2017年[ 技術交流助成 (海外研修) ] 成果報告 : 年報30号補刷

平成27年度 技術交流助成成果報告(海外研修)・李 鎭煕

研究責任者

李 鎭煕

所属:東京農工大学大学院 工学府 生命工学専攻

概要

研修先名称 Universit? Lyon 1 - Claude Bernard
研修地 Batiment CPE 43, bd du 11 novembre 1918 69622 Villeurbanne, Cedex, France
期間 平成 28 年 6 月 18 日~10 月 16 日

1)研修中に実施した研究テーマ
本研究では、より簡便にヒトゲノム中の DNA メチル化の検出を行うことを目的に、複数 DNA の同時検出技術の開発を試みた。
近年、特定遺伝子領域のメチル化レベルが、特定の疾患と関連していることが分かってきており、早期かつ正確な疾患の診断を可能にする、新たな診断指標として着目されている。我々はこれまでに、DNA 結合蛋白質(ジンクフィンガー蛋白質)に標識酵素を融合した人工蛋白質を用いることで、標的遺伝子領域のメチル化を検出するシステムを構築してきた。一方で、研修先である Blum 教授の研究室では、プレートにスポットした DNA プローブを用いて、複数の標的 DNA を同時に検出する技術を有している。今回はこの2つの技術を組み合わせることで、多数の遺伝子領域における DNA のメチル化を、一度の測定で同時に検出する技術の開発を目指した。

2)研修期間中の研究成果
今回の研修ではジンクフィンガー蛋白質及び DNA スポット技術を用いて、複数 DNA の同時検出技術開発を進め、以下の2点について達成することができた。
1.アルカリフォスファターゼを融合したジンクフィンガー蛋白質の作製・調製
2.スポット DNA プローブを用いた合成オリゴヌクレオチド DNA の検出
1.ジンクフィンガー蛋白質としてはマウス由来の Zif268 を用い、標識する酵素として大腸菌由来のアルカリフォスファターゼ(ALP)をその C 末端にペプチドリンカーを介して融合されるようデザインした。作製した人工蛋白質(Zif268-ALP)は大腸菌 BL21(DE3)を用いて組換生産を試みた。
37℃で 24h 培養後、菌体を超音波によって破砕、遠心分離した後の上清にアルカリフォスファターゼ活性を確認することができた。この破砕液及び、Strep-tag II を介したアフィニティークロマトグラフィーによる精製後の蛋白質の状態をポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で確認したところ、目的の蛋白質(約 59 kDa)のバンドが観察された(図/PDFに記載)。精製後蛋白質はアルカリフォスファターゼの活性を 51 U/mg 程度維持していた。

2.異なる配列を有する DNA プローブをプレート上にスポットし、そのスポットした各プローブ、及び Zif268-ALP を用いて標的一本鎖 DNA の検出を試みた。
まず各スポットが 1013 コピー程度のプローブを含むようにプレート上にスポットした。配列としては、Zif268 の認識する配列(5′-GCGTGGGCG-3′)を含むものと含まないもの、そしてそれぞれの相補鎖の、計4種類を用いた。
各プローブがスポットされているプレートのウェルに検出対象の一本鎖 DNA を含む溶液を加え、95℃ に熱した後、室温まで冷ますことでプローブと標的 DNA をハイブリダイズさせた。その後、Zif268-ALP を含む溶液を加え、プローブと二本鎖を形成した DNA に結合させた。またコントロールとしてはストレプトアビジン-アルカリフォスファターゼ複合体( SA-ALP)を用いた。SA-ALP はZif268-ALP と異なり、配列特異性を有さないため、標的一本鎖 DNA に修飾されているビオチンに、配列に関係なく結合する。Zif268-ALP 及び SA-ALP の DNA への結合は、発色基質である BCIP/NBT を用いることで可視化した。
結果を図2に示す。一本鎖 DNA を加えなかった場合は Zif268-ALP 及び SA-ALP いずれの場合においても ALP の酵素反応由来の発色が観察されなかった。このことから Zif268-ALP 及び SA-ALP は一本鎖状態のプローブ DNA には結合しないことが分かった。そして、標的の一本鎖 DNA を加えた場合は、それに対応する DNA プローブがスポットされている箇所で発色が観察された。一方で、SA-ALP を用いた場合、Zif268-ALP の認識配列が存在しない DNA プローブ上でも発色が観察された。このことから、DNA のハイブリダイズだけでは見分けられない場合でもジンクフィンガー蛋白質を用いて再度配列をチェックすることで、より正確に標的 DNA の検出が行えることが分かった。
しかし一方で、スポットした DNA プローブ、または加える標的 DNA のいずれか一方に Zif268 の認識配列が存在する場合でも Zif268-ALP が結合し、スポットが観察されてしまった。つまり、二本鎖のうち、どちらか一方の鎖だけに認識配列が存在している場合でも Zif268-ALP が結合していることが分かった。これは DNA プローブの配列や長さの調節、Zif268 を二本鎖 DNA に結合させるときの温度や緩衝液の組成を最適化することで改善できると考えている。
また、標的一本鎖 DNA の検出下限を調べたところ、1010 コピーの DNA を加えた際でもスポットの発色を観察することができた。1010 コピーの DNA を検出することができれば、PCR による増幅を利用することで 106-107 コピー程度のゲノム DNA におけるメチル化を検出することが可能である。106-107 コピーの DNA とは 1 mL の血液や直径 1 mm の腫瘍から得られるヒトゲノム DNA 量であり、これは実際の診断の場面を考えた場合に実用的な感度であると考えている。

3)その他
メチル化 DNA の検出については、グルコース脱水素酵素を標識酵素として融合したジンクフィンガー蛋白質を用いた測定法の開発に成功しており、結果については本留学中に米国で開催された学会である、Pacific Rim Meeting on Electrochemical and Solid-State Science 2016 (PRiME 2016)にて口頭発表を行った。また、Blum 教授のグループとの国際共著論文として、Biosensors and Bioelectronics に投稿し、受理された*。

また、国立成育医療研究センターと共同で DNA メチル化の迅速簡便計測の開発を行っており、現在実施中の AMED 先端計測プロジェクトの基盤技術の一つとして本研究成果を応用展開する予定である。
*「J. Lee et al. (2016). Development of an electrochemical detection system for measuring DNA methylation levels using methyl CpG-binding protein and glucose dehydrogenase-fused zinc finger protein. Biosensors and Bioelectronic, 1?6.」