2017年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報30号補刷

平成28年度 技術交流助成成果報告(海外派遣)・平谷 萌恵

研究責任者

平谷 萌恵

所属:東京農工大学大学院 工学府 生命工学専攻 博士前期課程1年

概要

会議等名称 The 20th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Science (MicroTAS 2016)
開催地 アイルランド、ダブリン
時期 平成 28 年 10 月 9 日~10 月 13 日

1)会議又は集会の概要
本国際会議は、生命科学・化学分野におけるマイクロ流路、マイクロ加工、ナノテクノロジー、表面材料、分析合成、検出技術に関する研究発表を行う世界最高峰の国際学会であり、様々な分野の研究者が最新の研究成果に関して活発に議論を行う。申請者が参加した MicroTAS 2016 は、本年度が 20 周年
という節目にあたる。本年度は 10 月 9 日~13 日の 5 日間、アイルランドのダブリンで開催された。会
議は主にオーラル発表とポスター発表からなり、本年度の会議では 1116 件の投稿論文中、採択数がポスター702 件、オーラル 102 件と 72%の採択率であった。さらに Latest News として追加で採択された分を合計するとポスター発表は 724 件にのぼり、学会にはアジア、欧州、アメリカの各国から 1124 人の研究者らが集まった。

2)会議の研究テーマとその討論内容
本会議における研究テーマの区分を以下に列挙する。
・Cell Separation and Analysis
→マイクロ流路などを用いた細胞収集・集計・選別技術や、血中循環腫瘍細胞の分析、リポソームや小胞の分離、単一細胞解析などに関する発表が行われた。
・Cells, Organisms, and Organs on Chip
→生体模倣・擬生物・バイオハイブリッドデバイスに関する発表が行われた。
・Commercialization
→商業化に成功したマイクロ流路を基盤とした製品についての発表が行われた。
・Diagnostics, Theranostics, and Translational Medicine
→癌研究や臨床化学、次世代シーケンス等の核酸解析、ドラッグデリバリーに関する発表が行われた。
・Fundamentals in Microfluidics and Nanofluidics
→ドロップレットシステム、多重フェーズシステム、ナノチャネルやナノポアなどのナノ流体工学に 関する発表が行われた。
・Integrated Microfluidic Platforms
→遠心力を利用したマイクロ流体デバイスや、電動性のマイクロ流体デバイスに関する発表が行われた。
・Micro- and Nanoengineering
→接着・接合技術や、ナノバイオテクノロジー、ナノスケールでの製作に関する発表が行われた。
・Sensors & Actuators, and Detection technologies
→バイオセンサー、化学・電気化学センサー、物理センサーなどに関する発表が行われた。
・Separations, Reactions, and Other Applications for Microfluidics
→化学・粒子合成、電気泳動を利用した分離、環境解析などに関する発表が行われた。


3)出席した成果
本会議では、”Recognition of microRNA expression in serum using programmable droplet system for cancer diagnosis”という題目でポスター発表を行った。本研究では、DNA コンピューティング技術と生体ナノポアを用いることで、癌特異的に発現する microRNA (miRNA)のパターンを自律的に認識するドロップレットシステムを構築した。miRNA は初期の癌細胞においても異常に発現し、その発現パターンも癌ごとに異なることが知られており、小細胞肺癌では miRNA-20a と miRNA-17-5p が過剰発現し、同時に血中へ放出されるため、小細胞肺癌の診断にはこの 2 種の miRNA を同時に検出する必要がある。そこで、二種の miRNA が存在する場合にのみ Four-way junction 構造をとるようプログラムした DNA をドロップレット中に組み込み、生体ナノポアを用いることで診断の出力分子をラベルフリー・リアルタイムに検出できるシステムを構築した。その結果、血清中の 2 種の標的 miRNA を同時に検出し、SCLC の診断を行うことに成功した。
質疑応答では、「人工脂質膜はどのくらいの時間保持できるのか」「用いた miRNA は精製したものなのか」「miRNA 特異性はどの程度なのか」といった質問がされた。また、私のポスターがポスター賞の審査対象として選ばれており、16 人ほどの審査員の前で発表する機会を得た。英語はたどたどしく、発音に難があったが、大きな声で、身振り手振りを交えながら発表することを意識して臨んだ。その結果、3 日間のポスター発表の中で各日ごとに最も優れた発表を行った人(計 3 人)に授与される Young Researcher Poster Award という名誉ある賞をいただくことができた。日本人での受賞は3年ぶりで、修士学生での受賞は6年ぶりとなる。審査対象に選ばれた時は自分が賞をとれるはずなんてないと思っていたが、何事にも一生懸命最大限の力で挑むことが重要であるということを学ぶことができた。

4)その他
会議日程の 4 日目夜にバンケットが開催された。現地の料理や音楽を楽しみながら、世界各国の研究者および、日本の他研究室の方たちと交流を深めることができた。特に、各国の研究者たちが音楽に合わせて踊っている姿が印象的であった。本バンケットを通じて様々な人たちと交流を深められたことも、会議参加の意義であったと思う。

最後に、貴重な機会を与えてくださった中谷医工計測技術振興財団様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。