2016年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報第30号

平成27年度技術交流助成成果報告(海外派遣)・濱口 卓也

研究責任者

濱口 卓也

所属:慶應義塾大学 医学部 漢方医学センター 助教

概要

1)会議又は集会の概要

第 11 回国際代替医療研究会(ICIMH: International Congress on Integrative Medicine and Health) は、ACIMH(Academic Consortium for Integrative Medicine and Health)によって開催されました。世界各国からおよそ 800 人の研究者が集結し討論を繰り広げました。

 

2)会議の研究テーマとその討論内容

国際代替医療研究会では、鍼灸、生薬治療(中医学・韓医学・漢方)、整体、瞑想、ヨガ、認知行動療法など、代替医療に関する幅広い研究に触れることが出来ました。今回は開催国がアメリカということもあり、特に鍼に関する研究発表が多く見られました。様々な代替医療がありますが優劣があるわけではなく、患者さんの視点に立てば主訴を改善できる治療はどれも素晴らしいという考え方で、参加した研究者はお互いを尊重し合って意見を交換しました。

 

3)出席した成果

私達は「抑肝散加陳皮半夏による意欲低下改善の可能性」という演題でポスター発表を行いました。

C57BL/6J マウスを抑肝散加陳皮半夏の投与群と非投与群とに分け、レバー押し課題を用いて意欲評価を行った基礎実験です。意欲低下はアルツハイマー症の約 60%に見られますが、未だ有効な治療法は確立されていません。アメリカの研究者との討論においても、意欲低下に対する新たな治療法の模索は、重要な研究課題であることを再確認することができました。

同じく生薬治療の基礎研究に関して、ドイツの Charite 大学より興味深い発表がされていました。小児 Ewing 肉腫に対して、桑寄生(Viscum album L.)抽出物とトリテルペン抽出物とを組み合わせると、細胞レベルでアポトーシスを誘導する効果が高まり、またマウスに異種移植した Ewing 肉腫においても有意な抗腫瘍効果を示したという報告でした。その機序の証明にトランスクリプトーム解析や RNA シークエンシング解析、ウエスタンブロット解析といった手法を組み合わせ、桑寄生抽出物とトリテルペン抽出物が claspin や Bcl-2 の発現抑制を介してアポトーシスを誘導し、抗腫瘍効果を示していることを明らかにしていました。私達は漢方薬治療の有効性をマウスレベルで検討していますが、彼らの研究手法を参考に、その機序に関して更なる検討を加えたいと思いました。

また、カリフォルニア大学アーバイン校の研究者から、糖尿病患者に意欲的動機付けをする質問をすることで糖尿病の治療目標を達成する割合を高めることが出来た、という研究内容を紹介して頂きました。意欲に関して未だ明らかになっていない点は多く、今後も基礎研究と臨床研究の両面からさらなるアプローチが必要であると実感できました。

 

4)その他

アジア圏では、中国から約 34 人、韓国から約 22 人の参加であったのに対し、日本からの参加は約 8

人と非常にわずかでした。私たちの教室からは 3 人が参加しましたが、もっとより多くの日本の研究者が、我が国の伝統医学である漢方を世界に発信していく必要があると思いました。今回、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団より助成金を頂戴し、世界最大の代替医療の国際学会で漢方を世界に発信する機会を頂けたことは、私にとって大変大きな経験となりました。誠にありがとうございました。

(注:写真/PDFに記載)ポスター発表

(注:写真/PDFに記載)総会(代替医療の今後の展望についての討論)