2017年[ 技術交流助成 (海外研修) ] 成果報告 : 年報30号補刷

平成28年度 技術交流助成成果報告(海外研修)・釘宮 章光

研究責任者

釘宮 章光

所属:広島市立大学大学院 情報科学研究科 医用情報科学専攻

概要

1)研修中に実施した研究テーマ
アミノ酸の新規計測法の開発

2)研修期間中の研究成果
アメリカ合衆国のフロリダ大学電子コンピューター学科(Department of Electrical & Computer Engineering)、および多機能集積システム技術センター(Multi-functional Integrated System Technology Center)に所属し、我々がこれまで研究を進めてきた酵素を用いる20 種類のアミノ酸濃度の計測法について、より簡便に検出し、将来的には装置化を目指すための方法について検討を行った。
本プログラムでは、2 通りの方法でアミノ酸を検出する方法の検討を行った。1 つは、酵素を固定化したろ紙を反応流路に用いてアミノ酸を検出するPaper fluidic device を用いる方法(同学科、同センター Hugh Fan 教授)、もう1 つは半導体素子を用いて検出する方法(同学科、同センター Toshikazu Nishida 教授)である。

1. Paper fluidic device によるアミノ酸検出法の開発
まず、酵素を固定化したろ紙を反応流路に用いてアミノ酸を検出する方法(Paper fluidic device)においては、市販のろ紙から図1のような形状のものを、パソコンのプログラムに従いマイクロクラフトカッターで切り出して得た。また、ラミネートフィルムに全く同形状の流路をマイクロクラフトカッターで切り出し、そこに同形状のろ紙を入れ込んだ後、未加工のラミネートフィルムで挟み込ん
でラミネータ装置を用いて100℃で加工して、図2のようなPaper fluidic device を得た。そして四隅の正方形の部分に、各アミノ酸結合性酵素(HisRS; ヒスチジン結合性酵素、LysRS;リジン結合性酵素、 TyrRS; チロシン結合性酵素)、および発色剤のトリンダー試薬等の試薬を滴下して乾燥させた。完成したPaper fluidic device の中央の菱形部分にサンプルのアミノ酸溶液を滴下し、サンプル溶液が各反応部へ浸透して15 分後に発色剤により赤紫色に変化した度合いを計測することで反応の評価を行った。図2(A) は100 μM ヒスチジンを滴下、(B) は100 ?M リジンを滴下、(C) は100 μMチロシンを滴下したものを示す。その結果、ヒスチジン結合性酵素のHisRS はヒスチジンと、リジン結合性酵素のLysRS はリジンと、チロシン結合性酵素のTyrRS はチロシンと、それぞれ基質のアミノ酸と特異的に反応し、写真のように各対応する酵素を固定化した反応部のみが赤紫色に変化した。
これにより、3 種類のアミノ酸を同時に検出できる可能性を示した。
今回反応に用いたアミノ酸結合性酵素のHisRS、LysRS、TyrRS は好熱生由来の大腸菌から発現させて得られたものであり、酵素反応における最適温度は60~70℃程度であるため、今回行ったような室温での反応においては反応性が少し低く、数μM 程度の低濃度域の定量までは至らなかった。今後は、室温程度でも活性を有する酵素を用いて検討を行う予定である。

(注:図/PDFに記載)

2. 半導体素子を用いるアミノ酸検出法の開発
Nishida 教授は、新しい半導体素子の開発をめざしており、それらをセンサー素子や低電力デバイスとして応用することを目的に研究を行っている。従来、半導体素子は二酸化ケイ素(SiO2)を用いて作製されているが、Nishida 教授のグループは酸化ハフニウム(HfO2)を素材として用いて半導体素子の開発を行っている。酸化ハフニウムは、誘電率が二酸化ケイ素の6 倍以上あるため、トランジスタのゲート絶縁膜の有力な素材であると期待されているということである。
図3にフロリダ大学ナノスケール研究所のクリーンルーム内での半導体チップ作製の様子を示す。なお、本プログラムにおいては時間の都合で半導体チップを用いるアミノ酸検出法について検討するまでは至らなかった。今後はNishida 教授とも連携して、半導体素子を用いるアミノ酸計測法について検討を行いたいと考えている。

3)その他
本プログラムにおいては、酵素を固定化したろ紙を反応流路に用いてアミノ酸を検出するPaper fluidic device を用いる方法と、半導体素子を用いて検出する方法の2 通りの方法で簡便にアミノ酸濃度を検出する方法について検討した。
今後は、Paper fluidic device を用いる方法については、室温において活性を有するアミノ酸結合性酵素を用いて高感度にアミノ酸を検出する装置の開発を行いたい。また、今回は3 種類のアミノ酸結合性酵素を固定化した流路を用いて3 種類のアミノ酸を同時検出するデバイスの作製を行ったが、本方法を用いると20 種類のアミノ酸濃度を同時検出可能なデバイスの開発も可能であると考えられるため、今後も引き続き検討を行う予定である。
Nishida 教授とは今後も連携し、酸化ハフニウムで作製した半導体チップを素子として用い、その上に化学修飾してアミノ酸結合性酵素と基質アミノ酸との相互作用によって生成される化合物を検出するシステムを構築する予定である。
Nishida 教授とご家族、研究室のメンバー、また多機能集積システム技術センターのメンバーにはたいへん親切にしていただき、快適な環境で研究を進めることができた。
公益財団法人中谷医工計測技術振興財団からは、技術交流助成(海外研修)の助成も受けた。この場をかりて、厚くお礼を申し上げます。