1993年[ 年報 ] : 年報07号

年報07号

中谷電子計測技術振興財団

概要

目次

設立の趣意
役員・評議員および事業の概要
I. 技術開発に関する研究助成事業
技術開発研究助成金贈呈式の開催状況
II. 調査研究助成事業
III. 技術交流に閑する事業
平成2年度(第7回)技術開発助成研究成果報告
平成4年度技術交流助成成果報告
技術開発に関する研究助成状況
技術交流に関する助成状況


設立の趣意

 わが国経済社会の高度化は,1970年代以降急速に進展しています。これは,わが国の唯一の資源でもある恵まれた頭脳資源を,十分に活用することで達成されたものです。特にコンピュータを始めとするエレクトロニクス技術の発展が重要な役割を果たしてきました。
 これらのエレクトロニクス技術の発展は,優れた電子計測技術の基盤の確立か無くしてはありえません。今後わが国のエレクトロニクス技術の一層の発展を実現する上で,電子計測技術基盤の一層の強化か大切であります。電子計測機器がエレクトロニクスのマザー・ツールであるといわれる所以でもあります。
 政府におかれましても,その重要性を十分認識され,電子計測技術甚盤の確立のためにいろいろな施策を展開されております。
 このような客観的諸情勢から故中谷太郎初代理事長は,電子計測技術の発展を推進し,産業基盤の確立に貢献することを強く念顧され,昭和59年4月に財団法人「中谷電子計測技術振興財団」が設立されました。
 当財団は,技術開発・技術交流の推進, 技術動向等の調査研究等を行うことにより,電子計測技術の基盤の確立に微力をつくす所存でございます。このような主旨をこ理解の上,当財団にご指導,ご協力を賜わりますようお願い申し上げます。


設立年月日 昭和59年4月24日
基金 6億2千万円

役員
理事長
木村 英一 前大阪市立大学学長・名誉教綬

専務理事
橋本 禮造 東亞医用電子株式会社 代表取締役社長

理事
梅垣 健三 元奈良県立医科大学学長・名誉教授
宇都宮 敏男 東京理科大学教授 東京大学名誉教授
三輪 史郎 (財)沖中記念成人病研究所所長
中谷 正 東亞医甲電子株式会社 監査役
伊藤 健一 当財団 事務局長

監事
麻植 茂 公認会計士
本田 親彦 公認会計士


評議員
川越 裕也 東大阪市立中央病院 副院長
藤井 克彦 大阪大学名誉教授
斎藤 正男 東京大学医学部教授
屋形 稔 新潟大学名誉敦授
八幡 義人 川崎医科大学内科学教授
太田 有郷 東亞医甲電子株式会社 常務取締役
家次 恒 東亞医用電子株式会社 常務取締役


事業の概要
電子計測技術の発展を推進し,産業基盤の確立を図ることにより,わが国経済社会の発展および国民生活の向上に資することを目的として,次の事業を行います。
■電子計測技術分野における技術開発に対する助成
電子計測技術分野における先導的技術開発活動を促進するため,これに助成します。
■電子計測技術分野における技術動向等の調査,研究
電子計測技術分野の実態および種々の問題について調査研究を行い,または,助成します。
■電子計測技術分野における技術交流に関する支援
電子計測技術分野における技術の交流を推進するため,内外の研究者等の交流に対する助成,シンポジウムの開催等を行います。
■電子計測技術分野に関する情報の収集,提供
電子計測技術に関する情報文献,資料等を収集整理し,その広汎な利用を図るための種々の活動を行います。


I 技術開発に関する研究助成事業
 国際経済杜会において、大きな役割を果している我か国にとって、国際的協調をはかりつつ、経済産業の発展を進めてゆくには、新たな局面に対処するための産業構造の変換をはかるとともに先導的技術開発の創出が急かれている。
 このため、当財団においては、中核事業として電f五十測技術分野における先導的技術開発活動を促進するため、大学及びこれに準する研究機関に対して研究助成を昭和59年度から実施してぎた。その概要を次に述べる。

1. 助成対象研究の募集
 産業技術の共通的・基盤的技術である電子計測技術は極めて広汎な分野に亘るが,その中で,健康で、明るい人聞社会を築くために重要な役割を果すと考えられる技術開発分野として,理学・工学と医学・生物学の境界領域としての学限的研究である「生体に関する電子計測技術」の進展がますます要請されている。
 かかる状況を勘案し,当財団では対象を次のように定めて,毎年9月末日を締切として助成対象研究を募集してきた。

対象研究課題 生体に関する電子計測技術
助成対象 独創的な研究であって,実用化が期待されるもの。または,実用化のための基盤技術となるもの。

2. 審査委員会
 応募のあった助成研究申請書の内容を,中路幸謙委員長ほか6名の学識経験者からなる審査委員会において,再三にわたる慎重かつ,厳正な審査が行われ,助成対象研究テーマが選ばれた。

3. 研究助成金の贈呈式
 審査委員会の審査を経て選出された大々の研究開発テーマの研究責任者に対して,技術開発研究助成金の贈呈式を毎年,芝浜松町にある世界貿易センタービルにおいて,多数の関係者,来賓を迎えて盛大かつ厳粛樫にとり行われた。
 この際,各研究者より研究内容の概要を発表していただいているが,好評を博している。
 また,研究助成金の贈呈式後,祝賀を合めて,懇親会を開催し,相互に,よろこびと意見の交歓をしあった。
 平成4年度の研究助成金の贈呈については次のとおりである。

年度 贈呈式年月日 助成件数 助成金総額
平成4年度 平成5年2月26日 10件 1,930万円


第9回(平成4年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)


技術開発研究助成金贈呈式の開催状況
(注:写真/PDFに記載)


贈呈書の授与
(注:写真/PDFに記載)


研究計画の発表
(注:写真/PDFに記載)


記念懇親会
(注:写真/PDFに記載)


II 調査研究助成事業
 電子計測技術の振興をはかるため、平成2年度から4年度にかけて、次の調査研究に助成した。
調査研究題目
生体電子計測技術における可視化・知能化に関する調査研究

1. 調査研究の目的
 近年、生体計測技術はエレクトロニクスの進展とともに急速に発展し、X線CTを始めとする高度の診断装置が開発されている。しかしこのような技術をもってしても、まだ生体のもつ構造、機能を十分には計測するには至っていない。非侵襲計測であることが望ましいこと、そして生体は基本的には分布定数系であり、また適応性、非線形性などの複雑な特性か備わっていることか、生体計測を困難にしている。さて、生体機能に関する、より高度で精密な計測を志向するとき、対象とする生体システムのメカニズムに関する生理学的あるいは解剖学的な知識を利用することは重要なことである。また、生体には優れたセンシングの機能が備わっており、それらの機能に関する知識を生体計測に適用することも重要であると考える。
つまり生体情報処理の仕組みに関する調査研究は高度な生体計測技術を開発するときに重要な示唆を与えると考える。一方、工学の分野においては、近年マイクロ化技術、人工知能、信号処理において進展か見られ、これらの技術を利用した生体計測法か開発されつつある。
 この様な観点から、本調壺研究では、従来計測が不可能、あるいは困難であった生体量の可視化の技術、およびセンシングと処理における知能化の技術に焦点を当て、工学、基礎医学、臨床医学に従事する研究者からなる調壺委貝会を設け、これらの技術に関する現状と問題点を調査し、並びにその解決策を検討することを目的とする。すなわち、本調査研究は、理工学、医学の両面から可視化・知能化生体電子計測システムの構築における重要課題を探求し、もって電子計測技術の振興を図るための研究助成事業に資することを目的とする。


2. 調査研究委員会の構成
 大阪大学の(故)瀬口靖幸教授を委貝長として、工学と医学の専門家17名からなる委貝と4名の協力委貝からなる、生体電子計測技術可視化知能化調査研究委貝会を構成し,調査研究を実施した。

調査研究委員会委員名簿
[敬称略]
委員長:(故)瀬ロ 靖幸 大阪大学基礎工学部、教授

副委員長:赤澤 堅造 神戸大学工学部情報知能工学科、教授

幹事:千原 国宏 奈良先端科学技術大学院大学、教授

委員(五十音順)
石原 謙 国立大阪病院臨床研究部
北村 新三 神戸大学工学部情報知能工学科、教授
佐藤 俊輔 大阪大学基礎工学部生物工学科、教授
武田 裕 大阪大学医学部附屈病院医療情報部、助教授
田中 正夫 大阪大学基礎工学部機械工学科、助教授
辻岡 克彦 川崎医科大学医用工学教室、助教授
外山 敬介 京都府立医科大学生理学教室、教授
西村 恒彦 大阪大学医学部バイオメティカル研究センター、教授
馬場 一憲 東京大学医学部医用電子研究施設、講師
浜田 隆史 電子技術総合研究所大阪ライフエレクトロニクス研究センター、主任研究官
堀 正二 大阪大学医学郎第一内科、講師
湊 小太郎 京都大学医学部附属病院医療情報部、助教授
山ロ 隆美 束海大学開発工学部医用生体工学科、教授
吉村 武晃 神戸大学工学部情報知能工学科、助教授

研究協力委員:
楠岡 英雄 大阪大学医学部バイオメティカル研究センター、助教授
牧川 方昭 大阪大学基礎工学部生物工学科、助教授
内山 孝憲 神戸大学工学部情報知能工学科、助手
小坂 時弘 東亜歴用電子(株)技術開発部


3. 調査研究の対象
生体はその活動に伴い電気、磁気、温度、光などを発生しており、これらを計測することによって生体の状況を知ることかできる。計測する立場からは、これは相手からもらった信号の受動的計測である。一方、外部から超音波、X線、磁界などを探索信号として与えると、それに応答して生体は自分の情報を返してくれる。計測の立場から言えば、能動的計測である。立場を変え、計測技術という点から、生体計測技術は、
イ)間接計測:磁界(NMR)、X線(CT)、超音波、光などの利用
ロ)モデルによる計測
ハ)データの処理(計測・記録、伝送、圧縮、表示、診断)
に分類できるか、本調在研究では可視化・知能化の観点から、次のように分類して、調在研究を行った。
I)ノンパラメトリソクな可視化技術
II)パラメトリソクな可視化技術
III)知能化の技術
IV)可視化・知能化の統合技術
の4項目である。イ)がI)に対応し、同様に口)がII)に、ハ)がIII、N)に対応する。
 生体量の可視化に関しては、I)のノンハラメトリックな計測法は、例えば超音波による血流および圧の計測など能動的註測技術を用いた2次元または3次厄分布情報の定量的計測法かあり、II)については、モデルを用いて生体情報をパラメトリックに計測するもので、筋収縮のパラメータ、骨格系、循環系における流れのパラメータの推定などのモデル駆動刑の計測法、がある。
 一方、センサおよび処理における知能化の技術としては、III)のテータ処理機能か中心となり、異常値や例外値の除去、自動校正機能、自動補償機能、メモリ機能、変更可能な処理アルゴリズムか挙げられ、より高度の知的処理システムとして、人工知能やニューラルネノトの応用か名えられる。(最近のトピソクスとして、走査即トンネル顕微鏡(STM)か挙げられ、これは対象物に電流を流し、表面構造を可視化する超精密インテリジェン卜能動刑センシングシステムである。)例えば、2次元の画像から冠血管の3次元的構造を得るには、構造についての知識を利用した処理か必要であろう。また最近のマイクロ化技術の進展は、センサとプロセッサか一体化された形でのデバイスか現実のものとなりつつある。この技術を生体の微細構造や局所機能の計測に応用した知能化システムも調奇対象とする。さらに、マイクロプロセッサの小型化に伴い、携帯型のデータロガーの開発がなされており、日常生活者の身体活動を無拘束に計測するシステムも臨床応用の段階になりつつあり、これらも調査対象とする。この他、生体計測に適用可能と考えられる人工知能、ニューラルネノト、テータ圧縮などの枯礎理論を調在することが必要である。
IV)は、可視化された生体情報を知的処理したり、統合して診断・治療の高度化に役立てるもので、病院や医療システムの高度情報化に関するものである。


4. 調査研究の内容・方法
1)内容
 本委員会ては、生体叶測における可視化・知能化に焦点を当てたものであるのて、基礎・応用の粗互の関連性を踏まえた調任研究を行った。ます、基礎については、伍号処理、モデル化、人工知能、ニューラルネノトなどの調在研究、応用については、循環器系、運動系、神経系などにおける、計測測処理の可視化・知能化の事例およひシステム化などに関する調査研究てある。
 可視化・知能化に関連する事項は非常に広い範囲にわたるものてあり、本調任委員のみで全体を網羅することは適切てはなく、むしろ各委員か専門とする分野を中心として、中身の濃い調在と議論ができるように、研究調代の対象を紋った。
 各委員か担当した調在研究の項目はF記の通りである。
I)ノンパラメトリソクな可視化技術
千原国宏、石原謙、辻岡克彦、
外山敬介、西村恒彦、馬場一憲、
堀正二、吉村武晃
II)パラメトリックな可視化技術
赤澤昭造、田中正夫、山口降美
III)知能化の技術
北村新三、佐藤俊輔、浜田降史、
牧川方昭
IV)可視化・知能化の統合技術
武田裕、湊小太郎

2)方法
 生体計測における可視化・知能化に関して、各委貝か専門とするテーマについて、現状、問題点、解決策などに焦点を当て、研究内容を各委員か発表し、さらにこれに関して医学の分野におけるニースと埋工学のシーズを中心として意見を交換し、自由討論を交わした。また循環系における光計測、バイオメカニクスにおける計測、および長時間生体情報の可視化について専門家による講演を実施し、それらについて議論を交わすと共に研究交換を行った。全体を通じていえることであるか、技術の進展に関する調在だけでなく、医学サイドのニードの把裾は必須のものであリ、当委員会においてもこの,1ばについて活発な意見交換を行うことを図った。
 調査研究の方法は以下の通リである。
(I)各委貝は担当するテーマ(委貝か専門とする研究分野)について、文献検索システムを利用して、重要と考えられるテーマ、文献を検索し、その結果ならびにその委貝の研究内容を委員会において発表を行った。
(II)委員会において、医学のニーズ面と理・エ学のシーズ面から紅見を交換した。
(III)さらに、調在研究の結果を踏まえて、各委貝よリそれぞれのテーマについて自由討論を実施し、知能化生体電ht測技術に関する近未来への技術研究課題についての意見交換を行った。
(IV)特別に講師を委員外より招き、専門家よリ講演をいたたき、議論を交わした。
 なお、最終年度の平成4年度は、生体計測における可視化・知能化に関して、この2年間に行ってきた調査研究を踏まえ、可視化・知能化の現状および問題点、課題を総合的にまとめ、調査研究報告書を作成した。


5. まとめ一現状と問題
ノンパラメトリックな可視化技術における
研究課題
石原 謙

1)ノンパラメトリックな可視化技術としての画像診断法
 いわゆる医用画像とか画像診断と呼ばれるもののほぼ全てか、このノンパラメトリックな可視化技術に相当することとなり、本稿に含まれる諸問題はその視点により大いに異なり得る。また最近のように毎年あるいは数力月毎に、画像のハンドリング技術が更新・普及してくると、同じ視点を保っていても技術的バックボーンの変化により研究課題が異なり得ることを、まず始めにお断りしておきたい。
 また、パラメトリックとノンパラメトリックな計測・可視化技術は、それらの境界あるいは区別が実は比較的曖昧で、双方向的な交流かお互いの計測法の間に認められる。例えば、X線CTは本来各部位のレントゲンの吸収率というパラメトリックな計測データの2次元マップであるが、通常は臓器の大きさや形あるいは癌の有無などノンパラメトリックな形態情報を診るのに用いられ、一歩進んだ(実は後退?)利用法として造影剤の濃度の経時的変化をパラメトリックに観察・血流情報への流用などが語られる。このような現象は超音波計測や光計測などの分野でも同様である。
 ノンパラメトリックな技術とパラメトリックな技術の性格を比較すると、それぞれの特徴は一層際立つ。計測の際、解釈を要求するパラメトリ、ノク技術と、解釈を許さないノンパラメトリック技術となるのである。

2)ノンパラメトリックな計測法に求められるもの
 これには、高速性(リアルタイム)かことのほか要求される。少なくとも2次元の画像として表現するには、ワンポイントの時系列情報を計測するのと比べると、2桁から3桁高速度に計測し得る必要がある。
 ノンパラメトリックな計測法のアウトフ゜ットは、理解のしやすさつまり医師にとっての明瞭性も重要である。パラメトリックな計測の場合には数値かでてきて少なくともその事実に関しては比較的誤解しにくい事か多いか、ノンパラメトリックな計測では医師にとっての印象が直ちに診断(医用画像は、しばしば「百聞は一見に如かず。」の言葉とともに解説され、一般の医師は通常過大な信頼を寄せている。)となることか多く、誤解のない表現でなければならない。
 簡更性すなわちベットサイドヘのポータビリティも大切なファクターである。上記のリアルタイム性と明瞭性そしてこのポータビリティが揃うと、医師が検査中にさらに知りたい関心領域を無理なく精査出米る事となり、計測法として極めて有力となる。術中診断法などに使用されるには、これら3条件が揃っていないと困るのである。
 非侵襲性も安全な検査の適用ということで重要な要件である。胎児の検在にはこれか欠かせないことは、言うまでもない。

3)ノンパラメットリックな可視化技術におけるいくつかの落し穴
(1)詳細なことは良い事か
 医用画像は計測系の精度が上かってくると、般に階調性が増してきて、再現性も良くなってくる。にもかかわらずいつまでも、ノンパラメトリックな形態情報のみで良いのか?答えは、原則的にイエスである。臨床医からの医用画像診断法に対するneedsを誤解を恐れずに言えば、形態にせよ機能にせよ「とても大きい」「少し大きい」「普通」「少し小さい」「とても小さい」のせいぜい5段階の考慮をする事が関の山である。
 そこに、苦労の挙げ句の過剰な精度を持ち込んでも坪たがられるのが落ちである。

(2)正しい事は良い事か
 信号をリニアに出して俺は正しいと考えるエンジニアは、受け入れられない。しかしひたすら見易さを追求するエンジニアは、信頼されない。信号の抽出までは技術の分野であるが、信号の表現は、ポリシーの世界である。
 例を挙げると、X線の吸収半や超胄波の反射率がはそのままリニアに画像に表現してもヒトの目には極めてわかりにくい。まして一般に用いられている様なCRTの狭いダイナミックレンジの中では、ボケボケの眠たい両像にしか表現できないことか大半である。計測系のアンプのダイナミソクレンジの狭さも含め、対数圧縮などの非線形的処理を施すことが必須で、むしろその方か視状の人ぷ系では明瞭となる。
 しかし、これも常に必要とあらばもとのパラメトリ、ノクなテータヘ変換し得るよう名慮していないと、嘘をついているかの如く信用Jされなくなってしまう。

(3)カラーエンコード
 どんな叶測法でもそうであろうか、どんどんデータか取れるようになり、ましてや2次元で表現でぎるようになると、「誰もが一目で良くわかるように」の善意からそのエンジニアなりのクライテリアに駐づいたカラー化を始めるようになる。いままでモノクロームの味気ないものであった大量のデータがカラーになると、それは勿論綺麓であり、綺麓はもちろん良いことであると仏じて、いろんな色合いを工夫したい誘惑にかられるようになる。
 これは、実は大きな洛し穴なのである。カラー化すると一見、わかり易い。しかし本当は診にくいのである。本来何の情報も持たない、否持ってはいけないグレイスケールを疑似カラー化すると、偽の輪郭情報を提供し始めるからである。ヒトの目のパターン泌識能力の高さの故に、逆に飯り皿されることとなる。
 超音波カラートプラー法のような成功例は、ノンパラメトリソクな形態怜報であるBモード圃像の上に、パラメトリックな性格の強い血流ドプラー情報を重量表示しなければならないという必然性かあり、医師からのニーズにマソチしたからであることを忘れてはならない。

(4)3次元計測と表示
 2次元画像が比較的簡単に計測できるようになると、決ってこれまた3次元をめざすこととなる。確かに明瞭な3次元画像がすぐに計測できるようになるとこれは有用である。しかし、現時点においては、いまなお叶測系の速度の遅さ(生体内の行速の遅さのような原理的・物埋的であれ、単に技術的であれ)と、人ぷ系の決定的な遅さは、この間題をノンパラメトリノクな可視化技術の現実的な研究諜趙としては二の脚を踏まざるを得ないものとしている。少なくとも現時点では、3次元計測と表示はそれ自体大きなテーマとなるもので、ある計測技術の実用的な一形態としてはまだまだ夢である。

4)ドプラー法の現状と問題点
 可視化技術の研究課題の一例として、FFT法などでパラメトリックなアプローチとカラードプラ一法などでノンパラメトリソクなアプローチの共存する超音波ドプラー法の視状と間題点示し、参考に供したい。
 超作波検任法を習う人々が、ノンパラメトリノクな最布颯の形態観察法であるBモード法に引き続いて血流速度を計測するドプラー法を試みて、まず最初に愕然とするのはBモードに比して感度が著しく劣る「やりにくさ」であろう。Bモードで心臓の構造と心内腔が観察できていてもドプラー信号が明瞭に得られるとは限らない。血液からの反射強度が如何に臓器構造体ある固定部からのそれより弱かろうと、ここでノンパラメトリックなBモード法よリパラメトリックなドプラー法は難しいものだという先人観を植え付けられる。
 次に、パラメトリックなドプラー法は表ぷ法もわかりにくい。Bモード法では、見えたままに構造物があり運動していると信じてほぼ間違いはない。というよりも有り体にいえばそれ以外の想像をたくましゅうする余地は良かれ悪しかれはとんどないのである。しかしドプラー法では、見えたものをさらに検者が解釈しなければならない。これは、計測対象の運動速度と超音波診断装置ーの記録速度がミスマッチしているからである。例えばドプラー法で見るべぎ血流速は、Bモードで見ている構造物の運動よりはるかに速い。ところが現実の計測では状況が全く逆で、2次元ドプラー情報(カラーフローマッピング)のカラー表示のフレームレートとbモード情報のフレームレートは前者か圧倒的に遅い。ドプラー法では高速度な運動を低速撮影で観察しているのであるからその情報の欠落は著しく、本来ある筈のデータをかなり無理な表現法でごまかしているのである。
 従って、2次元ドプラー情報の解釈は、慣れぬうちはなかなか馴染めない。「赤は動脈血で青は静脈血ですか?」の疑問から始まって、「未梢側へ流れるのが赤で中枢側へ流れるのが青ですか?」や、「カラーで示されるのは、速度ベクルトの超音波ビームヘ降ろしたスカラー景としての速度成分だ」とか、「直交すると感度はゼロになる」等。まして、「この赤と青の境界はエイリアシングによる
ものだが、こちらの赤と青の反転は超音波ビームに対する相対的位置関係の問題だ」さらに、「このモザイクパターンは高速血流だからパルス繰り返し周波数を変えよ、でぎれば連続波を使え、ステアラブルならなお良い」や「このドプラー信号の領域は右から左に動いているが、これはストロボ効果で本当は逆に流れているのである」などに至っては多忙でまともな医者なら怒り出しても当然である。こんな未完成な機械や検査法にお付ぎ合いでぎるのは、検査にたっぷり時間と手間をかけることのできる研究者という名の殻潰しか、犠牲的精神あふれるごとく一部の気の好いドクターだけである。
 さらに近年改善されつつあるとは言え、なお問題であるのは低速度の血流に対する感度の悪さである。高次なディジタル処理が可能となっている現在MTIフィルタなどを言い訳にしてはならないのではなかろうか。
 なお付け加えるとカラー表示されたノンパラメトリックな2次元ドプラー情報は、画像情報としても極めつけに酷い扱いを受けている。超音波診断装置の内部では、Bモード情報・ドプラー情報ともにディジタル処理されていることが増えてきたか、その最終的な記録にはNTSCやPALなどの民生用TV機器の規格か流用されたビデオテープに録画されている。これが曲者で、カラーに割り当てられた周波数帯域が致命的に狭いため画面上の分解能はぎわめて劣悪である。超音波診断装置のRGBモニタの鮮明なカラーのドプラー情報とビデオテープからの再生画像とを見比べるとその差は唖然とするはどである。Bモード情報は一応見た目には充分な周波数帯域を与えられていることになっているが、これとても実際には空間分解能・ダイナミックレンジともにかなり不足している。現在の超音波診断装置に附属しているビデオレコーダは、例え医用となっている高額のものでもこのように御粗未なアナログ記録であり、本気でカラー画像を定量的データとして残すには全く不向ぎである。
 以上のような問題は、超音波ドプラー法に留まらず他の可視化技術に共通する部分が多く、現場の医師達はその問題点に気づいているもののどうしようもないと諦めていることが多い。これらの研究課題をうまくキャッチする事にもっと時間と手間を割いてよいのではなかろうか。


パラメトリックな可視化技術における研究課題
田中 正夫

1)可視化におけるモデル
可視化技術におけるパラメトリックな接近法は、可視化対象である物理現象のふるまいを直接に可視化するのではなく、可視化対象現象に誘発された副次的な対象のふるまいを観察することから、両現象の間の因果関係を表現したモデルを通して、対象の内面に存在する現象を間接的に可視化しようとするものである。これを行うにあたっては、
①可視化対象現象に依存する直接観察可能な物理現象の存在
②直接観察可能な現象の観察法
③可視化対象現象と直接観察可能現象との因果関係モデル
が必要となる。
 直接観察可能な現象が見出せないといった場合には、どのような可視化も可能と思われないから、このような状況は除外しておく。項目①に関しては、実際に観察を行う物理現象に何を選べば良いかの問題が生じる。直接観察可能な現象を如何に観察するかについては、ノンパラメトリックな可視化技術の支援を受けることになる。項目②の存在は不可欠であるが、ここでの問題からはずしておいてよい。項目③可視化対象である現象と直接観察現象との間の関係を表現するモデルは中心的問題となる。ここでいうモデルは、可視化対象物理現象のふるまいを入力あるいは内部状態とし、直接観察可能な物理現象のふるまいを出力とするものであり、出力に対応する観察事実から入力あるいは内部状態に対応する可視化対象のふるまいをこのモデルに基づき調べるわけであるから、モデルの構成如何か可視化の結果を支配すると考えてよい。

2)記述モデルと機構モデル
可視化のためのモデルの構成には、入力と出力の写像関係に注目した現象論的記述モデルと、入力における物理現象から出力における物理現象を導く因果関係のメカニズムに力点をおく因果論的機構モデルの二つが大別される。前者は、可視化対象現象と直接観察現象との間を直接に対応付ける伝達関係数的なコンパクトな集中定数モデルを採用する。この意味で、計測としての可視化技術を指向するものといえる。これに対して、因果論的機構モデルは.、対象ンステムの内部での物理現象間の変換の因果関係をでき得る限り詳細に表現することで、入出力現象間の対応のみならず、その機構の理解、解明といったより基礎的な目的を通して、現象の可視化を目指すものである。この両者はモデルの構成における基本的な考え方に差異かあるとはいえ、モデルを組み立てることで対象システムの内部に存在する物理現象を、可視化するためのスコープであることにはかわりかない。

3)逆問題的可視化
 このようなモデルをスコープとしたパラメトリックな可視化技術は、モデル同定あるいは入力負荷同定のひとつであり、いわゆる逆問題、あるいは逆解析と呼ばれる範疇に属する。逆問題における共通の特性として、モデルに基づくパラメトリックな可視化においても、問題の不適切性、すなわち、①解の存在性、②解の一意性、③解の連続性あるいは安定性、といった問題が常に存在する。解の存在が保証できないような不十分な観察情報からでは、同定できないものはできないのである。理屈の上では解が存在するはずの問題でも、直接観察できる物理現象から得られる情報が観察雑音を多く含むならば、状況は保証の限りではなくなる。また、限られた観察情報からでは、解を一意に同定することが必ずしも可能ではなく、これを適切化するための方策が不可欠となる。これら二つの点は理論的側面からは決定的ではあるが、同定手順の面から見れば、解の安定性欠如の問題が実際の局面では最大の課題となる。これは、モデルを用いた可視化における、検出力の問題、頑健性の問題と直接関連する点であり、どのような現象を、どのように観察するのかという、先述の項目①,②の問題に密接にかかわる。この点に関しては、個々の現象、対象システム毎に十分な検討か行われなければならない。

4)順問題的可視化
 逆問題的可視化の問題としてとらえれば、現象論的記述モデルは、少ないパラメータを用いて可視化を進めることが可能であるから、不適切性の問題に囚われ難く、その意味では望ましい。しかしなから、可視化対象現象のより深い理解の意味からは、実現象の因果律に基づく詳細な機構モデルの重要性が高まることになる。これは、モデルの確立を含めた逆問題的可視化を更に推し進め、順問題的可視化への展開の道筋を示唆するものである。すなわち、可視化対象の現象についての機構を含め、対象システムに内在する物理現象の同定がひとたび行われたならば、個別の状況下での可視化が行われたというよりも、対象ンステムそのもののふるまいを一般的な紅味で可視化したと考えることができる。この段階での可視化とは、従来ブラソクボソクスであった物理現象をホワイトボソクスヘと転換させるという、より高位のものを慈味している。
 同定された機構モデルに基づけば、個別の対象システムの写実的詳細表現と詳細な条件設定の下でのふるまいを調べることの可能性が発生する。これは、コンピュータ・シミュレーションとそれに基づく視党化表現、すなわち、ヴィジュアルンミュレーションそのものであり、現象の観察に立脚したものとは独立した形式の、新しい可視化技術としての方向を示すものである。これはまた、現象の発現機構をふまえた、人出力間の伝達関数的モデルの構築とそれに桔づくパラメトリックな可祝化をももたらすものである。
 対象システムのモデルと副次的物理現象の虹接観察とに甚づくパラメトリックな可視化は、現象論的可視化、対象システムの物理現象の機構解明としての可視化、ヴィジュアルシミュレーションとしての可視化といくつかの展開を含んでおり、そのいずれにおいても、モデルが中心的な働きをすることになる。その意味で、各固有対象システムにおける現象論的記述モデルと囚果論的機構モデルの確立、各レベルの可視化の相互連携を通じて、モデル駆動刑の可視化技術としての系統的な展開を進めていく必要がある。


知能化技術における研究課題
千原 国宏
1)はじめに
 知能センシングは日進月歩のホットな研究分野であり、その研究課題をーロにまとめることは困難である。センシングに関する技術は、情報受容/情報変換/情報処埋/情報伝送に大別できる。しかし、本来、センサ素子またはデバイスとしで情報受容および情報変換部か主な研究テーマてあったセンサ技術か、より高度な情報処理や情報伝送を己含したセンンング技術までを研究対象とするようになった現在、厳密に知能化技術をセンサレベルとセンンンクレベルに分類することは難しい。
ただ、知能化センサ技術か個号IJ的に対応する傾向かあるのに対して、知能化センシンク技術はシステムどして高精度化/高機能化か実現できる共通技術を開発しようという傾向かある。
 本筋では、この意味で大別した知能化センサ技術と知能化センシング技術の課題を展望する。

2)知能化センサ技術の課題
(1)機能集積化
 情報受容と情報変換および情報処理といった機能を集積化するには、いわゆるセンサとプロセッサを一体化する必要かある。しかし、情報受容機構か材料(半導休/セラミノクス/高分子など)の物性に依存する物性型センサの場合には、同一晶板上でそれらを結合するには、回路間の電気的な絶緑が問題になっている。また、直接対象に触れる接触型センサの場合には、センサが設罹される厳しい環境と現在のプロセノサの作動環境との間に大きな違いがあり、誤動作や破壊が起こるという問題も指摘されている。
(2)機能物性と集積化
 機能材料の物性を応用して信号処理機能を付加したセンサの代表例に、ISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)かある。このタイプは、1個のISFETで選択性が十分でなければ、多数のISFETを準備して高精度の分析が可能であるという特徴を持っているが、特性の異なる材料が異なる場合には、異質の材料構成と製法の相違が製品の良品率向上を阻害するという問題がある。
しかし、このタイプのセンサは多成分の分析手法によるパターン認識機能の取り込み容易であり、既にガスセンサの分野では知能化センサに近いレベルのものが試作されている。
(3)アナログ処理化
 現在の信号処理はフレキシブルな対応が可能であるという特徴を持っているディジタル方式が利用されている。しかし、視覚/聴覚/触覚といった感覚は二次元ないし三次元の情報であるため、本質的にシーケンンャルに情報を処理する逐次処理方式であるディジタル手法より、並列処理方式であるアナログ手法が適している。実際、4.1て述べた圧力J分布センサやPSD(Point Sensitive Detector)は二次元情報が同時に処理できるアナログ手法によって作成されてしヽる。
 なお、アナログ処理を導入するには、分散処理のための機能の集梢化と多機能化が必安である。
このためには、圧虚体や焦虚体などのふ北材料、ジルコニアを中心とする固体電解質材料、酵素をはじめとするバイオ材料などのセンシング用新材材料の研究が重要になるし、マイクロマシニングのような新しいプロセス技術も不可欠な要素技術である。

3)知能化センシングの課題
(1)パターン計測
 従来のセンシングか計測対象に設定したポイント情報の把握に力点置いていたのに対して、現在では、時間的に変動する柏報や守間的に分布した情報、いわゆるパターン情報の計測に対する要求が増大している。パターン計測においては、パターン情報から有効な情報を抽出する技術、つまりパターン認識か主要な研究になるか、これは現在でも課題の多い研究分野である。
たとえば、人工知能の研究分野だけを取り上げても、
・推論による知識ベースやデータベースを用いたエキスパートシステム
・あいまい性入力によるファジイ推論マシン・ニューラルネット
などさまぢまな研究が進められている。これらの成呆かセンシングに応用できるようになったとき、知能化センシング技術の研究は大きく前進するであろう。

(2)多次元化
 複数の情報を組み合わせて処理することにより、新しい意味を持った情報の抽出が可能になることは明白である。この情報の組み合わせには
多重化:物罪的に詞し「次元」を持つ情を多数計測する多次元化
複合化:物理的には異なる「次元」をもつ量についての多次元化
かある。
 多次元化の目的は、簡単な機能や構造の並列化によって新しい情報を護得しようということにあるか、データ量が急激に増大するし、既存の次元のデータと高い相関を示したり、相対的に雑音の省りが増加するなど、情報処理の効率が悪くなるから、最適多次元化手法の開発など課題も多い。

(3)あいまい量のセンシング
 本来、人間の五感である感覚量はあいまい量である。このため、知能化センシング技術には、あいまい量の取扱手法が不可欠である。しかし、感覚量は人間の潜在的な情報であるため、普遍性のある量概念として成立するかどうか不明であるという問題が残っている。
 感覚計測を実現するには、この潜在量を顕在量化するプロセスが必要であり、このプロセスを実行する技術かあいまい量センシングの知能化技術と与えられる。このためには、「量概念の整備」と「機器計測化」の二段階での研究が必要であるという指摘かなされる。

参考文献
[1]R.Muller & Lange(1986).Multidimensional Sensor for Gas Analysis,Sensors & Actuators, 9-1,pp.39-48
[2]石川、下条(1983)、感圧導電性ゴムを用いた圧力分布センサ、第22回SICE学術講演会f稿集、pp.803-804.
[3]小林(1988)、あいまい量のセンシング技術(先瑞センンング技術、森村編、計測自動制御学会)、pp.131-182.


可視化・知能化の統合における研究課題
牧川 方昭
1)可視化技術の重要性
 生体計測技術は、その手段、方法の違いによって3種類に分類することが出来る。第1は、適当なトランスデューサを用いて生体から発する情報を測定する方法てあり、電極を用いた心電図社測、加速度計を用いた運動計測などはその代表例てある。第2は、生体の媒体としての特性を測定する方法で、生体のX線吸収度の違いを映像化するX線撮影、超音波による超音波診断法はその代表例である。第3は、生体から摂取した椋本を用いる方法で、血液検査、尿検査などかその代表例である。
 さて、臨床医学の立場からこれらの3種類の生体計測技術を眺めたとぎ、第1の生体から発する情報の測定方法は悲観血的であって患者への侵襲が小さいという利点はあるものの、いわば生体から漏れ出てくる信号を検出する技術であり、靴の上から痒いところを掻く感は否めない。また第3の生体標本による方法は、観血的であって患者への侵襲が大ぎいという欠点はあるものの、生研による癌細胞の検出、細菌検査による感染菌の同定など、診断精度は高い。病院での必須検査項目として、血液検査、化学検査が行われるのはこのためである。しかしこの生体標本による検査には問題がある。1つには、その標本が果たして疾患の状態を正しく反映したものであるかという問題であり、異常因子が発見出来なかったからといって異常を否定でぎない。また1つには、判定基準の問題がある。血液検査などの数値は常に変動するものであり、1回の検在値だけでは確定診断に至らないし、また判定基準である正常値そのものの根拠が希薄であることもよく知られたところである。
 一方、第2の生体の媒体特性を測定する方法は、被爆の危険性はあるものの、X線撮影、MRI、超音波映像検査は非観血的に生体内部を映像化する技術であり、臨床診断上、重要な位置を占めることとなる。この生体内部の映像化方法の最大の利点は、上記の第1、第2の測定方法と同様な欠点は有するものの、血管の梗寒、癌細胞増殖による異常新生物などを直接観察でぎるところにある。このような観点から、生体内部を直視したいとする要望は強く、従来のX線、超音波、磁気などの波動を使った生体内部の可視化技術は更に進歩するものと思われる。また同時に生体は異なる種類の波動に対して、異なる媒体特性をホすことは容易に想像され、種々の異なる特性を有する異常部位を強調する種々の波動現象の開発が必要となろう。その意味から、今後更に超音波CT、赤外線CTなど、あらゆる種類の波動に対する生体の媒体性を映像化する技術か求められる。

2)知能化技術との統合
 さて、では以上の映像情報をいかに臨床診断に役立てるのか、という問題に話題を移す。周知の通り、情報化は医療の世界でも急ピッチで進みつつあり、現在大ぎな病院ではコンピュータ導入か盛んである。映像情報に関してもPACS(Picture Archiving and CommunicationSystem)と呼ばれるシステム構築の研究が盛んに行われている。
 しかしここに1つの問題があり、それはワープロ文書の管理の問題になぞえることが出来る。すなわちワープロ文書はデータベースか、という問題である。よく知られているように、大量の文書ファイルの中から「ある日に書かれた文害」を捜し出すことは容易であるが、例えば「可視化について書かれた文書」を探し出すことは、コンピュータではほとんど不可能に近い。このような別な捜しだし方を可能とするためには、1つ1つの文書にキーワードを設定し、そのキーワードを手がかりにする必要がある。
 同様なことは映像情報についてもいえる。すなわち、例えば全ての単純X線撮影像がコンピュータ内部に電子化されて格納できたとして、「ある日撮影したある患者の映像」は容易に引き出せたとしても、「ある疾患である部位に異常所見のある映像」を引き出すためにはいちいち画像処理を行う必要があり、実際上コンピュータには不可能な課題である。このような検索を可能とするためには、その映像に対する専門医の所見がいくつかのキーワードとしてデータベース化され、1つlつの映像と対応する形で格納されている必要かある。以上のように映像化、可視化技術の進歩のためには、並行して映像の意味するところのサマライズ技術の進歩か不可欠である。
 しかしこのサマライズ技術か完成しても、コンピュータか真に診療に役立つものとなったとはいい難い。以上の状態で留まるならば、情報システムのユーザである診療従事者が享受できるのは膨大なデータのみであり、情報システムは単なる巨大な情報キャビネットとなるに過ぎない。すなわち患者に関する過去の膨大なデータはいつも瞬時に画面上に表示出来ようが、果たしてこの患者が手術をすべきなのか、しない方かいいのかの判断は相変わらす医師の腕に任された状態にある。
 情報技術の最終目標は、膨大なデータを裕積することではない。情報技術の最終目標は先人の膨大な行動、やり方を蓄積することであり、膨大なデータの何を根拠に、どのような理由で行うべきかをアシストで苔るシステムを実現するところにある。朕療の世界でいえば、一部の患者だけが名医の恩忠を蒙るのではなく、全ての患者が名医の恩恵を蒙れる状況を実現するところにある。この意味から、病院情報システムもデータベース・マシンの状態から、知能マシンに進化させる必要かある。

3)まとめ
 可視化・知能化の統合という問題から、まずは可視化の重要性を記し、それか可視化に終わることなく、知能化と統合されて始めて文化に寄与しうることを記した。しかしながら現実のコンピュータ技術、通信技術はまだまだこれらの問題に寄与できるレベルにはない。今後更にこれらの技術が進歩し、いつでもどこでも患者病状を可視化した映像が瞬時に画面上に出現し、異常映像部位の指摘、考えられる疾患名、診断を確定するための追加検査項目の提案などが画面上に表示されて始めて臨床に寄与しうるシステムと呼べよう。


III 技術交流に関する事業

1.技術交流助成事業
 電子討測技術を促進するためには,国際化時代に対応して,内外の研究者相互の先端技術の国際的交濯が不可欠てある。このため次のとおり,国際的会議等への出席者に対して助成を行った
 これらの会議等において活溌な技術交流店動が行われだ。

技術交流に関する助成金贈呈者
(注:表/PDFに記載)

2.生体電子計測研究会
 理学,工学と医学,生物学との境界領域にある学際的研究は,医用生体工学をはじめバイオテクノロジー等,広くそのニーズがますます隆まっている。
 このため,かかる分野における共通的,碁盤技術である「生体電f蓋t測技術」に関する研究課題について,関連する専門家の研究者が交流し,ニーズ,シーズに関して討議し,今後の方向等を探求することを目的として,‘り財団内に,生体電子計測研究会を昭和60年12月に設骰した。
 本研究会は、懇談会方式にて年間4回程度開催し、開催にあたっては、医学・生物学と理・工学関係の話題提供者を交互に定めて自由活達に討議を進めてきている。研究会のメンバーは、下記のとおりである。
 以下に平成4年度の研究会の開催状況を示す。

生体電子計測研究会メンバー(50音順:敬省略)
岡井 治 杏林大学 保健学部 臨床生理 教授
小野 哲章 三井記念病院 MEサービス部 部長
川上 憲司 東京慈恵会医科大学 放射線医学教室 助教授
関谷 富男 防衛医科大学校 医用電子工学講座 講師
多氣 昌生 東京都立大学 工学部 電気工学科 助教授
辻 隆之 東京医科歯科大学 医用器材研究所 助教授
土肥 健純 東京大学 工学部 精密機械工学科 教授
橋本 大定 東京警察病院 外科部長
舟久保 登 東京都立科学技術大学 電子システム工学科 教授
宮脇 富士夫 東京女子医科大学第二病院 心臓血管外科 講師
守谷 哲郎 通商産業省 電子技術総合研究所 材料科学部 光材料研究室 室長
山下 衛 筑波大学 臨床医学系 救急部 部長(助教授)
渡邊 瞭 東京大学 医学部 医用電子研究施設 助教授
渡邊 敏 北里大学 医学部麻酔科学 教授

(注:表/PDFに記載)


平成2年度(第7回)
技術開発助成研究成果報告

スーパールミネッセントダイオードを用いた多粒子流体速度測定システムの開発
血小板の細胞内カルシウム, 細胞内p H 及び凝集能の同時測定が可能な蛍光分光光度計の開発
光による生体内の構造および機能情報計測法の開発
符号化開口CTを用いた生体組織内RI分布の3次元計測
脂質膜をトランスデューサとするマルチチャンネル味センサ
半導体レーザー分光分析法による生理活性物質の微量分析の研究
超音波像高速3 次元表示システムの開発と新しい胎児診断法への応用
インテリジェントニューロサージカルマイクロスコープの開発争
組織の酸素圧と酸化還元電位の2 次元・時系列マッピングシステムの開発
電子スピン共鳴法による血管内皮細胞の膜流動性およびフリーラジカルの測定と病態における変動


技術開発に対する研究助成状況
年度 贈呈式年月日 助成件数 助成金総額
昭和59年度 昭和60年2月28日 6件 1,600万円
昭和60年度 昭和61年2月25日 9件 2,100万円
昭和61年度 昭和62年2月27日 9件 2,050万円
昭和62年度 昭和63年2月26日 9件 1,950万円
昭和63年度 平成元年3月10日 8件 1,880万円
平成元年度 平成2年2月23日 10件 2,110万円
平成2年度 平成3年2月22日 10件 2,010万円
平成3年度 平成4年2月28日 12件 2,430万円

第1回(昭和59年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第2回(昭和60年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第3回(昭和61年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第4回(昭和62年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第5回(昭和63年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第6回(平成元年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第7回(平成2年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第8回(平成3年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)


技術交流に関する助成状況

技術交流に関する助成金贈呈者
(注:表/PDFに記載)