2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

山形県水産試験場、山形県立加茂水産高等学校と連携した「鶴南ゼミSS探究(鮮度測定)」-「K値を用いた窒素氷による鮮度保持の評価」-

実施担当者

猪口 俊二

所属:山形県立鶴岡南高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 本校は、平成24年度より文部科学省よりSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定され、その取組の一つに、3年間を通じて全校生徒が行う探究活動「鶴南ゼミ」がある。その2年次に2年生全員が取り組む「鶴南ゼミ探究」の中で行われている「鶴南ゼミSS探究(鮮度測定)」では、これまで過去3年間の間、山形県水産試験場の指導を頂きながら、山形県がブランド化を推進している「おばこサワラ」の鮮度評価の科学的な根拠の指標の一つであるK値の測定を行ってきた。また、これまで漁業者の経験則に寄ることが大きい鮮度保持方法の違いに関して、「マダイの神経締めと野締めでのK値の経日変化の違いとその考察」「シャーベット氷と淡水氷で鮮度保持したアジのK値の経日変化の違いとその考察」に関して研究と考察を行ってきた。今回の取組では、普通高校でSSHに指定されている本校と専門的な知識、設備を有し、山形県水産試験場と近隣に位置するSPH(スーパープロフェッショナルハイスクール)に指定されている山形県立加茂水産高等学校と連携し地域で抱える共通の課題に協働で取り組むことで、より効率的で効呆的な研究が推進できると考えた。また、その研究成呆を普及することにより「庄内産の海産物の評価を高め」魅力ある地域の活性化の一端に寄与することができたら双方の生徒にとっても貴重な体験となると共に、今後の新たな課題解決に向けた興味関心や意欲を広げる絶好の機会となることが予想される。また、この様な取組が、普通高校、実業高校、研究機関が連携して取り組む探究活動の実践例として県内に普及させることができると考え、この度の取組の実施に至った。

『K値について』
 魚の鮮度(魚の筋肉中のタンパク質の分解の進行度)を表す指標のひとつ。K値が高いほど鮮度が低く、K値が低いほど、鮮度が高いと判断される。
 魚が死ぬと筋肉中でATP→ADP→AMP→IMP→HxR→Hxの順で分解される。ATPが減り、Hxが増えるにつれて、鮮度が落ちると判断する。(魚の筋肉中のタンパク質の分解の進行が進んでいる。)
 鮮度計で使用する酵素がATP→ADP→AMP→IMP→HxR→Hxの順で分解するときに溶液中の酸素を消費するので、分解に要した酸素に対してHxRとHxが分解する際に要した酸素の割合をK値として機械は測定している。
K値%(K-Value)={(HxR+Hx)÷(ATP+ADP+AMP+IMP+HxR+Hx)}×100(%)


2 実施内容
2-1 水産試験場を訪問しての学習
 普通高校である、鶴岡南高校では普段の授業の中で、地域の課題や産業について詳しく学習する機会が限られている為、ゼミ選択者を引率し、これまで指導頂いている連携先の山形県水産試験場を訪れ、浅海増殖部の高橋主任専門研究員より、試験場が近年取り組んできている漁業振興に関する課題やその対策、実際に試験場でも行われている鮮度計の使用方法等についての説明を頂いた。
(図1)参加した生徒も、初めて耳にする内容に少々戸惑いながらも、今後、水産試験場、その隣に位置する加茂水産高校との連携した「鮮度保持方法に関する研究」への取り組みの意欲を新たにした様子であった。

2-2 山形県立加茂水産高等学校を訪問しての学習
 連携先のSPH校である山形県加茂水産高等学校を訪れ、SPH担当の板垣寿勇先生に加茂水産高校が課題研究で取り組んでいる「『窒素氷』を用いた鮮度保持に関する研究」についてのお話しを伺い、更に、『窒素氷』を作り出す機械を見学させて頂き、溶存酸素量が通常の10%以下の『窒素水』やそれらを凍結させた『窒素氷』を実際に味わうと共に、今後、窒素氷と測定サンプルを提供して頂けるお話しを頂き、今後の研究計画に大きな前進が見られた。(図2)

2-3 校内での活動(測定の開始)
校内での活動として、K値の測定の原理や使用する鮮度計の操作の学習をした後、実際に、鮮魚店でサンプルを購入しK値測定のトレーニングを重ねた。その後、連携先の山形県立加茂水産高等学校より、測定用サンプルとして生きた「アジ」(図4)と窒素氷(溶存酸素量0.16mg/Lの水を凍結させたもの)を提供して頂き、更に水槽から取り出したアジをその場で、山形県水産試験場の高橋主任専門研究員に神経破壊の処理をして頂き(図3)、24時間、通常の氷で(溶存酸素量6.5mg/Lの水を凍結させたもの)鮮度保持したものと窒素氷で鮮度保持したものについて、K値を測定し値の経日変化を比較した。夏季で高温の実験室での操作の為か、なかなか予想される値が出ない中、生徒達は一生懸命頑張って多くのデータを得るべく実験を続けたがエラー値が続出した。その後、水産試験場の高橋主任専門研究員に相談したところ、次の二点に関してアドバイスを頂いた。
①鮮度計の反応セルヘ気泡が入らないように十分に注意をすること。
②抽出した試料を酵素と反応させる前に中和操作を行うがその際に塩基を加えすぎないこと。
 これらの点に十分に注意して測定操作を行ったところ、測定値が安定してきた。夏休みも終わり、10月13日に予定されている「『鶴南ゼミ』中間発表会」までには、発表に足るだけのデータを集める必要があり、サンプルも尽きてしまったところ、再び、加茂水産高等学校にお願いして、以前提供して頂いた「アジ」と同様の鮮度保持を施した「マダイ」(図5)を提供して頂き、再び、K値の測定を行った。
 9月になり、実験室の気温も、真夏ほど高くもなく、提供して頂いた「マダイ」のK値の連続した測定を行った。そして、それらの測定データを下に、発表ポスターを作成し、「鶴南ゼミ中間発表会」に臨んだ。生徒達は、事前に役割分担を決め、来場者に対して、研究の背景や手順、方法等について発表を行った。
 例年、本校では、11月に台湾への進路研修を行っており、交流先の台北市立建国高級中学と「中間発表会」で選ばれた研究内容を英語を用いて互いに発表し合う研究交流会が行われているが、本研究も推薦を受けた為、本校英語科の協力を頂き内容を英語でのスライドに直す作業を行った。
 また、進路研修実施前に1、2年生合同で英語発表リハーサルが行われるため、校内で発表練習を重ね、リハーサルと海外進路研修に備えた。
 初めは、たどたどしい英語の発表であったが、英語の授業での指導や練習を重ねる節に発表の内容も徐々にしつかりしてきた。
 リハーサルでは多くの聴衆を前に堂々と発表を行った。台湾での発表も無事に行うことができた。


3 まとめ
 加茂水産高等学校より、『真水氷』と『窒素氷』で鮮度保持した(塩分3.5%の窒素水に濡らしたガーゼで魚体を覆い、その下に、それぞれの氷を敷き詰め、発泡スチロールの容器に入れた。)マダイを提供して頂き、内蔵と血合いを取り除き、乾燥を防ぐために塩分3.5%窒素水で濡らしたクッキングペーパーとラップで包み、トレイに入れインキュベーターにて2.5℃で保存。鮮度計KV-202にてK値を測定し、経日変化を比較した。K値の測定では3~4サンプルを測定し、平均を求めた。(値が大きくかけ離れたものについては4d法により平均から除いて求めた。)
 『真水氷』と『窒素氷』で鮮度保持したマダイについて、K値の変化を比較したところ、『窒素氷』で鮮度保持したサンプルの方が、『真水氷』で鮮度保持したものより、K値の上昇の度合いが、緩やかであった。よって、『窒素氷』のによる鮮度保持が、『真水氷』によるものより有効であるのではないかという結論に至った。なお、これらの結果は3月28日に東京海洋大学で行われる平成29年度日本水産学会春季大会における「高校生による研究発表」でポスター発表する予定である。更に、次年度以降も加茂水産高等学校と共同研究を進めていく予定である。『窒素氷』を用いた鮮度保持方法への評価ができたことはとても良かったと思うが、それ以上に、普通高校でSSHに指定されている本校と専門的な知識、設備を有し、山形県水産試験場と近隣に位置するSPH(スーパープロフェッショナルハイスクール)に指定されている山形県立加茂水産高等学校と連携し地域で抱える共通の課題に協働で取り組むことができたこと。また、数々の発表機会を経験してゼミ生徒のコミュニケーション能力が大きく伸長したことが大きな成果だったと感じている。

(注:図/PDFに記載)