2016年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報第30号

平成27年度技術交流助成成果報告(海外派遣)・森山 敏文

研究責任者

森山 敏文

所属:長崎大学大学院 工学研究科 電気・情報科学部門 准教授

概要

1)会議又は集会の概要

PIERS は、電波、光波、マイクロ波回路、プラズマなどの電磁気に関する国際学会である。2014 年は中国・広州、2013 年はスウェーデン・ストックホルムと台湾と世界各地で開催され、2015 年はチェコ共和国・プラハで開催された。プラハでの発表件数は、オーラルの発表件数は約 1000 件、ポスター発表が約 500 件であった。この数字から、PIERS はこの分野において非常に規模の大きい国際学会である。近年では、電磁界理論、光学等材料、光学、アンテナとマイクロ波、リモートセンシングや逆問題などの 5 つのトピックについて独自にフォーカスセッションを企画している。そのセッションでは、最近の注目される研究成果等を積極的に発表できるようにして、第一線の研究者が招待講演を行い、学会の質の維持や発表者数の向上に繋げようとしている。よって、研究者にとって非常に有用な学会である。また、PIERS は、日本からの発表者も多い国際学会である。

 

2)会議の研究テーマとその討論内容

近年の PIERS では、逆散乱問題に関するセッションが多数開かれている。その応用の一つとして非破壊検査があり、その中でアメリカやヨーロッパの研究者による医療に関する発表が積極的に行われている。今回の PIERS でも、乳がんの検出に関する発表が多く行われ、理論や実験と様々なアプローチでの研究成果が発表されていた。例えば、乳がんの検出に X 線マンモグラフィ―が利用されるが、放射線被ばくの問題がある。しかし、マイクロ波は乳房を透過するが、被爆の問題が起こらない。そして、透過したマイクロ波は乳房内の構造と乳がんに関する情報を持っており、X 線マンモグラフィの変わりにマイクロ波による逆散乱問題で乳がん検出の可能性がある。その中で、私は、逆散乱問題に関する特別セッションの“Inverse Scattering Methods and Applications for NDE(非破壊検査のための逆散乱問題と応用)”で発表を行った。この発表では、将来乳がん検出に利用できる技術であるマイクロ波の散乱波を基に媒質内のターゲットを比誘電率と導電率の電気定数パラメータで画像化する方法について報 告した。しかし、従来方法では、1)大きな計算機資源を必要とするアンテナを考慮した電磁界計算、

2)電界と磁界の両方の観測、3)遺伝的アルゴリズムによる長い再構成の計算時間、などの問題があった。そこで、本発表では、これらの問題を等価境界値問題と勾配法を用いて解決することを試みた。その結果、複雑なアンテナ構造を計算に考慮せず、且つ精度は維持したまま電磁界を計算できるようになった。また、電界のみの観測で計測の簡略化、勾配法を利用することにより計算時間の短縮も行えたことなどを報告した。質問時間では、

A)発表で比誘電率の再構成のみを報告したが、導電率の再構成は出来るか?

⇒導電率の計算法は導出済みであり、今後に計算を行うだけある。

B)観測時間をどのように決定しているのか?

⇒計測器で得た観測波形を見て決定する。

C)使用している計算方法は時間が掛かるのでは?

⇒計算時間が特別掛かることは無い。

などの質問と回答を行った。今後の研究課題は、電界を正確に計測する方法を検討することである。そための、電界計測用のプローブについての検討を行っていく予定である。

 

3)出席した成果

今回の発表するセッションでは、小さめの部屋ではあったがほぼ席が埋まり、大変盛況であった。その中で、私の発表で逆問題の著名な研究者であるスウェーデンの Mats Gustufsson 教授やイタリアのTommaso Isernia 教授から、提案方法に期待しているとのコメントを頂いた。また、セッション中に質問は余り出なかったが、私の発表では他の方々から原理と計測、計算方法に関する三つの質問があり、セッション終了後も話を聞きにくる方がおり、多くの方に興味を持って頂いた。今後は、測定方法を確立し、乳がん検出に向けて研究を進める励みになった。

また、自分が発表したセッションでは、スウェーデンの王立工科大学の Martin Norgren 教授と司会者もさせて頂いた。英語は余り得意ではなかったが、司会として発表の進行や質問・コメントなどの取り纏めなど行った。今回の学会では、本当に貴重な機会を与えて頂いた。

 

4)その他

今回の開催地のプラハは、私が好きなスメタナのクラシック曲のタイトルになっているモルダウ川(実際のチェコ語でヴルタヴァ川)が流れている場所であり、以前から訪問したい場所であった。プラハ空港に着陸したときは、チェコ航空の飛行機だったためモルダウの曲が流れ、つい嬉しくなってしまった。町並みは非常に綺麗で、チェコビールも大変美味しかった。今回は、財団による技術交流助成を頂いたおかげで、発表とプラハ訪問の二つが同時にできて、非常に幸運であった。可能なら、プラハに再度訪問したいものである。

(注:写真/PDFに記載)

モルダウ川の写真

(注:写真/PDFに記載)

チェコビールを楽しんでいる写真(左:森山)