2017年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報30号補刷

平成28年度 技術交流助成成果報告(海外派遣)・臼井 健二

研究責任者

臼井 健二

所属:甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 准教授

概要

会議等名称 The 34th European Peptide Symposium and the 8th International Peptide Symposium
開催地 ドイツ連邦共和国ライプツィヒ
時期 平成 28 年 9 月 4 日~9 月 10 日

1)会議又は集会の概要
このたび貴財団の技術交流助成(海外派遣)を賜り、平成 28 年 9 月 4 日~9 月 10 日までドイツ連邦共和国ライプツィヒで開催された "The 34th European Peptide Symposium and the 8th International Peptide Symposium"に参加し、研究発表をさせて頂いた。本国際会議は、The European Peptide Society が主催し、口頭発表 80 件ほど、ポスター発表 400 件近く、世界各国から 500 名以上が参加している、ペプチド科学・工学における研究・開発のための国際的な学会である。タンパク質の小型版であるペプチドの生理活性、詳細解析から、立体構造計算、機能予測、機能改変、新規分子構築など基礎から応用まで幅広く討論される。日本にも日本ペプチド学会があり、The European Peptide Society と密接な関係にあり、日本人研究者も多数参加していた。また、学会が発行する Journal of Peptide Science 誌はペプチド研究において重要な雑誌の一つとなっている。

2)会議の研究テーマとその討論内容
会議において私は"Monomerization and fibrillation methods for fibrosis peptides using SPPS microbeads"という題目でポスター発表を行った。アミロイドタンパク質・ペプチドに代表されるような線維化タンパク質・ペプチドは凝集性が高いことで知られており、詳細な解析研究を行う際にはこれらをモノマー化する過程も必要となる。しかし、現在のモノマー化法及び線維化法は簡便でないものが多く、各研究室で統一されておらず、実験条件が異なり再現性も得にくいため、研究の進展が遅れているのが現状である。そこで本研究では光切断リンカーや温和な条件で化学的に切断できるリンカーなどを介して樹脂ビーズにアミロイドペプチドを直接合成することで、合成と同時にモノマー化を達成させる方法を考えた。さらに、線維化開始法としては、固定化されていたペプチドを簡便な方法でリンカー部分を切断することで、樹脂ビーズからペプチドを遊離させ、線維化を開始させるといった方法の構築を目指した。始めに光によるリンカー切断条件や温和な化学物質添加条件によるリンカー切断条件の最適化を行った。次にゲル濾過によるモノマー化の確認を行い、従来法とも比較した。その結果、本法は従来法よりも簡便かつ確実にモノマー化が達成できる手法であることが判明した。また、本法及び従来法による線維化及びその状況を比較、検討も行った。さらに本法を用いて細胞毒性試験を行い、簡便かつ正確にアミロイドの毒性評価が可能であることも示した。本研究では今後、様々なアミロイドペプチド配列を簡便に切断できるリンカーを介して樹脂ビーズに配置し、いつでも誰でも簡単に同一の測定が可能なアミロイドペプチドの線維化評価・毒性評価が可能なツールの構築を目指す。本装置は、基礎医学、薬学分野から臨床まで幅広い分野で活躍が期待できる、医工学装置となると考えられる。
本研究のポスター発表(写真1/PDFに記載)は、発表時間を超過した後も、質問を受け議論を行うほど、活発かつ有意義に行えた。質問・コメントも多数いただいたが、その中でも、ペプチドは精製や実験の際に、溶解しないなどの調製が難しい配列がどうしてもあり、本手法でその問題を解消できすばらしいというコメントや、構築手法を是非教えてほしいというコメントなどポジティブなものが数多くあったことが印象的であった。本技術は、応用分野に直結して寄与することはおそらく少なく、基礎研究段階で大いに活躍が期待できる方法論的な要素が強い内容であるが、その重要性はペプチドを専門に扱っている研究者の皆さまに、理解・評価いただけたようであった。また、構築手法を教えてほしいというコメントを戴いた研究者とは今後、共同研究を模索することを提案していただいた。今後、ぜひ本技術を起点にして研究の幅を広げていければと思う。

3)出席した成果
ペプチド(小型タンパク質)を中心とした研究を行っている、欧州、アメリカ、オーストラリアの第一線の研究者や学生、若手研究者との技術交流が深められ、我々の最新の成果と彼らの最新の研究成果とを共有することができた。特に、メルボルン大 Akhter Hossain 博士、ドイツ国立ガン研究所 Ruediger
Pipkorn 博士と面会し、彼らの研究成果と我々の持っている技術について議論を行うことができ、新テーマ開拓、共同研究のきっかけとなった。さらに、Ruediger Pipkorn 博士のお知り合いの研究者の方たちとも交流でき(写真2/PDFに記載)、今後の自分の研究を進めていく上での大きな糧となった。

4)その他
以上のように、今回の学会参加は、様々な交流が行え、今後の私の研究の発展において重要な礎となる有意義なものとなりました。また、今回の発表は貴財団の平成 25 年度奨励研究助成に採択された研究が進展し、その成果の発表ということでご支援のご理解をいただけたのだと認識しております。このような本国際会議への参加に際して多大なるご支援を賜りました中谷医工計測技術振興財団に心より御礼申し上げます。