2016年[ 技術交流助成 (日本招聘) ] 成果報告 : 年報第30号

平成27年度技術交流助成成果報告(日本招聘)・村上 旬平

研究責任者

村上 旬平

所属:大阪大学 歯学部附属病院 障害者歯科治療部 講師

概要

1)はじめに(招聘の概要)

第 1 回トゥレット症候群治療推進学会学術総会において、米国から歯科スプリントを用いた神経運動障害治療の第一人者である Dr. Anthony B Sims を招聘し、運動および音声チックで生活に大きな困難のあるトゥレット症候群児・者に対する歯科的治療法に関し、顎位の計測方法を含めた治療技術の移転を行った。さらに被招聘者と国内歯科医師、研究者、トゥレット症候群当事者および関係者との意見交換や討論が行われ、国内における治療・研究推進体制の構築と治療の試行が開始された。

 

2)被招聘者の紹介

Dr. Sims は、米国 Maryland Center for Craniofacial TMJ and Dental Sleep Disorders にて、様々な運動障害の歯科スプリントによる治療を手掛け、運動障害と歯科学の関連性を研究している。トゥレット症候群運動障害における歯科的治療の効果や展望について、欧米にて講演し、治療結果を誌面発表するなど業績も顕著である。

 

3)会議または集会の概要

第 1 回トゥレット症候群治療推進学会学術総会は、平成 28 年 5 月 3 日(火祝)に大阪大学中之島センターで市民公開シンポジウムを開催し、5 月 4 日(水祝)ならびに 5 日(木祝)に大阪大学歯学部附属病院で歯科医師むけ技術セミナーを実施した。シンポジウムには国内のトゥレット症候群関係者、医師や歯科医師など約 100 名が参加し、3 名の国内演者の講演と被招聘者による講演「The Neurological Aspects of Dentistry and Its Relationship with Movement Disorders」が行われた。技術セミナーには国内の歯科医師ならびに研究者 15 名が参加し、被招聘者による顎顔面領域の解剖生理、運動障害、診断および治療法についての講義と、トゥレット症候群の患者 7 名が参加した顎位の計測技術指導や装置製作指導が行われた。また、非招聘者と医師、歯科医師、国内研究者、当事者などの意見交換や討論も行われた。

 

4)会議の研究テーマとその討論内容

当学会は、トゥレット症候群の治療に関する海外の新しい技術情報の発信、国外医師や関係者と日本国内の治療者や研究者との交流促進と研究機会の創出を目的とした学術団体である。第 1 回学術大会のテーマは「歯科用スプリントによるチックと随伴症状の治療」であり、その治療機序の解明、診断および治療方法の確立とその普及を目的とした。討論内容は、顎位の計測方法、下顎の上顎に対する位置づけ方法、治療法の機序、治療法の安全性と有効性、装置のデザインと製作方法、さらに装置装着に関する副作用や注意点など多岐に及んだ。

 

5)招聘した成果

治療に必要な顎位の計測方法と治療方法が、Dr. Sims から国内の治療者および研究者に系統的に技術移転された。また今後解決すべき課題も明確となり、セミナー参加者によるトゥレット症候群への歯科的治療ならびにその研究を展開するためのネットワークが構築された。そこでは歯科スプリント治療の展開、治療プロトコールの作成、治療機序解明にむけた研究推進に関する話合いと並行し、実際にトゥレット症候群患者への治療が試行され、一部では良好な結果が報告されている。

 

6)その他

本助成により新たな医療技術の扉を開き、症状に困窮する患者の方々に新たな治療法への希望を与えて下さった中谷医工計測技術振興財団に、厚く御礼を申し上げたい。

(注:写真/PDFに記載)