2016年[ 技術交流助成 (日本招聘) ] 成果報告 : 年報第30号

平成27年度技術交流助成成果報告(日本招聘)・木村 和子

研究責任者

木村 和子

所属:金沢大学 医薬保健研究域薬学系 教授

概要

1)はじめに(招聘の概要)

一般社団法人 日本国際保健医療学会 (Japan Association for International Health) が主催する第 30 回日本国際保健医療学会学術大会が 2015 年 11 月に金沢で開催された。本学術大会では、国際保健医療に関わる研究発表、情報交換等を通じて、その進捗普及に貢献することを目的として、世界各地での医薬品・医療機器に関する現状と課題について情報を共有し討論し、具体的な方策を導き出すため、中谷医工計測技術振興財団技術交流助成(日本招聘)により、2 名の専門家を招聘した。

 

2)被招聘者の紹介Patrick  Lukulay 氏博士(分析化学)

Vice President, Global Health Impact Programs (GHIP), Director, Promoting the Quality of Medicines (PQM) Program, United States Pharmacopeial Convention(米国薬局方協会, USP)USP は、品質不良医薬品や偽造医薬品の脅威への対策として、自国内で医薬品の基準を作成し、流通する医薬品が基準を全うすることにより、グローバルな健康保護を図っている。

Yang Daravuth 氏

Deputy Director, Department of Drug and Food, Ministry of Health, Cambodia(カンボジア保健省)

 

3)会議または集会の概要

会議の名称

第 30 回日本国際保健医療学会学術大会 2015(The 30th Annual Meeting of the Japan Association for International Health Congress 2015)

趣旨および目的

HIV/AIDS, 結核、下痢症、呼吸器感染症、デング熱、薬剤耐性、新興・再興感染症、寄生虫症、顧みられない熱帯病など開発途上国を悩ませ、我が国など先進国にも影響をおよぼしかねない疾病の疫学や診断治療技術・薬の開発、専門的人材の育成を、学術交流を通じて図る。また、医療政策、医療制度、母子保健、環境 衛生など開発途上国の保健医療課題についても進捗普及に学術的に貢献するとともに、市民公開講座を通してこれらの成果を国民に還元する。

主催

一般社団法人日本国際保健医療学会

共催

国立大学法人金沢大学、独立行政法人国際協力機構

後援

石川県、金沢市、国立研究開発法人日本医療研究開発機構

開催期間

2015 年 11 月 21 日(土)~11 月 22 日(日)(2 日間)

開催場所

石川県金沢市角間町金沢大学自然科学本館 1 階

参加者数(実績)

618 名

主催責任者

第 30 回日本国際保健医療学会学術大会 2015

大会長    木村和子(金沢大学医薬保健研究域薬学系国際保健薬学教授) 事務局長        坪井宏仁(金沢大学医薬保健研究域薬学系国際保健薬学准教授)

 

4)会議の研究テーマとその討論内容

会議のテーマ

世界の健康と医薬品課題の解決に向けて(Towards a healthier world: Improving health care and access to high-quality medicines in the 21st century)

討論内容

途上国における保健医療の現状、医薬品・医療機器等に纏わる課題解決に向けて、シンポジウム

「Medicines for Health」において討論を行った。

Lukulay 氏より、アフリカの医療機器に関する現状についてお話いただいた。その内容を以下に要約する。

医療機器や診断キット等の使用は、アフリカにおいて増加している。その理由として、平均年齢の上昇に伴う健康に対する支出の増加、生活が豊かになったこと、慢性疾患の増加などがある。また、中流階級層の増加と彼らの裁量支出、医療機器の使用における医師をはじめとする医療従事者へのよりよい教育の実施や健康保険計画などへの財政支出の増大といった背景もある。多くのアフリカ諸国は、医療機器と供給品を輸入に頼っており、その額は、2010 年において約 32 億米ドルと見積もられている。これは 2009 に比べて、4.9%上昇している。医薬品と医療機器の輸入は、ここ数年で大きく伸びた。それは、西アフリカと北アフリカで顕著であった。アフリカ全体の医療機器販売の約 40%をエジプトと南アフリカが占めた。医療機器に関する規制は未熟であったが、アフリカ各国には、それを改善するためのすさまじい努力がある。例えば、南アフリカは医療機器の登録について新しいガイドラインを提案した。

 

南アフリカの規制制度は、リスクにより分類した 4 層からなっており、クラス A(最も低リスク)、クラス B(低リスク)、クラス C(高リスク)、およびクラス D(最も高リスク)に分類される。医薬品管理評議会(Medical Control Council)が、それらのデザインに基づいて医療機器の適切な分類を決定し、個人が使用する。規制草案によると、医療機器を登録するために、国外の製造業者は、国内担当者に、当該機器とその IVD 登録を管理するように命じる必要がある。それらの権限のある代表者を通して、登録者は以下を医薬品管理評議会に提供する必要がある。

  • ラベルの提案

  • 現在の品質管理システム認証の証拠となるもの

  • 安全性と性能に関するデータ

  • 生産国と登録状況に関するスデータ

  • 可能であれば臨床データ


医薬品管理評議会は、登録時に申請資料を評価し、承認された医療機器には登録証明書を出す。

Daravuth 氏より、カンボジアの医療事情について、現状と課題をお話いただいた。その内容を以下に要約する。

カンボジアにおける保健医療は、経済の発展とともに、徐々に再構築されつつある。これまでに、日本をはじめ世界各国の支援・援助も受けて、保健医療システムの強化、母子保健の改善、感染症対策、 公衆衛生・医療インフラの整備、医療機材の維持・運営管理システム導入、人材育成等に取り組み、 保健医療の質的向上を図ってきた。しかし、自国で医療を改善できるほど社会経済の発展がまだ十分ではない。医療費が限られる中で、優先的に治療を施す患者を識別しなければならない。また、国民の栄養状態や衛生面の環境整備が十分でないことから感染症が非常に多く、安価な抗生剤の使用が重要となっている。医療機器については、医薬品と同様に保健省が管理することにはなっており、その都度対応している。

シンポジウムの後半には、Lukulay 氏と Daravuth 氏、その他の演者と座長を中心に、開発途上国において医薬品アクセスに比べて未だ認識が薄い医薬品適正使用、医療機器の維持管理、政策などについて、会場とのフリーディスカッションを行った。途上国では教育が十分でないことから医療機器のメンテナンスが現場で実施されないことと、また修理の仕組み構築ができておらず医療機器修理が自国ではできないことから、壊れたままの機械が多く存在するなどの問題が挙げられた。医療機器に関して、技術面では向上がみられる一方、規制に関しては整備段階にある国も少なくない。また、整備できたとしてもそれを機能させるための取り込みがさらに必要であると指摘された。

 

5)招聘した成果

Lukulay 氏と Daravuth 氏から、途上国が直面している医薬品、医療機器等に関する課題を明示していただいたことにより、日本の医工計測技術がどのように貢献できるか具体的に検討する機会を得た。

医療機器の維持管理について、途上国での医療現場では勤務も含めて大雑把であり、機器メンテナンスが実施されていないことも多い。このような現場で医療機器の高品質・高性能を維持するためには、 十分な教育は勿論のこと、機器の保守をより簡易化することが有効であると考えられた。医工機器の進化により、精度の高い機器が開発される一方、途上国では技術不足によりそのメンテナンスを十分に行えない現状を踏まえ、メンテナンスフリーの技術を導入した医療機器が望まれる。流体系の洗浄法の改良、定期交換部品の部品表面の加工や化学処理による交換時期の延長技術や部品消耗をセンサーで検出

 

する技術などを駆使することで、長期間のメンテナンスフリー環境を実現することでの品質維持のニーズに対応できる。また、消耗品が自動共有される仕組みなどを取り入れた機器開発ができることで新たな市場開発ができる。このように、先進的な技術を医療機器の性能向上だけに使用するのではなく保守性の向上を日本の医療機器が取り入れることで、医療機器の管理・流通の質的向上が図れ、相互にメリットを生じさせるものと期待される。

途上国では医療費が限られるために治療すべき人の優先順位を付けることが重要となる。トリアージ手法など簡易な検査診断を活用した患者の優先的な診断技術は、日本では大規模災害時しか実施されないために、日常的に使用される可能性のある途上国において、操作性に優れて安価なバイタルサイン簡易迅速診断法の開発が重要であると考えられた。最新のセンサー技術等を応用しての診断機器が開発できれば、新たなトリアージの判断のための迅速診断法が確立でき、災害時の緊急医療分野や途上国での外来医療に大きく貢献できる。

医薬品アクセス、医薬品適正使用、医療機器の維持管理、人材育成などについて、医工も含めた先進 国の知恵を集め、さらに途上国で実現可能な方策を提案し、実施に協力することが、我々の責任となる。 途上国目線での技術的な向上を図ることで、日本の医療機器の普及が見込まれ、世界的な健康保健水準 の向上・維持へさらに貢献できることと期待される。また、本学術大会には、これらの分野で指導的役 割を担う専門家はもとより、活躍し始めた若手の研究者など幅広い研究者にご参加いただいたことから、この分野の一段の活性化・発展につながるものと期待される。

 

6)その他

特になし

 

(注:写真/PDFに記載)写真 1. 講演する Patrick Lukulay 氏

(注:写真/PDFに記載)写真 2. 講演する Yang Daravuth 氏

(注:写真/PDFに記載)写真 3. 会場とのフリーディスカッション