2017年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報30号補刷

平成28年度 技術交流助成成果報告(海外派遣)・岡谷 泰佑

研究責任者

岡谷 泰佑

所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学

概要

会議等名称 第 30 回微小電気機械システムに関するアイ・トリプル・イー国際会議
開催地 ラスベガス(アメリカ合衆国)
時期 2017 年 1 月 22 日~1 月 26 日

1)会議又は集会の概要
The 30th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems は微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems;MEMS)分野において最も規模の大きい国際学会である。生体計測用のマイクロセンサや化学量分析用のセンサ・マイクロ TAS デバイスなど幅広く医工計測分野に応用可能なマイクロデバイスに関して多くの発表が行われている。例年アジア、欧州、アメリカから 1000 件近い応募があり、採択率 3 割という厳しい審査が行われるため、発表される研究のレベルは非常に高い。今回参加した国際学会は MEMS という分野に対して非常に強い影響力を持った学会だと言える。

2)会議の研究テーマとその討論内容
人口高齢化に伴い、リハビリテーションを手助けする歩行支援ロボットの研究が進められている。安全な歩行支援のためには、様々な路面状況に対応したロボットの制御が必要になる。しかし、路面の滑りやすさが評価できないため、路面で転ばない最適な歩行速度の制御ができていない。そこで、路面の滑りやすさを評価する手法が求められている。
本研究では、MEMS 滑り覚センサを足底に取り付けることで、歩行運動中に路面の滑りやすさを推定できる手法を実現した。この手法を歩行支援ロボットに適用することで、スリップを未然に防ぐ歩行支援が可能になる。
センサチップは、上面及び側面にピエゾ抵抗層を形成した 5 対の両持ち梁から構成されている。これらの抵抗変化率から、路面の滑りやすさを評価することができる。センサチップの大きさは、3mm× 3mm×0.3 mm と靴裏に配置可能なほど小型である。
さらに、提案する手法の評価実験を行った。まず、試作したセンサをオイルが付着した路面と付着していない路面に押し付けたときの出力を比較し、センサ出力から路面の滑りやすさを判別できることを確認した。次に、足底にセンサを取り付けた二足歩行ロボットを歩行させ、歩行中においても路面の滑りやすさを評価しつつ、ロボットを制御できることを確認した。

3)出席した成果
今回参加した国際会議(MEMS2017)において本研究に関するポスター発表を行った。終始、多くの方々に対して本研究について説明させていただく機会を得ることができ、2 時間という限られた時間ではあるものの有用なディスカッションを行うことができた。そこで興味を持っていただいた多くの方々からの貴重な質問およびコメントの一部を紹介する。
まず、「柔らかい素材でもセンサを実現することができるか」という質問をいただいた。本研究で製作したセンサは、靴底のようなゴム素材の中にシリコンチップが埋め込まれた構造になっている。シリコンは曲げや衝撃に弱いため、実際の応用時には故障の原因になる可能性がある。一方、近年カーボンブラックを混合した導電性エラストマーなどを用いた柔らかいセンサが注目されている。センサ全体を柔らかい素材で作ることができれば、これまでのセンサにおける物理的な弱点をひとつ克服できる可能性があると考えている。
次に、「オイルが付着した路面にセンサを押し付けたときの出力と、オイルが付着していない路面にセンサを押し付けたときの出力の差はどのくらいあればよいのか?」という質問をいただいた。 滑りやすい路面と滑りにくい路面を判別するためには、センサが路面に接触するときの接触角度や、センサに伝わる振動などのノイズに対してロバストな性質を持つ必要がある。現在のところ、センサの接 触時の角度が変わるとセンサ出力に誤差が生じることから、この誤差を考慮した評価を行う必要がある。開発したセンサの特徴は、接触した瞬間に接触対象の滑りやすさを評価できるというところにある。今後の課題として、あらゆる路面環境に対応し、接触時の条件によらず正しく滑りやすさを評価できるよ うにセンサを改良していく必要があるだろう。
最後に、「このセンサにはどのような応用先があるか」という質問をいただいた。まさに、今回我々が開発したセンサはロボットハンドやヒューマノイドロボットに応用することで滑りを回避できることが期待される。一方で、日本における急速な高齢化を考えると、医療費の増大は大きな社会問題になっている。高齢者による転倒・骨折などの不慮の事故の増加は、身体機能の低下と関連している。ロボット技術は高齢者の身体機能を支えるツールとして期待されており、我々が開発したセンサと従来のロボット技術を組み合わせることで、高齢者を滑りによる転倒から未然に防ぐことができるようになると考えている。
以上は頂いた質問やコメントの一部であるが、他にも今後の研究に大いに役立つ多くの有用なご意見をいただくことができた。これは今回の会議に参加することで得られた貴重な成果である。今回の会議への参加に助成してくださった中谷医工計測技術振興財団様に心より感謝いたします。

4)その他
ポスター発表の様子。多くの方々から貴重なご意見を頂くことができた。