1987年[ 年報 ] : 年報01号

年報01号

中谷電子計測技術振興財団

概要

目次

設立の趣意
発刊の辞
年報の発刊にあたって
ご挨拶
役員・評議員および事業の概要
I. 技術開発に関する研究助成事業
技術開発研究助成金贈呈式の開催状況
II. 調査研究助成事業
III. 技術交流に関する事業
昭和59年度(第1回)技術開発助成研究成果報告
昭和59・60・61年度技術交流助成成果報告


設立の趣意

 わが国経済社会の高度化は、1970年代以降急速に進展しています。これは、わが国の唯一の資源でもある恵まれた頭脳資源を、十分に活用することで達成されたものです。特にコンピュータを始めとするエレクトロニクス技術の発展が重要な役割を果たしてきました。
 これらのエレクトロニクス技術の発展は、優れた電子計測技術の基盤の確立が無くしてはありえません。今後わが国のエレクトロニクス技術の一層の発展を実現する上で、電子計測技術基盤の一層の強化が大切であります。電子計測機器がエレクトロニクスのマザー・ツールであるといわれる所以でもあります。
政府におかれましても、その重要性を十分認識され、電子計測技術基盤の確立のためいろいろな施策を展開されております。
 このような客観的諸情勢から故中谷太郎初代理事長は、電子計測技術の発展を推進し、産業基盤の確立に貢献することを強く念願され、昭和59年4月に財団法人「中谷電子計測技術振興財団」が設立されました。
 当財団は、技術開発・技術交流の推進、技術動向等の調査研究等を行うことにより、電子計測技術の基盤の確立に微力をつくす所存でございます。このような趣旨をご理解の上、当財団にご指導、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。


発刊の辞

財団法人 中谷電子計測技術振興財団
理事長 木村英一

 財団法人中谷電子計測技術振興財団の年報発刊にあたり,一言ご挨拶申し上げます。
 当財団は,情報時代産業の共通的基礎技術でございます電子計測技術の発展を推進し,社会に貢献することを強く念願されました故中谷太郎初代理事長のご意向により,通商産業省のご指導と,東亜医用電千株式会社をはじめ関係者の方々のご協力を得まして設立された財団で,発足以来 3年の歳月を経るに至りました。
 この間,我が国は,貿易収支のアンバランスによる円高問題をはじめ,激しい貿易摩擦など厳しい国際的環境下にあり,内外共にその打解への対応に迫られてあります。
 今後,国際的協調をはかりつつ我が国の経済社会の発展をはかるためには,重要な方策として,産業構造の変革,知的資源の活用による斬新な先端技術の創出などが要請されております。
 また一方では, 21世紀を目前にして,超高齢化社会への対応を含めて,明るく健康な人間社会の構築が強く望まれております。
 かかる情勢のもとで,電子計測技術の進展のためには例えば,理学・工学や生物学・医学といった従来の学問領域を越えた学際的研究開発の推進が必要でありましょう。
 また,広く国際的視野に立って,研究課題の解明をはかるため,国際的技術交流の促進が急務であります。
 当財団にわきましては,設立以来関係各位のご尽力をいただきまして,電子計測技術に関する先導的技術開発への研究助成,技術交流への支援,調査研究への助成などの諸事業を進めてまいりました。
 お蔭様で,当財団より研究助成金を贈呈いたしました諸先生方のご努力により,「生体に関する電子計測技術」としては,最先端の研究成果が心々とあげられつつあります。
 また,国際会議等で活躍された技術交流実績も着実に集積されてまいりました。
 さらには,将来に向っての課題を探求する調査研究助成事業むよび生体電子計測研究会も活発に推進されつつあります。
 これらの諸成果を核といたしまして,財団の諸事業活動を年報として取りまとめることを企画してまいりましたが,今般,発刊の運びとなりました。
 この年報が電子計測技術に関する情報の一端として,今後の研究開発の進展に,いささかなりとお役に立ちますれば幸甚に存じます。
 おわりに,当財団の運営にご尽力を賜っておられます関係各位に,心から謝意を捧げますとともに,今後ともご指導,ご叱正下さりますようお願い申し上げます。


年報の発刊にあたって

通商産業省機械情報産業局
電子機器課長 本田幸雄

 我が国のエレクトロニクス産業は,コンピュータ,半導体芋を中心として近年急成長を遂げ,今や日本経済の新しいリーデイングインダストリーの一つとして各方面から大きな期待が寄せられているところです。
 しかしながら,我が国の大巾な貿易黒字に対する諸外国からの批判が日増に高まる中で対米を中心とする貿易摩擦は激化の一途をたどり,エレクト口ニケス産業自体が国際協調型の産業に移行していかざるを得ない状況に至っております。
 今後,我が同エレクトロニクス産業が国際的な協調をはかりつつ,産業の高度化を図ってていくためには, 技術基盤の確率、技術の 高度化の推進が不可欠であると言えましょう。
 このような観点から,当省におきましても従来から工業技術院にむいて各種の研究開発を行っておりますが,それに加え,一昨年,基盤技術研究促進七ンターを設立し,また,税制面でも基盤技術研究開発促進税制等を設立し,民間における基盤技術の確率を図るよう環境整備に努めているところでごさいます。
 当財団は,故中谷太郎氏のご意志により,電子計測技術の発展,産業基盤の確率を目的として昭和59年4月に当省の認可法人として設立されたものでありますが,当財団の主要事業であります研究助成事業は,今後の我が国エレクトロニクス産業の技術基盤の確立,高度化になくてはならない計測技術の研究に対する助成事業であり,極めて重要かつ有効な事業であると認識しております。こういったきめ細かな活動が,当省施策と相俟って我が国の技術力の向上,ひいては産業の高度化につながっていくことを私共としましても念願しているところです。
 当財団の助成事業は,現在,生体電子計測の分野に対して行われておりますが,この分野は医療技術の高度化に直接貢献するものであり非常に重要であります 今後生体計測の分野は,より非侵襲のリモート・センシンク技術と,より本質的な生命量計測ができる生化学量計測技術がその発展の中心となると思われますが,先端的エレクトロニクス技術等の工学的シーズと医学的ニーズの有効な結合がその原動力となっていくことを考えますと,当財団の医学分野及び理工学分野への研究助成は誠に有意義なものと考えております。
 この度,このような研究助成を中心とする当財団の各種事業を年報としてまとめられるとのことですが, この年報の中ににまとめられた研究成果等が我が国の電子計測技術の高度化のために大いに役立つことを期待しております。
 終りになりましたが,本年報の作成にあたってこられた各位のご努力に深く敬意を表するとともに,当財団のますますのご発展をお祈りいたしまして,私の挨拶といたします。


ご挨拶

東亞医用電子株式会社
代表取締役社長 川邊洋一

 財団法人中谷電子計測技術振興財同の年報創刊を祝し,一言ご挨拶を申しあげます。
 近来における電子技術の進歩により 今日の著しい産業技術の進展をみるに至りましたが, これらの基盤的技術として電子計測技術が大きな役割りを果してきたと思われます。
 東亞医用電子株式会社は,電子計測技術や流体技術等を駆使して,血球計数装置をはじめ血液等に関する検体検査機器を社会に送り出し,予防,診断の面における健康管理に役立つために努力してまいりました。
 かかる当社の創立者でございます故中谷太郎前社長が,電子計測技術の発展を通して社会に貢献したいと念じまして,通商産業省のご指導と関係者の方々のご尽力を載して,中谷電子計測技術振興財団が設立されましたのは,丁度3年前でございますが,つい昨日の事のように思われます。
 以来,多くの方々のお力に支えられて助成財団としての基礎を固め,関係していただいております諸先生方のご努力によりその成果が実り,今日,関連の諸情報を集大成した年報の発刊をみましたことは,誠にご同慶に堪えない次第でございます。
 この間,内外の諸状勢をみまするに,急速に進んだ円高による諸問題,貿易摩擦の激化など我が国をとりまく経済環境は極めて厳しいものがあり, 21世紀への飛躍を前にして,大きな変革期に直面しているといえましょう。
 かかる中で,電子計測技術の発展のために,独創性を持った先導的技術開発の促進,国際的な技術交流の推進など,特に,学際的な,境界領域分野ヘ助成するという地道な事業を進めることは,今後ますます意義のあることと思われます。
 東亞医用電子といたしましては,諸環境は厳しい状況でございますが,今後共,財団の運営にご支援とご協力を申しあげることにより,電子計測技術の発展を通して,いささかなりと社会にお役に立てば幸甚と存じております。
 おわりに,関係者各位のご尽力に感謝いたしますとともに,ますますのご発展を祈念いたします。


設立年月日 昭和59年4月24日
基金 6億2千万円

役員
理事長
木村 英一 前大阪市立大学学長・名誉教綬

専務理事
川遷 洋一 東亞医用電子株式会社 代表取締役社長

理事
菅田 榮治 大阪電気通信大学理事長・名誉教授 大阪大学名誉教綬
梅垣 健三 星ガ丘厚生年金病院院長 前奈良県立医科大学学長・名誉教授
宇都宮 敏男 東京理科大学教授 東京大学名誉教授
中谷 正 東亞特殊電機(株) 経営企画室・東亞医用電子(株) 監査役
伊藤 健一 当財団事務局長

監事
麻植 茂 公認会計士
本田 親彦 公認会計士


評議員
川越 裕也 国立大阪病院第二内科医長
藤井 克彦 大阪大学工学部長
斎藤 正男 東京大学医学部教授
山崎 弘郎 東京大学工学部教授
橋本 糟造 東亞医用電子株式会社 専務取締役
三木 十三郎 東亞医用電子株式会社 常務取締役


事業の概要
電子計測技術の発展を推進し,産業基盤の確立を図ることにより,わが国経済社会の発展および国民生活の向上に資することを目的として,次の事業を行います。
■電子計測技術分野における技術開発に対する助成
電子計測技術分野における先導的技術開発活動を促進するため,これに助成します。
■電子計測技術分野における技術動向等の調査,研究
電子計測技術分野の実態および種々の問題について調査研究を行い,または,助成します。
■電子計測技術分野における技術交流に関する支援
電子計測技術分野における技術の交流を推進するため,内外の研究者等の交流に対する助成,シンポジウムの開催等を行います。
■電子計測技術分野に関する情報の収集,提供
電子計測技術に関する情報文献,資料等を収集整理し,その広汎な利用を図るための種々の活動を行います。


I 技術開発に関する研究助成事業
 国際経済社会において,貿易収支のアンバランスなどの諸問題により,かつてない大きな転換期に直面している我が国にむいて,自主技術による技術立国が提唱され,かつ先導的技術開発の創出が急がれている。
 このため,当財団にむいては,中核事業として電子計測技術分野における先導的技術開発活動を促進するため,大学及びこれに準ずる研究機関に対して研究助成を昭和59年度から実施してきた。その概要を次に述べる。

1. 助成対象研究の募集
 産業技術の共通的・基盤的技術である電子計測技術は極めて広汎な分野に亘るが,その中で,健康で、明るい人聞社会を築くために重要な役割を果すと考えられる技術開発分野として,理学・工学と医学・生物学の境界領域としての学限的研究である「生体に関する電子計測技術」の進展がますます要請されている。
 かかる状況を勘案し,当財団では対象を次のように定めて,毎年9月末日を締切として助成対象研究を募集してきた。

対象研究課題 生体に関する電子計測技術
助成対象 独創的な研究であって,実用化が期待されるもの。または,実用化のための基盤技術となるもの。

2. 審査委員会
 応募のあった助成研究申請書の内容を,中路幸謙委員長ほか6名の学識経験者からなる審査委員会において,再三にわたる慎重かつ,厳正な審査が行われ,助成対象研究テーマが選ばれた。

3. 研究助成金の贈呈式
 審査委員会の審査を経て選出された大々の研究開発テーマの研究責任者に対して,技術開発研究助成金の贈呈式を毎年,芝浜松町にある世界貿易センタービルにおいて,多数の関係者,来賓を迎えて盛大かつ厳粛樫にとり行われた。
 この際,各研究者より研究内容の概要を発表していただいているが,好評を博している。
 また,研究助成金の贈呈式後,祝賀を合めて,懇親会を開催し,相互に,よろこびと意見の交歓をしあった。

年度 贈呈式年月日 助成件数 助成金総額
昭和59年度 昭和60年2月28日 6件 1,600万円
昭和60年度 昭和61年2月25日 9件 2,100万円
昭和61年度 昭和62年2月27日 9件 2,050万円


第1回(昭和59年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第2回(昭和60年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)

第3回(昭和61年度)技術開発研究助成対象研究
(注:表/PDFに記載)


技術開発研究助成金贈呈式の開催状況
(注:写真/PDFに記載)


II 調査研究助成事業

1. 調査研究の目的
 広範囲な分野で進展が期待されている生体に関する電子計測技術について調査研究し,解決が望まれている研究開発課題を抽出するとともに研究開発の今後の方向を展望し,電子計測技術の振興をはかるための研究助成事業に資することを目的とする。

2. 調査研究の対象
 生体計測における電子技術の応用は,コンピュータ画像処理などの分野では非常に進んでいるが,日常の健康管理や慢性疾患患者の長期管理などの分野にはあまり例をみない。しかし,将来を考えると,疾病の予防と日常の健康の管理が重要となることは明らかであり,そのために電千計測技術が導入されることが望ましいと考えられる。
 また,従来の生体計測技術のほとんどは,病院などの特定の医療施設にむいてのみ使用できるものであったが,疾病の予防や健康管理のためには医療施設外の日常生活にむける生体情報の計測が必要となると考えられる。
 以上のことから,疾病予防および健康管理を目的とした医療施設外を中心とした生体電子計測技術に関する調査研究を対象として助成することとした。

3. 調査研究委員会の構成
 東京医科歯科大学の戸川教授を委員長として 10人の調査研究委員会の委員構成で調査研究を実施している。

4. 調査研究の期間
 昭和61年度,昭和62年度の 2年間に亘って調査研究し, 62年度に調査研究報告書をとりまとめることとしている。

5. 調査研究の内容
(1) 関連する分野ごとに検索文献を整理し,重要文献を選択して委員会で検討する。
61年度は,心電図,循環動態,呼吸,神経・筋,その他の関連分野に分けて目的・対象,方法について委員により分担して重要文献を選択し検討した。
(2) 分野ごとに将来のニーズとシーズの可能性をまとめ,委員会で検討する。
61年度は委員聞でニーズとシーズに関する意見を交換するとともに,高齢化時代をふまえて老人家庭看護について,東京都老人総合研究所の鎌田ケイ子氏の講演のもとに論議を交わした。


調査研究委員会 委員名簿
〔敬称略〕
委員長
戸川 達男 東京医科歯科大学 医用器材研究所 教授

委員
浅野 茂隆 東京大学医科学研究所 病態薬理研究部 助教授
岡井 治 杏林大学保健宇部 臨床生理 教授
小野 哲章 三井記念病院 MEサービス部 技師長
川上 憲司 東京慈恵会医科大学 放射線医学教室 助教授
清水 信 東京慈恵会医科大学 精神神経科 助教授
辻 隆之 東主医科歯科大学 医用器材研究所 助教授
土肥 健純 東京大手・工学部 精密機械工学科 助教授
舟久保 登 東京都立科学技術大学 管理工学科 教授
渡邊 瞭 東京大学 医学部 医用電子研究施設 助教授


III 技術交流に関する事業
1. 技術交流助成事業
 電子計測技術を促進するためには,国際化時代に対応して,内外の研究者相互の先端技術の国際的交流が不可欠である。このため次のとおり,国際的会議等への出席者に対して助成を行った。
 これらの会議等において活撥な技術交流活動が行われた。

技術交流に関する助成金贈呈者
(注:表/PDFに記載)

2. 生体電子計測研究会
 理学,工学と医学,生物学との境界領域にある学際的研究は,医用生体工学をはじめバイオテクノロジー等,広くそのニーズがますます隆まっている。
 このため,かかる分野における共通的,基盤技術である「生体電子計測技術」に関する研究課題について,関連する専門家の研究者が交流し,ニーズ,シーズに関して討議し,今後の方向等を探求することを目的として,当財団内に,生体電子計測研究会を昭和60年12月に設置した。
 本研究会は、東京大学医学部の斎藤正男教授のご指導を得て,懇談会方式にて年間4回程度開催し、開催にあたっては、医学・生物学と理・工学関係の話題提供者を交互に定めて自由活達に討議を進めてきている。研究会のメンバーは、下記のとおり12名である。
 以下に研究会の開催状況を示す。

生体電子計測研究会メンバー (50音順:敬称略)
岡井 治 杏林大学保健宇部 臨床生理 教授
小野 哲章 三井記念病院 MEサービス部 技師長
川上 憲司 東京慈恵会医科大学 放射線医学教室 助教授
多氣 昌生 東京都立大学 工学部 電気工学科 助教授
関谷 富男 防衛医科大学校 医用電子工学講座 講師
辻 隆之 東主医科歯科大学 医用器材研究所 助教授
土肥 健純 東京大手・工学部 精密機械工学科 助教授
西村 正信 土浦協同病院 消化器内科 医長
舟久保 登 東京都立科学技術大学 管理工学科 教授
守谷 哲郎 電子技術総合研究所 材料部 材料物性研究室 主任研究官
山下 衛 筑波大楽 臨床医学系 麻酔グループ 助教授
渡邊 瞭 東京大学 医学部 医用電子研究施設 助教授

生体電子計測研究会開催状況
(注:表/PDFに記載)


昭和 59年度(第1回)
技術開発助成研究成果報告

眼底の定量立体計測法の開発に関する研究
臨床医学分野における電子計測技術に関する基礎的研究
TV画像処理による血小板凝集反応の数値解析
オプトエレクトロニクスを活用した活動電位の光学的超多部位同時測定装置の研究開発
光IC技術を用いたファイパ血流速度計測システムの小型化に関する研究
Walsh変換による 64チャンネル高周波超音波パルスドプラ血流速信号の実時間計測処用システムの開発とその応用