2017年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報30号補刷

平成28年度 技術交流助成成果報告(海外研修)・榎本 詢子

研究責任者

榎本 詢子

所属:横浜国立大学大学院 工学府 博士課程後期

概要

研修先名称 Laboratory of Biological Structure Mechanics, Department of Structural Engineering,Politecnico di Milano
研修地 Piazza Leondaro da Vinci, 32 - 20133 Milano,Italy
期間 2016 年 6 月 16 日~9 月 12 日

1)研修中に実施した研究テーマ
細胞培養において最も重要な律速因子は酸素であり、適切な酸素濃度環境下での培養が細胞の活性や機能を維持する上で重要である。そこで本研究では、光酸素センサをマイクロデバイスに組み込み、非侵襲的に酸素濃度をモニタリング可能な新規マイクロデバイスの開発を目的とした。細胞培養マイクロデバイスに非侵襲的な光酸素センサを組み込み、連続的に細胞呼吸活性を on chip モニタリングする。さらに電気化学センサをマイクロデバイスに搭載し、細胞活性評価も組み込んだマイクロデバイスを設計する。また、酸素濃度を制御するために、酸素透過性の高いシリコーンゴムを用いてマイクロデバイスを作製する。

2)研修期間中の研究成果
本研究では、細胞の増殖活性と酸素濃度を非侵襲的に測定・評価可能なマイクロデバイスを開発した(図1/PDFに記載)。このマイクロデバイスの開発のポイントは、微小な培養チャンバ内に効率よく均一に細胞を導入できること、そして、そのチャンバ内でそのまま細胞増殖活性および酸素濃度を非侵襲的にモニタリングできることである。そこで、まずはナノリットルオーダーの全てのマイクロチャンバ内に同数の細胞を均一に素早く導入する方法として、界面自由エネルギー変化に着目した独自の溶液操作技術を考案した(図2/PDFに記載)。すなわち、チャンバ出口に菱型構造を付与し、大きなエネルギー上昇が生じるように設計することで、出口部につながるマイクロ流路内を減圧するのみで、独立したすべてのチャンバに溶液が素早く細胞を均一に導入できることを確認した。
次に、デバイスに微小電極を組み込み、電気化学インピーダンス測定によって細胞の増殖評価を行った。あらかじめチャンバ内に濃度の異なる種々の抗生物質を塗布し、その後細胞をチャンバ内で培養した。その結果、添加した抗生物質の濃度に依存した細胞の増殖と、インピーダンス値に相関があることを示した(図3/PDFに記載)。このことから、電極上に接着した細胞のインピーダンスを測定するのみで、非侵襲的に細胞の増殖を測定できることがわかった。
また、マイクロデバイス底面に、酸素センサ材料として白金ポルフェリンを含むシリコーンゴムを塗布し、パルスレーザの照射により生じるリン光を測定することで酸素濃度を測定した。白金ポルフェリン上で細胞を培養しても影響がないこと、さらに 0~20%濃度範囲の酸素を測定できることを確認した。さらに、細胞数に依存した酸素消費量を測定できることもわかった。

図2 表面張力を用いた細胞懸濁液の導入(注:図/PDFに記載)

以上のことから、酸素濃度とインピーダンス値を測定することで、非侵襲的にチャンバ内の細胞数および活性を非侵襲的に測定できることが示唆された。作製したマイクロデバイスは、一度に 100 個の独立したマイクロデバイスに均一に細胞を導入することが可能であり、経時的に細胞数や活性を定量的に評価できることから、細胞生物学などの基礎的な研究から創薬や再生医療などの応用まで幅広い波及効果が期待できる。

3)その他
今後も留学先の研究室との共同研究を継続し、作製したデバイスを iPS 細胞の培養や分化誘導の評価デバイスとして応用していく予定である。

4)謝辞
本研究は、多くの方々のご協力、ご支援の元に成し遂げられました。この場を借りて、感謝申し上げます。
海外研修活動費について、公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団からのご支援を頂戴いたしました。このような貴重な経験をさせていただけたことに、感謝御礼申し上げます。