一段と厳しいものとなっておりますが、当財団は過去の実績もあり、昨年11月15日付で通商産業大臣(現経済産業大臣)から、寄附金に対して免税措置が受けられる、特別公益増進法人としてのご認可を頂くことが出来ました。当財団は、今後とも、電子計測技術の振興のため各種助成事業を実施し、社会に貢献させていただきますので、皆様方の暖かいご支援をお顧い申し上げる次第であります。
(7月末栗山記)