2016年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報第30号

平成27年度技術交流助成成果報告(海外派遣)・荒船 拓也

研究責任者

荒船 拓也

所属:群馬大学大学院 理工学府 電子情報・数理教育プログラム 博士前期課程 1 年

概要

1)会議又は集会の概要

ASICON は 1994 年から開催され、2 年に一度の頻度で開催される IEEE 主催の国際会議です。今年の本学会における論文採択件数は 126 件(採択率 31.0%)でポスター採択件数は 147 件(採択率 33.6%)でした(全投稿件数:426 件)。学会名である ASICON はAdvanced Semiconductor Integrated Circuits の頭文字をとって ASIC です。この学会名は集積回路のすべての技術分野をカバーしているという意味が込められています。その名の通り、学会の扱う分野は広く、画像・音響プ

ロセスからモデリングまで多岐にわたっており、その分野の広さは他の国際学会でも類を見ない学会で

す。本学会の講演分類は Tutorial Session, Keynote Session, Parallel Session(今回私が発表したセッション), Poster Session の 4 種類のセッションで構成されています。Tutorial Session は学会初日に行われ、6 つのトピックに分かれています。トピック毎の専門家による貴重な講演を聴くことができます。Keynote Session では著名な先生方からの最先端技術やその市場動向に関する講演が行われました。Parallel Session は後 3 日間(1 日当たり 40 件程)で行われました。Poster Session は全採択件数の

147 件を、2 日間(1 日当たり 70 件程)に分かれて行われました。

 

2)会議の研究テーマとその討論内容

【研究テーマ】

① “Fibonacci Sequence Weighted SAR ADC Algorithm and its DAC Topology“

Takuya Arafune, Yutaro Kobayashi, Shohei Shibuya, Haruo Kobayashi

② “Selectable Notch Frequency of EMI Spread Spectrum using Pulse Modulation in Switching Converter”

Yasunori Kobori, Takuya Arafune, Nobukazu Tsukiji, Nobukazu Takai, Haruo Kobayashi

 

 

【討論内容】

(注:写真/PDFに記載)
発表時の様子

① 近年高分解能・中速サンプリングで且つオペアンプ不要の ADC として自動車・ファクトリーオートメーション等広くの分野で逐次比較近似

(SAR)ADC)が用いられています。この ADC の高速化・高信頼性化実現のためにて、冗長設計という設計があります。その冗長設計にフィボナッチ数列を適用しました。従来設計と提案設計とを比較したとき、提案設計が高速・高信頼性であることを確認し、この設計法の有効性を示しました。さらに、フィボナッチ冗長設計SAR ADC の実現に必要なフィボナッチ DAC の回路トポロジーを検討しました。既存の回路をわずかに変更するだけで小規模且つ簡単に実現でき、従来の問題点を克服した回路です。この提案回路の動作をシミュレーションにより確認しました。

② 近年スイッチング電源におけるスイッチの高速化に伴い、電磁波障害(EMI)が問題視されています。その低減法としてスペクトラム拡散方式はコスト・回路規模の面で優れており、現在注目を浴びています。この方式にデジタルパルス変調を用いることで、ノッチ特性を持たせたスペクトラム拡散方式を提案しました。数値計算ソフトによるノッチ特性の発生条件を検討しました。発生条件より、パルス幅変調・パルス周期変調の 2 種類のデジタル変調方式を提案し、各方式のデジタル変調回路を考案しました。これらの回路をスイッチング電源に適用し、EMI の最大ノイズの低減を確認すると同時に電源の性能やノッチ特性を検討しました。

 

 

3)出席した成果

Keynote Session の講演内容は近年注目を集めているIoT (Internet of Things)に関連するテーマが多かったです。クラウドやビックデータ等の言葉は最近よく耳にするようになりましたが、世界的に見ても IoT はますます注目を浴びていくと感じました。多くの情報やデータが必要な医療分野にこそビックデータによる解析が必要になってくると思います。また、FinFET というキーワードが気になったので帰国してから調べてみました。

FinFET(マルチゲート素子)とは、半導体素子である

MOSFET の新たな方式の 1 つであり、単一のチャンネルに対して複数のゲートを持つ構成の MOSFET です。

(注:写真/PDFに記載)
Poster Session 会場の様子

 

小型で且つ低消費電力が特徴の素子であり、次世代の半導体として期待されている技術の 1 つです。Keynote Session では世界で注目を浴びている最先端技術に触れ合うことができました。Poster Session では自分の研究テーマである ADC のポスターを見ました。近年注目を浴びている SAR ADC のポスターが多く、やはり世界的に見ても SAR ADC の研究は盛んであると改めて実感できました。Parallel Session では英語での発表ということもあり、口頭で伝えるよりも絵で見せる発表、積極的にレーザーポインタを使用する発表を心がけました。そのためか拙い英語での発表にも関わらず、たくさんの質問をいただくことができ、内容を伝え興味を引き出すような発表ができたようです。初めての国際学会でこのような発表ができたことは今後の自信に繋がるはずです。国際学会ということもあり、TEG チップを作成し、その測定結果まで載せている発表が多く見られました。自分の研究に関しても実装はしたのかという質問を受け、世界の研究者と競っていくためにも実装を視野に入れた研究をしていく必要があると感じました。それと同時に英語が流暢に話せる学生が大半で、自分の英語能力の低さに落胆しました。「机上の空論」という言葉がありますが、まさに本だけでの勉強では全く対応できませんでした。現在グローバル化が進んでいるこの世の中で国外に出て仕事をすることは多々あるでしょう。そのときのために今後は英語の勉強にも従事すべきだと感じることができました。同研究室の留学生と交流を増やし、英語で会話する機会を増やし、実践的な英語力を身につけていきたいと思います。

 

4)その他

学会の最終日には Banquet が開催され、中国の伝統文化や伝統劇が披露されました。その中に中国の四川省伝統劇である川劇という劇がありました。この劇の特徴は顔につけた面が一瞬で変化する「変臉(へんれん)」という技巧を駆使することで鑑賞者を魅了します。この技巧は「一子相伝」の「秘伝」で、第 1 級国家秘密でトリックは公開されていません。

(注:写真/PDFに記載)
川劇(中国四川省伝統劇)