2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

山陰海岸ジオパークを活用したジオパーク教育旅行の開発-山陰海岸ジオパーク推進協議会と連携して-

実施担当者

瀧本 家康

所属:神戸大学附属中等教育学校 教諭

概要

1.はじめに
 2015年9月現在,日本には39地域の日本ジオパークがあり、そのうち8地域が世界ジオパークに認定されている.
 本校が位置する兵庫県の日本海側は世界ジオパークに認定されており(山陰海岸ジオパーク),その貴重な地質・地形遺産を教育に活用することは生徒の身近な自然に対する理解を深め,郷土愛を育むためにとても有用であるといえる.
 近年,ジオパーク域内に位置する中学校や高等学校においては,その利点を活かしてジオパーク学習が充実しつつある1~4).しかし,ジオパークから離れた地域における体系的なジオパーク学習の事例は見受けられない.
そこで,本研究では,ジオパーク地域から離れた学校においても活用できる汎用性の高いジオパーク教育旅行の開発・実現に向けた予備調査・研究を行うこととした.
 汎用性の高いジオパーク教育旅行の開発は,世界ジオパークや日本ジオパークに認定されている地域すべてにとって有用であり,他地域に対するモデルとなりうる.そして,ひいては今後のジオパーク教育の発展のきっかけとなるとも考えられる.


2.方法
(1)研究主体
 汎用性の高いジオパーク教育旅行の開発にあたり,本校4年次(高校1年生相当)における総合的学習の時間を利用することとした.これは,ジオパーク教育旅行の実際の主体者となる生徒自身の考えや希望を中心に教育旅行を開発することを意図したためである.
 そして,山陰海岸ジオパーク推進協議会(以下,推進協議会)と連携し,山陰海岸ジオパークのジオパーク教育開発のモデル校として認定を受けることで協議会と協力しながら教育旅行を開発することとした.これは,教育旅行の開発において,山陰海岸ジオパークの窓口である推進協議会が目指す教育目的に合致することが重要であると考えたためである.
(2)研究実施時期
 2014年4月から2016年2月までとした.


3.結果
(1)ジオパーク教育旅行の目的とねらい
 有意義なジオパーク教育旅行を開発するためには,その目的とねらいを明確化することが重要である.そこで,まず教育旅行の開発に先立ち,生徒と推進協議会による協議の場を持ち,教育旅行の目的とねらいを検討した.その結果,以下の3点を教育旅行の目的とねらいとすることとした.
○ジオパークを活用した教育旅行の目的
①山陰海岸ジオパークの各ジオサイトの特徴を学ぶとともに、地質・地形と人間生活の関連を学ぶ。
②山陰海岸ジオパーク推進協議会が作成した散策モデルコースを活用し、各ジオサイトをめぐりながら、地学基礎で学んだ事物・事象を実際に見学することで、地学的に探求する能力と態度を育てる。
③自分たちが住んでいる地域の地形の成り立ちと人々の生活・歴史・文化を山陰海岸ジオパークと比較することで、自分たちの住んでいる地域を再発見し、地域に誇りを持つことができる人間性を醸成する。
○教育旅行のねらい
①生徒が主体となって教育旅行を企画、運営する事で、物事を探求する力、渉外能力、生活態度や社会性を育む。
②班別自主行動を取り入れることによって、生徒どうしが協力して物事に取り組む素地を育成する。
③卒業研究も視野に入れた個人の研究課題を設定し,教育旅行実施前後の学習・探究を深める。

(2)教育旅行の一例
 以下に,上記目的とねらいを達成しうる教育旅行案の一例を示す.
①宿泊場所
山陰海岸ジオパーク内の民宿に男女別に分泊(生徒の負担が多ければ、地域外の宿泊施設を活用)
②費用(生徒負担額)
1人あたり10,000円~15,000円
③教育旅行の企画・運営実施体制
(ア)ジオパーク教育旅行実行委員会を設置し,生徒が主体的に教育旅行に取り組む。
(イ)実行委員会の生徒が中心となって様々な教育プログラムを企画、運営を行う。
(ウ)学年の教員に加え,理科や社会科の教員にも協力を依頼し,ジオパークの自然・人文科学に関する学習を深める。

(3)ジオパークを活用した教育旅行プログラムの学習指導計画概要
 ジオパーク教育旅行を単発のイベントとしてではなく,継続的なジオパーク学習の一貫として位置づけ,総合的学習を利用した場合を想定した年間学習カリキュラム案を作成した.

(注:表/PDFに記載)

(4)研究成果発表
 開発した教育旅行案について,専門家から意見をもらい,より良い案に改善するために,日本地理学会等を利用して学会発表を行った.以下に,発表に用いたポスターの一例を示す.
2015年9月に実施された第4回アジア太平洋ジオパークネットワークシンポジウム(APGN2015)では,海外のジオパークの専門家に対して,英語を用いて成果の発表を行い,多くの意見・アドバイスをもらうことができた.


4.まとめ
 本研究では,山陰海岸ジオパーク推進協議会や地元の大学,高等学校と連携して,ジオパークを活用した教育旅行のモデルプランの開発を行った.
 実際に現地に足を運び,ジオパークの魅力や特徴を学んだ上で,ジオパークから遠方の学校であっても利用できるプランニングを作成することができた.
 本プランでは,特にジオパークを見学するだけに留まらず,現地の大学・高等学校と高等学校と交流活動を組み込んだ点が特徴となっている.
 これは,現地の学生と交流することによって,単なるジオパークから「友人のいるジオパーク」に認識が変わり,その後の生活においてもジオパーク地域を意識する機会が増えると考えたためである.
 本研究では,実際にプランを実行することができなかった点が課題である.今後は,実際に本プランを試行実施し,課題点を見出した上で,よりよいプランに修正していく必要がある.