1991年[ 年報 ] : 年報05号

年報05号

中谷電子計測技術振興財団

概要

目次

設立の趣意
役員・評議員および事業の概要
I. 技術開発に関する研究助成事業
技術開発研究助成金贈呈式の開催状況
II. 調査研究助成事業
III. 技術交流に閑する事業
昭和63年度(第5回)技術開発助成研究成果報告
平成2年度技術交流助成成果報告


設立の趣意

 わが国経済社会の高度化は,1970年代以降急速に進展しています。これは,わが国の唯一の資源でもある恵まれた頭脳資源を,十分に活用することで達成されたものです。特にコンピュータを始めとするエレクトロニクス技術の発展が重要な役割を果たしてきました。
 これらのエレクトロニクス技術の発展は,優れた電子計測技術の基盤の確立か無くしてはありえません。今後わが国のエレクトロニクス技術の一層の発展を実現する上で,電子計測技術基盤の一層の強化か大切であります。電子計測機器がエレクトロニクスのマザー・ツールであるといわれる所以でもあります。
 政府におかれましても,その重要性を十分認識され,電子計測技術甚盤の確立のためにいろいろな施策を展開されております。
 このような客観的諸情勢から故中谷太郎初代理事長は,電子計測技術の発展を推進し,産業基盤の確立に貢献することを強く念顧され,昭和59年4月に財団法人「中谷電子計測技術振興財団」が設立されました。
 当財団は,技術開発・技術交流の推進, 技術動向等の調査研究等を行うことにより,電子計測技術の基盤の確立に微力をつくす所存でございます。このような主旨をこ理解の上,当財団にご指導,ご協力を賜わりますようお願い申し上げます。


設立年月日 昭和59年4月24日
基金 6億2千万円

役員
理事長
木村 英一 前大阪市立大学学長・名誉教綬

専務理事
橋本 禮造 東亞医用電子株式会社 代表取締役社長

理事
梅垣 健三 元奈良県立医科大学学長・名誉教授
宇都宮 敏男 東京理科大学教授 東京大学名誉教授
中谷 正 東亞医甲電子株式会社 監査役
伊藤 健一 当財団 事務局長

監事
麻植 茂 公認会計士
本田 親彦 公認会計士


評議員
川越 裕也 東大阪市立中央病院 副院長
藤井 克彦 大阪大学名誉教授
斎藤 正男 東京大学医学部教授
山崎 弘郎 東京大学工学部教授
屋形 稔 新旦大学名誉敦授
太田 有郷 東亞医甲電子株式会社 常務取締役
家次 恒 東亞医用電子株式会社 常務取締役


事業の概要
電子計測技術の発展を推進し,産業基盤の確立を図ることにより,わが国経済社会の発展および国民生活の向上に資することを目的として,次の事業を行います。
■電子計測技術分野における技術開発に対する助成
電子計測技術分野における先導的技術開発活動を促進するため,これに助成します。
■電子計測技術分野における技術動向等の調査,研究
電子計測技術分野の実態および種々の問題について調査研究を行い,または,助成します。
■電子計測技術分野における技術交流に関する支援
電子計測技術分野における技術の交流を推進するため,内外の研究者等の交流に対する助成,シンポジウムの開催等を行います。
■電子計測技術分野に関する情報の収集,提供
電子計測技術に関する情報文献,資料等を収集整理し,その広汎な利用を図るための種々の活動を行います。


I 技術開発に関する研究助成事業
 国際経済社会において,貿易収支のアンバランスなどの諸問題により,かつてない大きな転換期に直面している我が国にむいて,自主技術による技術立国が提唱され,かつ先導的技術開発の創出が急がれている。
 このため,当財団にむいては,中核事業として電子計測技術分野における先導的技術開発活動を促進するため,大学及びこれに準ずる研究機関に対して研究助成を昭和59年度から実施してきた。その概要を次に述べる。

1. 助成対象研究の募集
 産業技術の共通的・基盤的技術である電子計測技術は極めて広汎な分野に亘るが,その中で,健康で、明るい人聞社会を築くために重要な役割を果すと考えられる技術開発分野として,理学・工学と医学・生物学の境界領域としての学限的研究である「生体に関する電子計測技術」の進展がますます要請されている。
 かかる状況を勘案し,当財団では対象を次のように定めて,毎年9月末日を締切として助成対象研究を募集してきた。

対象研究課題 生体に関する電子計測技術
助成対象 独創的な研究であって,実用化が期待されるもの。または,実用化のための基盤技術となるもの。

2. 審査委員会
 応募のあった助成研究申請書の内容を,中路幸謙委員長ほか6名の学識経験者からなる審査委員会において,再三にわたる慎重かつ,厳正な審査が行われ,助成対象研究テーマが選ばれた。

3. 研究助成金の贈呈式
 審査委員会の審査を経て選出された大々の研究開発テーマの研究責任者に対して,技術開発研究助成金の贈呈式を毎年,芝浜松町にある世界貿易センタービルにおいて,多数の関係者,来賓を迎えて盛大かつ厳粛樫にとり行われた。
 この際,各研究者より研究内容の概要を発表していただいているが,好評を博している。
 また,研究助成金の贈呈式後,祝賀を合めて,懇親会を開催し,相互に,よろこびと意見の交歓をしあった。

年度 贈呈式年月日 助成件数 助成金総額
昭和59年度 昭和60年2月28日 6件 1,600万円
昭和60年度 昭和61年2月25日 9件 2,100万円
昭和61年度 昭和62年2月27日 9件 2,050万円
昭和62年度 昭和63年2月26日 9件 1,950万円
昭和63年度 平成元年3月10日 8件 1,880万円
平成元年度 平成2年2月23日 10件 2,110万円
平成2年度 平成3年2月22日 10件 2,010万円


第1回(昭和59年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第2回(昭和60年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第3回(昭和61年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第4回(昭和62年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第5回(昭和63年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第6回(平成元年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第7回(平成2年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)


技術開発研究助成金贈呈式の開催状況
(注:写真/PDFに記載)


贈呈書の授与
(注:写真/PDFに記載)


研究計画の発表
(注:写真/PDFに記載)


II 調査研究助成事業
 電子計測技術の振興をはかるため,次の調査研究に助成することとした。

1. 調査研究題目
 生体電子計測技術における可視化・知能化に関する調壺研究

2. 調査研究の目的
 近年,生体計測技術はエレクトロニクスの進展とともに急速に発展し,X線CTを始めとする高度の診断装罹か開発されている。しかしこのような技術をもってしても,まだ生体のもつ構造,機能を十分には計測するには至っていない。非侵襲計測であることか望ましいこと,そして生体は基本的には分布定数系であり,また適応性,非線形性などの複雑な特性か備わっていることか,生体計測を困難にしている。
 生体機能に関する,より高度で精密な計測を志向するとき,対象とする生体システムのメカニズムに関する生理学的あるいは解剖学的な知識を利用することは重要なことである。また,生体には優れたセンシングの機能が備わっており,それらの機能に関する知識を生体計測に適用することも重要であると考える。つまり生体情報処理の仕組みに関する調査研究は高度な生体計測技術を開発するときに重要な示唆を与えると考える。
 一方,工学の分野においては,近年マイクロ化技術,人工知能,信号処理において進展が見られ,これらの技術を利用した生体計測法が開発されつつある。
 この様な観点から,本調査研究では、従来計測が不可能,あるいは困難であった生体量の可視化の技術,およびセンシングと処理における知能化の技術に焦点を当て,工学,基礎医学,臨床医学に従事する研究者からなる調在委員会を設け,これらの技術に関する現状と問題点を調査し,並びにその解決策を検討することを目的とする。すなわち,本調査研究は,理工学,医学の両面から知能化生体電子計測システムの構築における重要課題を探求し,もって電子計測技術の振興を図るための研究助成事業に資することを目的とする。

3. 調査研究の対象
 本調査研究では,生体計測をまず,
1)間接計測:NMR,CT,超音波などの利用
2)モデルによる計測
3)データの処理(伝送,圧縮,診断)
に分類する。
 生体量の可視化に関しては,本調壺研究では,
1)についてはNMRによるPHの計測,超音波による血流および圧の計測など能動的計測技術を用いた2次元または3次元分布情報の定量的計測法,
2)については,筋収縮のパラメータ,循環系,呼吸系における流れのパラメータの推定などのモデル駆動型の計測法,を対象とする。
 一方,センサおよび処理における知能化の技術としては,3)のデータ処理機能か中心となり,異常値や例外値の除去,自動校正機能,自動補償機能,メモリ機能,変更可能な処理アルゴリズムが挙げられ,より高度の知的処理システムとして,人工知能やニューラルネットの応用が考えらる。(最近のトピックスとして走在型トンネル顕微鏡(STM)か挙げられ,これは対象物に電流を流し,表面構造を可視化する超精密インテリジェント能動型センシングシステムである。)例えば,2次元の画像から冠血管の3次元的構造を得るには,構造についての知識を利用した処理が必要であろう。また最近のマイクロ化技術の進展は,センサとプロセノサが一体化された形でのデバイスか現実のものとなりつつある。この技術を生体の微細構造や局所機能の計測に応用した知能化システムも調壺対象とする。
 この他,生体計測に適用可能と考えられる人工知能,ニューラルネノト,データ圧縮などの基礎理論を調査することが心要である。 なお可視化された画像の知的処理についても検討する。さらに医学サイトのニードの把捏は必須のものである。

4. 調査研究委員会の構成(敬称略)
委員長
瀬ロ 靖幸 大阪大学基礎工学部機械工学科 教授

副委員長
赤澤 堅造 神戸大学工学部計測工学科 教授

幹事
千原 国宏 大阪大学基礎工学部制御工学科 助教授

委員(五十音順)
石原 謙 国立大阪病院臨床検査部 医用計測機器研究室長
北村 新三 神戸大学工学部計測工学科 教授
佐藤 俊輔 大阪大学基礎工学部生物工学科 教授
武田 裕 大阪大学医学部医療情報部 助教授
田中 正夫 大阪大学基礎工学部機械工学科 助手
辻岡 克彦 川崎医科大学医用工学教室 助教授
外山 敬介 京都府立医科大学医学部生理学教室 教授
西村 恒彦 国立循環器病センター放射線診療部 主任医長
馬場 一憲 東京大学医学部医用電子研究施設 講師
浜田 隆史 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所
大阪ライフエレクトロニクス研究センター 主任研究官
堀 正二 大阪大学医学部第一内科 講師
湊 小太郎 京都大学医学部附属病院医療情報部 助教授
山ロ 隆美 束海大学開発工学部医用生体工学科 教授
吉村 武晃 神戸大学工学部計測工学科 助教授

5. 調査研究の内容
 本委員会では,生体計測における可視化・知能化に焦点を当てたものであるので,生体・基礎・応用の相互の関連性を踏まえた調査研究を行う。まず,生体については,視覚系,循環器系,運動系における生体の機能とメカニズムの解明に関する調査研究,基礎については,理論(信号処理,人工知能,ニューラルネットなど)と生体材料(知能化材料)の調杏研究,応用については,実際の計測と処理における可視化,マイクロ化,システムなどに関する調査研究である。
 平成2年度においては,各委貝により,それぞれのテーマについて研究内容を発表し,これに関し,医用のニーズ面と,理・エ学のシーズ面から意見を交換し,自由討論を実施した。
 また,次の個別のテーマについて専門家の講演のもと論議を交わした。
(1)循環計測の展望
川崎医科大学医学部教授 梶谷文彦氏
(2)バイオメカニクスにおける計測技術
北海道大学応用電気研究所教授 林紘三郎氏

6. 調査研究期間
平成2年度~平成4年度(計画)


III技術交流に関する事業

1.技術交流助成事業
 電子討測技術を促進するためには,国際化時代に対応して,内外の研究者相互の先端技術の国際的交濯が不可欠てある。このため次のとおり,国際的会議等への出席者に対して助成を行った
 これらの会議等において活溌な技術交流店動が行われだ。

技術交流に関する助成金贈呈者
(注:表/PDFに記載)

2.生体電子計測研究会
 理学,工学と医学,生物学との境界領域にある学際的研究は,医用生体工学をはじめバイオテクノロジー等,広くそのニーズがますます隆まっている。
 このため,かかる分野における共通的,碁盤技術である「生体電f蓋t測技術」に関する研究課題について,関連する専門家の研究者が交流し,ニーズ,シーズに関して討議し,今後の方向等を探求することを目的として,‘り財団内に,生体電子計測研究会を昭和60年12月に設骰した。
 本研究会は、懇談会方式にて年間4回程度開催し、開催にあたっては、医学・生物学と理・工学関係の話題提供者を交互に定めて自由活達に討議を進めてきている。研究会のメンバーは、下記のとおりである。
 以下に研究会の開催状況を示す。

生体電子計測研究会メンバー(50音順:敬省略)
岡井 治 杏林大学 保健学部 臨床生理 教授
小野 哲章 三井記念病院 MEサービス部 部長
川上 憲司 東京慈恵会医科大学 放射線医学教室 助教授
関谷 富男 防衛医科大学校 医用電子工学講座 講師
多氣 昌生 東京都立大学 工学部 電気工学科 助教授
辻 隆之 東京医科歯科大学 医用器材研究所 助教授
土肥 健純 東京大学 工学部 精密機械工学科 教授
舟久保 登 東京都立科学技術大学 電子システム工学科 教授
守谷 哲郎 電子技術総合研究所 材料科学部 光材料研究室 室長
山下 衛 筑波大学 臨床医学系 救急部部長
渡邊 瞭 東京大学 医学部 医用電子研究施設 助教授

生体電子計測研究会開催状況
(注:表/PDFに記載)


昭和63年度(第5回)
技術開発助成研究成果報告

中枢神経損傷による運動筋麻痺患者の機能再建のための計画制御に関する研究
冠動脈疾患の無侵襲的三次元的診断装置の開発
長期生体内連続測定を可能とする植え込み型プドウ糖センサの開発
術中局所心機能評価のための超音波ドプラトラッキング層別壁厚計の開発
手の動作の計測・評価システムに関する研究-3次元空間での手の運動の最適制御問題への応用-
CT画像に基づく人体組織の3次元計測技術の基礎的研究
超音波による生体組織の硬さの画像化に関する研究開発
携帯用の人工心臓駆動装置のための血圧血流量間接計測技術の開発