2016年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報第30号

平成27年度技術交流助成成果報告(海外派遣)・真鍋 正伸

研究責任者

真鍋 正伸

所属:大阪大学大学院 工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 博士後期課程3年

概要

1)会議又は集会の概要

Young Researchers Boron Neutron Capture Therapy Meeting とは、ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy :BNCT)を研究している若手研究者の為の国際会議のことである。本会議では、世界各国の研究機関や大学などで医学、工学、薬学などの BNCT を研究している若手研究者が一同に集まり、各々の最新の研究成果について発表・議論が行われた。

今回で 8 回目の開催であり、イタリア北東部に位置するパビアで行われ、8 つのトピックスについて約100 件(口頭発表は約 60 件、ポスター発表は約 40 件)の発表がなされた。トピックの内容は、物理、化学、医学などの学術的内容から臨床報告や治療施設計画などの実務的内容まで幅広い研究発表・議論を行い、情報交換の実施及び交流を深めることができた。

 

2)会議の研究テーマとその討論内容

本会議で報告者は、「GAGG シンチレータを用いた BNCT-SPECT の実現可能性の調査」という研究テーマで、口頭発表を行った。BNCT とは、熱中性子もしくは熱外中性子とホウ素(10B)の核反応によって放出されるα粒子とリチウム粒子(7Li)により腫瘍細胞を死滅させる放射線治療法である。この治療法の最大の利点は、ホウ素化合物を正常細胞よりも腫瘍細胞により多く取り込ませることができる薬が開発されていること、そして、α粒子と 7Li の飛程が極めて短く細胞の同程度でいうこともあり、他の放射線治療と比べて、より正常細胞を傷つけずに腫瘍細胞を死滅させることができることである。

しかし、BNCT にはいくつかの未解決問題があり、その中の 1 つに治療効果をリアルタイムで知ることができないことがある。この問題を解決するため、10B(n,α)7Li 反応による 7Li(約 94%が励起状態)から放出される 478keV のγ線を計測し、(n,α)反応分布を測定する装置(BNCT-SPECT)の開発を進めている。BNCT-SPECT のγ線検出器として、検出効率が高く、エネルギー分解能が優れる

CdTe 検出器を選択し、研究を続けてきたが、CdTe 検出器で BNCT-SPECT を製作すると莫大なコストを掛けなければいけないことがわかった。そこで近年、開発されたシンチレータである GAGG(Ce:Gd3Al2Ga3O12)結晶に注目した。GAGG 結晶は、CdTe 結晶よりも低コストでγ線検出器が製作でき、同性能かつ潮解性が無いため選定し、BNCT-SPECT の実験可能性の調査を行った。

まず、標準ガンマ線源を使い、GAGG 結晶のエネルギー分解能と検出効率の測定を行った。BNCT-SPECT に必要なエネルギー分解能は、478keV と消滅γ線の 511keV の差(511-478=33keV) であり、ほぼ達成することを確認した。また、検出効率の測定では、現状、製造可能な最大の大きさで製作した CdTe 検出器と同程度の検出効率を持つγ線検出器を設計できることを確認した。

次に、GAGG 結晶に含まれている Gd による影響を調査した。Gd は、熱中性子もしくは熱外中性子と反応して多数のγ線を放出されることが知られている。そのため、実際の治療体系を模擬し、シミュレーションを行った。その結果、Gd によるγ線の影響は小さいことを確認した。理由は、Gd の組成比が小さく、かつ、(n,γ)反応の断面積が大きい 155Gd と 157Gd の同位体比が小さいためであることがわかった。

 

3)出席した成果

発表後は、報告者と同様な研究をしている研究者達と活発な質疑応答が行った。そのおかげで、日本、台湾の研究者と連絡を交換することができ、今後の研究を進むうえで、重要な関係性を築くことができたことは大きな成果である。

今後の展望としては、実際の現場で使用する BNCT-SPECT 用アレイ型 GAGG 検出器の設計を進める予定である。

今回の海外渡航のおかげで、多くの経験ができ、今後の人生において大変意義のあるものになると確信している。これもひとえに貴財団の援助によるものであり、心より感謝申し上げる次第である。

 

4)その他

(注:写真/PDFに記載)

上記写真は、8YBNCT の会議場の写真である。会議は、Almo Collegio Borromeo の会議室で行われた。Almo Collegio Borromeo とは、1591 年に建設された学生寮である。写真を見ればわかるように、学生寮の会議室が豪華絢爛であり、初めて見たとき、壁画の迫力にとても驚いた。

 

(注:写真/PDFに記載)

会議日程終了後、パビアに設置されている研究用原子炉を見学した。この研究原子炉は、BNCT の治験を数件行ったことがあり(現在は行っていない)、治験に携わった研究者から、当時の治療状況について説明を聞くことができた。とてもよい勉強になった。

また、原子炉が稼働中の際に発生するチェレンコフ光(荷電粒子が物質中を移動する速度が、その物質における光速度より速い場合、荷電粒子によって物質を構成する原子が励起する。その励起した原子が基底状態に戻る際に放出する光のこと)も見ることができた。(上記写真の青白い光がチェレンコフ光である。)