2017年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報30号補刷

平成28年度 技術交流助成成果報告(海外派遣)・松田 信彦

研究責任者

松田 信彦

所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学

概要

会議等名称 The 30th IEEE International Conference on Micro electro Mechanical Systems
(MEMS2017)
開催地 Las Vegas Hotel,Las Vegas,United States
時期 平成 29 年 1 月 22 日~1 月 26 日

1)会議又は集会の概要
本会議は米電気電子工学会(IEEE)が主催する微小電子機械システム(以下 MEMS)における最も権威ある包括的・横断的な国際学術会議の第 30 回会議である。採択率が 4 割であるこの学会では MEMS 分野における厳選された最新の研究成果を参照でき、また最前線の気鋭の研究者と交流することができる。 総投稿数は 874 件、採択数は 348 件、事前参加登録者数は 600 名以上であった。

2)会議の研究テーマとその討論内容
本会議は MEMS 分野における包括的な会議であり、その討論内容は多岐に亘った。例えばポスター セッションのテーマにはBiological & Medical MEMS、MEMS Physical Sensor、Micro-&Nano-fluidics、MEMS Actuators 等があった。Biological & Medical MEMS の分野では例えば神経に電極テープを固定するためにマジックテープのようなフープと鉤状の構造を利用した研究、脳神経に電極を挿入するた めの微細針アレイを製作した研究、細い流路を振動させて赤血球などの微細粒子の質量を高い精度で推 定した研究などがあった。

3)出席した成果
会議に出席し、「MEMS 多軸音響センサ」に関する研究発表を行った。The University of California、The Daegu Gyeongbuk Institute of Science and Technology などの 30 名近い研究者と研究の意義、製作したセンサの性能、原理、作成方法、性能の改善の余地について議論を交わした。また、同じく音響を計測対象としている研究の発表を聴き、研究の目的意識、立脚している原理の相違、得られた成果などを確認した。さらに、(2)で述べたような MEMS の異なる専門領域における最新の動向に触れた。

4)その他
今回発表した研究において開発したセンサの医学応用の可能性について述べる。
本研究の主眼は橋梁や高層建築物などの構造物の疲労を音響振動を通じて非侵襲的に計測することであるが、この振動による非侵襲計測というコンセプトは人体に対しても転用が可能である。現在、医療現場において振動の伝達速度を介して生体組織の弾性を推定する超音波エラストグラフィの技術が利用されている。この技術はびまん性肝疾患の程度推定や肝発癌のリスク評価に資するとされている。特に、生体内で超音波を収束させた際に微弱な力が発生する現象(Acoustic Radiation Force Impulse、ARFI)を利用して生体内イメージングを行う技術がすでに臨床で利用されている。この技術は生体内部で発生させた力が伝播し体表が振動する様子を超音波プローブ等で観察することで波速の分布を求め、体内組織の硬度分布を推定している(Shear wave imaging)。ここで、本研究が提案する多軸センサを用いることで、疎密波と剪断波を同時同地点で計測することができるようになり、それらの速度の差から直接弾性率を算出したり、剪断波・弾性波を総合した立体的な振動の振幅を比較することで組織の粘弾性に影響されるエネルギー透過率を算出することができるようになると考えられる。さらに、本研究が提案するセンサは MEMS 加工技術とピエゾ抵抗効果に立脚しており、半導体素子上に電子回路とともに高密度に集積することが可能である。これにより、高精細かつ多面的な計測を可能とする超音波プローブが実現され、非侵襲生体計測技術の更なる発展につながると期待される。
今回は中谷医工計測技術振興財団のご支援を賜ったことで会議への出席が叶い、修士課程学生の身な がら世界の舞台で研究成果を発表し、また最前線の研究者らと技術交流を行うことができました。この 場をお借りして厚く御礼申し上げるとともに、貴財団の今後益々のご清栄を心よりお祈り申し上げます。