2017年[ 技術交流助成 (海外研修) ] 成果報告 : 年報30号補刷

平成28年度 技術交流助成成果報告 (海外研修)・牧 功一郎

研究責任者

牧 功一郎

所属:京都大学大学院 工学研究科 マイクロエンジニアリング専攻

概要

研修先名称 コロンビア大学生体医工学科 研修
研修地 米国・ニューヨーク
期間 平成 28 年 8 月 12 日~10 月 9 日

1)研修中に実施した研究テーマ
A.AC6 分子の過剰発現による培養骨細胞上プライマリーシリアの流れ刺激感知機能の変化
B.ICC 染色によるプライマリーシリア基部のアクチン細胞骨格の観察

2)研修期間中の研究成果
A.AC6 分子の過剰発現による培養骨細胞上プライマリーシリアの流れ刺激感知機能の変化
細胞のアンテナであるプライマリーシリア(一次繊毛)は、生体組織内に生じる流れ・振動・圧力などの力学刺激を感知し、種々のシグナル経路を制御する機能的構造体である。プライマリーシリアは、流れの作用下で湾曲しCa2+イオンを流入させることが知られている。本研究では、細胞内のCa2+イオンと結びつき、cAMP 濃度を調節すると考えられている AC6 分子に着目し、培養骨細胞に対してAC6 分子の過剰発現を行った。その結果、AC6 分子を過剰発現させた培養骨細胞においては、コントロールと比べ、マイクロ流路を用いた流れ刺激下における細胞内 cAMP の濃度が有意に高い値を示した。さらに、AC6 分子はプライマリーシリアに局在していることが ICC 染色から明らかとなった。このことから、AC6 分子はプライマリーシリアを介して細胞内に流入したCa2+イオンに応答して細胞内の cAMP 濃度を調整していることが示唆された。

B.ICC 染色によるプライマリーシリア基部のアクチン細胞骨格の観察
プライマリーシリアの刺激感受性は、その曲げ剛性および基部の弾性により調節されることが示唆されている。本研究では、プライマリーシリア基部に存在するアクチン細胞骨格が基部の弾性に寄与している、との仮説を立て、ICC 染色によりアクチンフィラメントを観察した。その結果、プライマリーシリアの基部では、他の領域と比べてアクチンフィラメントの濃度が低いことが明らかとなった。このことから、プライマリーシリア基部の柔軟性はアクチン細胞骨格の局所的な解体により維持されている可能性が示唆された。

3)その他
米国・コロンビア大学での研修におきまして多大なご支援を賜り、心より御礼申し上げます。指導教官であるChris Jacobs 教授とは、私の現在の受入れ研究室である京都大学ウイルス・再生医科学研究所バイオメカニクス研究室(教授:安達泰治先生)に海外客員教授として着任された際、初めてお会いする機会を得ました。事前に私の研究の方向性についてご理解頂いていたこともあり、研究計画について研修の直前まで丁寧に議論くださっていました。当初の研究計画の着想「プライマリーシリアが流れ刺激を感知する分子メカニズムの解明」をベースとして、現場で正に盛り上がっているトピックを加えた 2 つの実験計画を遂行いたしました。博士後期課程の学生さん 3 人と、修士課程の学生さん 3 人の小規模の研究室(写真)でしたが、各自、忙しい中でも実験技術を丁寧に伝えてくれ、毎日着実に種々の実験技術を習得することができました。実験量はかなり多く、失敗した実験も多々ありましたが、確立された実験手法と仮説を信じて、地道に、かつ丁寧に実験と向き合うことの大切さを学びました。日々のミーティングでは、細胞内の分子メカニズムに医工学的観点からアプローチするための新しい技術開発に関しても多くの議論を交えました。複雑な生命現象を理解するための基盤技術開発はますます求められており、機械工学出身の一技術者として、継続して取り組んでゆく所存であります。オフィスワークとしても、Jacobs 先生が執筆に参加されている教科書の第二版出版のための編集作業にも関わることができ、共著者に入れて頂けることとなりました。週末にはニューヨーク生活の色々な楽しみ方を伝授してもらい、充実した日々を過ごすことができました。
今後の研究に関しましても、Jacobs 教授より継続的な共同研究のお話を頂いております。博士課程修了後は、世界的な共同研究を自ら広げてゆけるよう努力いたします。
この度は誠にありがとうございました。今後とも常により広い視野で、大きな目標を掲げて研究に邁進し、いつの日か医工計測分野に貢献したいと願っております。