2016年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報第30号

平成27年度技術交流助成成果報告(海外派遣)・大西 航

研究責任者

大西 航

所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻学 修士1年

概要

1)会議又は集会の概要

International Conference on Micro Electro Mechanical Systems 国際会議は、1987 年に第 1 回が行われて以来、今年で第 29 回を迎える国際会議である。この国際会議は MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) 分野において最も規模の大きい学会であり、センサ・アクチュエータ・マイクロシステムといった幅広い研究が発表されている。近年は 700 人以上の参加者を迎え、研究発表と意見交換のための非常に良い場となっている。さらに、会議の採択率は約 3 割であり、口頭発表はシングルセッションで行われる。そのため、この国際会議では質の非常に高い最先端の研究を網羅的に見聞することができる。

 

2)会議の研究テーマとその討論内容

本国際会議ではMEMS センサやアクチュエータ等デバイス自体に関する研究発表はもちろんのこと、幅広いジャンルのアプリケーションの研究発表も行われる。その関連分野はバイオ、医療関連、電磁気、微小領域における流体力学など多岐に渡る。

自身は Physical Sensors の Force and Displacement Sensors の部門に投稿した。センサに応用可能な技術ということで力学センサの部門に投稿しているが、本研究は基礎的な研究であり原子間力顕微鏡をはじめとする機器のプローブなどにも応用可能であると考えている。

 

3)出席した成果

  • 自身の発表内容


【題名】Cantilever With 10-Fold Tunable Spring Constant Using Lorentz Force

(ローレンツ力を用いたばね定数 10 倍可変の持ち梁)

【概要】

近年、センサの小型化、高感度化などにより MEMS 力センサや差圧センサ等を睡眠中の行動や血圧などといった様々な健康状態のモニタリングに用いる研究が盛んに行われている。MEMS 力センサを含む機械的なセンサにおいて、ばね定数は感度や計測レンジに直接的に影響する極めて重要な要素である。センサのばね定数が計測中に変えることができれば、感度や計測レンジを拡張することが可能となる。

本研究では、MEMS 力センサ、差圧センサ等に応用できるカンチレバーの外周に金属配線を施し、先端部に働くローレンツ力によってばね定数を変化させた。図 1 に示すように水平方向に働くローレンツ力の復元力成分はカンチレバーの変位に比例するため、付加的なばね定数として働く。作成したカンチレバーのサイズは 300 μm × 230 μm × 0.3 μm で厚さ 0.2 μm の金が配線されており、チップ全体は 2 mm × 2 mm × 0.3 mm 程度の大きさである。(図 2)

このカンチレバーを基板に対して垂直下向きの磁場中に置いてスピーカーを用いて加振し、金属配線に流す電流量を変化させた際の共振周波数の推移を計測した。この共振周波数からバネマス系を仮定してばね定数の変化を算出した。結果として-20 mA から 30mA(図 2 に示す方向を正として)の電流を印加した際に 1.1kHz から 3.8Hz まで共振周波数の変化が計測された。この結果から、電流を流さない際と比べてばね定数は 0.22 倍から 2.6 倍まで変化すると算出され、10 倍以上のばね定数の変化を実現した。

(注:図/PDFに記載)

  • 他の発表者からの反応やコメント


発表時間中は来訪者の数に波はあったものの、ほぼ途切れることなく多くの人に話を聞いて頂けた。ばね定数をパッシブに擬似的に変化させるということで興味を持ってもらえた一方、ローレンツ力によりアクティブにカンチレバーを動かしていると勘違いされる場合もあり、発表の仕方のよいフィードバックになった。実際に頂いた質問としては、電流や磁場を強くすればばね定数の可変幅を大きくできるのか?という質問や(答えは Yes、カンチレバーの横幅を広くすることでもローレンツ力の影響を増やせる)、応用先についての質問(差圧センサ、力センサ、原子間力顕微鏡のプローブ等が考えられる) が多かった。

また、配線の本数を増やしてローレンツ力を大きくすればより可変幅を増やせるのではないか、等いくつかの興味深いコメントも頂いた。

 

4)その他

自身は MEMS 分野の研究を始めて日が浅いため、インプットとして energy- harvesting、PMUT 等、知らなかった他研究ジャンルのキーワード、流行やバックグラウンドをまとめて知ることができ有意義であった。アウトプットとして、英語でのポスター発表という人生初の体験は分かりやすく短時間で誤解の無いように理解してもらう伝え方のよい勉強材料になった。また、自身の研究の意義や優位性を改めて考える良い機会となった。

(注:写真/PDFに記載)