2017年[ 技術交流助成 (海外派遣) ] 成果報告 : 年報30号補刷

平成28年度 技術交流助成成果報告(海外派遣)・グェン タン ヴィン

研究責任者

グェン タン ヴィン

所属:東京大学 IRT研究機構 特任研究員

概要

会議等名称 The 69th Annual Meeting of The American Physical Society ?Division of Fluid Dynamics
開 催 地 ポートランド、オレゴン州、アメリカ時 期 2016 年 11 月 20 日~11 月 22 日

1)会議又は集会の概要
今回参加した「69th Annual Meeting of the APS Division of Fluid Dynamics」は、アメリカ物理学会流体力学部門の第 69 回年次会合であった。この会議は流体力学の分野における最大規模の学会であり、米国だけではなく、アジア・欧州各国から多くの研究者が参加している。今年はオレゴン州のポートランド市に 11 月 20 日から 22 日まで開催されていた。来年はコロラド州のデンバー市で開催される予定である。

2)会議の研究テーマとその討論内容会議の発表テーマ
今回の会議では、約 3000 件の研究発表が行われており、それらの内容は流れ、液滴の力学、バイオ流体力学、航空力学といった幅広い分野に関するものであった。液滴力学の中でも、液滴の振動、滑り、衝突などの様々テーマに関する研究成果が発表されていた。会議での発表形式は口頭発表が主となり、同時に約 40 セッションがパラレルで行われていた。招待講演として、マイクロ流体の分野のプリンストン大学の Howard Stone 先生、流体と生物ロコモーションの分野のジョージア大学の David Hu 先生、NASA の Don Pettit 氏などの発表が行われていた。また、ポスターセッションとともに、ビデオコンテストが行われており、約 75 件のビデオが提出された。

討論内容
発表題目:Direct measurements of the pressure distribution along the contact area during droplet impact(和文:液滴衝突における接触面における圧力の直接計測)
会議で発表した研究成果は微小液滴と固体平面との衝突時における、液滴の接触面の圧力分布の直接計測に関するものであった。液滴と固体表面との衝突は自然界でよく観察される現象にも関わらず、未解明な部分が多い。また、液滴の衝突はインクジェットプリンティング、3D 細胞プリンティングやスプレーといった様々な産業応用も試みられている。このため、液滴と固体表面との衝突 のメカニズムを解明することは学術的に重要であるのみならず、産業応用としても期待されている。
固体表面に衝突する液滴のダイナミクスを決定する最も重要なパラメータは、液滴と固体表面との接触面における圧力分布である。したがって、液滴の衝突のメカニズムを解明するためには、接触面にどのような圧力分布が発生し、それが時間とともにどのように変化するかを明らかにすることが何よりも重要である。我々は、固体表面に微小な力センサアレイを形成し、液滴衝突時の接触面における圧力分布を直接計測できる手法を初めて実現した。計測結果から、液滴が固体表面に接触した直後に圧力が接触面の中心で最大となることがわかった。また、その圧力の最大値は、古典力学から予想される動圧(=ρv2, ρ は液体の密度、v は衝突速度)よりも 10 倍以上も大きいことが明らかになった。この結果は、直径の数 mm という小さな液滴の衝突でも、ウォーターハンマー効果が大きな圧力を発生させることを示唆していた。

3)出席した成果
今会議で研究発表を行ったことにより、私の研究成果を流体力学の分野の研究者に発信できたとともに、新しい研究の展開についてのディスカッションも充実にできた。発表した研究成果に関して多くの研究者が関心を持ち、発表の後に直接に質問しに来てくれた。今回の会議でいただいた質問及びそれらに対する答えを下記にまとめる。
質問1:計測した力の定義について:計測した力は接触面に積分したものか?
答え:いいえ、それぞれの各場所での力である。
質問2:ウォーターハンマーの効果だと、圧力が接触面のエッジで最大となると予測されていたが、なぜ計測した力は接触面のエッジに最大にならなかったか?
答え:エッジのおける表面張力による引っ張りの力が発生するので、センサに働く合力が小さくなるためである。
質問3:なぜ液滴がセンサと接触し始めると、力がマイナスになったか? 答え:液体の表面張力による引っ張りの力が発生したためである。
質問4:力センサはどうやってキャリブレーションしたか?
答え:キャリブレーション専用のフォースプローブを製作して、ピエゾアクチュエータを用いてセンサに押し付ける。

4)その他
今回の学会参加を助成していただいたことに、心より感謝する。本学会で得た成果を生かして、今後はより発展的な研究成果をあげ、論文誌等への投稿にもつなげてゆきたい。