2016年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報第30号

平成27年度技術交流助成成果報告(海外派遣)・槇田 諭

研究責任者

槇田 諭

所属:佐世保工業高等専門学校 電子制御工学科 講師

概要

1)会議又は集会の概要

本研究集会は国際バイオメカニクス学会の主催で 2 年毎に開催される国際会議で、当該分野では最大規模です。対象となる分野は「バイオメカニクス」「運動解析」「身体構造」「義肢・装具」「医療・歯科・外科」「リハビリテーション」「スポーツ」など、人間の身体やその運動機能に関する領域の広範囲にわたります。

本研究集会は国内外から多くの研究者が参集しますが、特徴的なのは医学・工学・体育学などさまざまな専門領域をもつ先端の研究者が研究発表・議論することです。このような学際領域を扱う研究集会では既存の枠にとらわれない多様な視点による研究多様性の発展が期待できます。

本年度は 638 件の口頭発表と 401 件のポスター発表がなされました。1 日間のチュートリアルおよびシンポジウムと、4 日間にわたるテクニカルセッションが開催され、毎時刻 8 セッションが並列進行しました。

 

2)会議の研究テーマとその討論内容

会議全体で扱うテーマは多岐にわたり、身体組織の機械的性質などの生理学領域、運動解析などの体育学領域、リハビリテーション、外科などの医学領域、コンピュータ・シミュレーションなどの情報学領域など、とても学際的で多様性があります。その中でも私の発表は Musculoskeletal(筋骨格)を主とするセッションで行いました。これは筋肉、靭帯、腱、骨などの機械的性質やその運動・力の発揮メカニズムを明らかにしようとするものです。

私の発表はそのようにして発揮される運動や力の大きさを、外部から簡単に計測可能な指関節角度をパラメータとして推定しようとするものです。このとき、その身体内部の筋腱構造に基づいた力・運動発揮メカニズムをモデル化し、計測からその妥当性を評価しました。本セッションでも多くの研究報告がなされたように、このメカニズムは超音波診断装置などを用いないと詳細な解析は難しいのですが、スポーツ・コーチングへの応用を考えると、そこまでの解析は必要なく、むしろ関節角度などのわかりやすい指標のほうが有効であると考えました。

本研究発表に対しては当該分野の牽引的な研究者から「指先の発揮力は結局、何に由来しているのか。筋、腱、靭帯はどの程度調べているのか。」「受動的な力を受ける条件下であるというが、そのときの筋活動を表面筋電位の計測から調べているのか。」「筋腱の過剰なけん引については考慮しているか。」といった質問、コメントを受けました。

まず、指先発揮力の原因についてどの程度調べているのか、という質問に対しては、現状では調べていないと回答しました。前述のとおり、超音波画像診断装置や CT、MRI などの装置を用いなければ生体内を調べることはできません。または解剖学的に調査をする必要があります。しかしながら、未検証である本計測結果に対して特別な異議が挙げられなかったことから、提案する近似に基づく計測・推定手法は妥当なアプローチであると考えられます。

受動的な条件下かどうか判断するために筋活動を調べているのかという質問については、簡易に計測して確認していると回答しました。筋腱は双方が互いに作用しますが、筋のみが能動的に作用できます。したがってこの質問は重要で、今後の計測手法の発展においても当然、考慮しなければならない事項です。

筋腱の過剰なけん引については考慮しているか、という質問に対しては、考慮できていないと回答しました。これについても前述のとおり、生体内の観察をしない限り、過剰にけん引されているか判断がつかないためです。しかし、この状態と本手法で提案する関節角度計測からの推定を関連付けることで、関節角度からこの過剰なけん引状態を予測することができると考えます。これによって、過負荷によるケガの予防も可能になるのではないかと期待できます。

 

3)出席した成果

私たちの提案したモデルは、スポーツ動作時に容易に観察できない生体内の筋腱の動態を簡単な計測から推定できるように、筋腱モデルの近似から計測方法と計測対象をシンプルにしています。それに対して生理学的にしっかりと検証したほうがよいという意見ですので、本手法のさらなる発展を期待するものであると感じられますし、前向きに捉えて反映させる価値の高いものです。なぜなら、提案する簡便な手法が生理学的に裏付けられれば、本手法の科学的な妥当性とその有用性を高めることができるからです。他の出席者による研究報告ではこういったアプローチが多く見られたこともあり、本研究分野の基本姿勢かつトレンドであると考えます。このような研究の潮流を知ることができたことも出席した成果といえます。

関節角度計測に適用した手法の医工計測技術としての今後の発展性について、会議への参加を通しての考えをまとめます。本手法は単なる計測結果だけを示したものでなく、そこに生理学的な正しさを付与するためにその近似モデルを当てはめたものです。外界から比較的容易に計測可能な指の関節角度を計測対象としているので、さまざまな動作中でも計測できる有用性があります。厳密な意味での生理学的な正しさは未検証ですが、当該分野の一線の研究者らからアドバイスをもらえたとおり、これは検証可能であり、かつ妥当な結果が得られるものと考えています。このように、生理学的な現象を工学的に有用なモデルに落としこむアプローチは手指のみならず他部位についても応用可能なので、本手法は医工計測技術としてさらなる発展が見込めると考えます。

 

4)その他

本会議に参加し、国内外の多くの研究者と交流をもつことができました。特に、日本国内からの出席者で本会議の扱う領域に詳しい方々と連絡を取り合えるようになったことは本会議に出席した大きな収穫であったといえます。本領域での研究歴の浅い私にとって、これまでと現在の研究の変遷や主流な手法を知ることや、今後の研究遂行上の議論や必要な設備などの面で協力を求められることは、研究遂行上、大変心強いものです。

末筆となりましたが、本国際会議への出席に際して助成いただいた中谷医工計測技術振興財団の皆様に感謝を申し上げます。

 

(注:写真/PDFに記載)
会議場前にて

(注:写真/PDFに記載)

発表時の様子